一旦店の中で食事する二人から距離を取り自らも店の席に座り適当に料理を頼んだトレイン。先程のイライラは何処にいったのか、随分気持ちは落ち着いていた。二人が仲がいいのは仕方が無い事。無理矢理思ったからかもしれない。


「…けどやっぱムカつく。何で明は顔を赤くしているんだよ」


ここからじゃ何を言っているかがわからないが、見た限りではユヅキが明に何かを言って顔を赤くしているのは確かだ。…まさか自分の事でまたからかわれてるだけとは知らずに。
思わずフォークを持っている手に力が入る。邪魔をしてはいけないとは頭では理解出来ていたとしてもつい間に入りたくなってしまう。流石にそれはまずいなと自分を落ち着かせる為に先程来た料理を口にした、瞬間だった。


「何なんじゃあやつは!!」

「ぶーっ!?」


いきなり自分の前から聞こえてきた声に驚き吹き出すトレイン。周りからは汚いと冷ややかな眼差しを向けられていたが驚かない方が無理があるだろなんて咳き込みながらも心の中でツッコミを入れる。一人で座ったはずなのにいつの間にかもう一人同じテーブルの席に座っていたなんて全く気づいていなかった。確かに余所見はしていたが、わかるはずだ。ならば只者ではないーーーそう思いトレインは前にいる人物を見る。


「…は?」

「へひはらん、ふぁったくへひはらん!」


トレインは人物の姿にも驚いたが、何よりもせっかく自腹で払うつもりで頼んだ料理をその人物が頬張っていた事にも驚いていた。イマイチ状況についていけないが、唯一出た言葉は。


「何なんだお前ー!!」


とりあえず人が頼んだのを勝手に食べていた事、同じテーブルの席に座っていた事、その他諸々全てを含めて出た言葉。あまり大声では言いたくなかったが、こればかりは仕方が無い。唯一明達には気づかれていないのが救い。
トレインが食べるなと皿を引っ張る。すると口の中に入れていた物を飲み込みその人物はトレインを見る。


「何だ、つれん奴じゃのう」


毛先は白いが蒼い髪、ダボダボな服。紫の瞳。そして四つ葉のクローバーが入っている白い透明のケースをネックレス。言葉は年寄りくさいが見た目は若い男。容姿を見てトレインは先日ユヅキがシズクの頼みで探していた人物の事を思い出す。確か名前は…と思い出していたら男はこの店のメニューを見て店員に注文しようとして…。


「ってさせるかっ!」

「おおうっ!?メニューを取るな!」


すかさずメニューを取るトレインは段々疲れてくる。男に頼ませない様に持ちながら再度男を見た。拗ねているのか爪楊枝で歯に挟まっている物を取ろうとしながらも文句を言っている。


(名前は確か…カーシェ、だったか。にしてもこいつ何なんだ?人の食い物を無断で食べるなんてよ…)

「ワシの為に頼んでくれたと思ったからのう」

「は…?何で」

「考えている事がわかったか、だろ?決まっておる!ワシは天才だからのう!」


トレインが言いたい事も見抜いたのかドヤ顔で告げるカーシェにトレインは何故かイラついた。誰がお前の為に頼んだんだ!あと天才の奴は自分で言わねぇよ!…そう口にしたいのだが無駄な体力は使いたくない。感情を抑える事に専念しながらもトレインは息を吐いてカーシェに訊ねた。


「シズクと知り合いのあんたが俺に何の用だ?」

「勘違いするな、ワシはお前に用がある訳じゃない」


だったら何で俺と同じ席に勝手に座ってんだ。思わず口が滑りそうになる所をメニューを持つ手に力を込める事で抑える。最もカーシェにはトレインが考えている事が全て筒抜けの様で「怒るな怒るな」など笑顔で言うが、原因はカーシェだ。その原因に言われると尚更腹が立つもの。


「ワシが用があるのはな…あやつじゃ」

「…ユヅキ?」


向けられた視線の先にはユヅキ。確かにシズクと知り合いならばユヅキの事も知っていてもおかしくはない。そもそもカーシェがシズクとどういう関係なのかは知らないが何故ユヅキに用があるのかが気になりカーシェに訊けばカッと目を見開いて。


「あやつはワシの敵じゃ!ワシの女を誑かしおって!」


世界で一番愛しているワシの女に平然と近づき、ワシは話す事さえ嫌がられるというのにあやつは話しかけられるし、挙句この前は涙を見たじゃと!?ワシはあやつを絶対に許さんぞ!そもそもーーー。
話す度にヒートアップしていくカーシェにトレインは頭を抱えたくなった。一旦整理をする。ユヅキの近くにいる存在。明ではないのはわかる。彼女はこの前初めてカーシェに会ったのだから。となると考えられるのは…シズク。


「そうじゃ。シズクはワシの女」

「嘘だろ。嫌がられてるって言ってたじゃねぇか」

「あれは照れ隠しだ。ツンデレだからのう。そんな所も好きだがの」


間違いなく嫌がってるだろうな。シズクを思い出しているのかうっとり顔のカーシェを見ながら思った。まだ出会って時間は経っていないのにかなり疲れる。ここまで疲れる相手は初めてだと思いながら水を飲む。
次には瞳にうっすら涙を浮かべるカーシェは握った拳を机に叩きつける。盛大に音が響きトレインは慌てて止めたが遅かった。


「お客様。他のお客様のご迷惑になりますので」

「ふむふむ、確かにな。ほれ、静かにしないと駄目だろう」

「お前が言うな!」


カーシェの言葉に言い返せば店員の顔がますます険しくなった。出るしかない。仕方なくトレインは席を立ったのだが、同時にカーシェも立ち上がり腕を掴んできた。一瞬で嫌な予感を感じたトレインは見るからに嫌そうな表情。しかし反対にカーシェはニコニコと嬉しそうな表情。


「ワシも共に行こうではないか。遠慮するな、何かの縁じゃ!」

「来なくて…なっ、勝手に引っ張るな!おいっ!」


頼みもしていないのに関わらずそのまま出ていこうとするカーシェ。お金を払っていないから、引っ張られながらもレジに代金を置いていく。
明達と離れてしまってはついてきた意味がない。今すぐ振り払いたいのだが、細い身体に比べ力はあり中々振り解けない。結局トレインはカーシェの思うがままにされたのだった。




 


[prev] [next]

back


 
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -