司が次に目を開ければ一番最初に自分の剣が目に映る。手を伸ばして剣を持つと怠さが残る体を支える様にそれを立て、立ち上がる。


「お目覚めかな」


眼鏡を上げながら言うドクターに何も答えない。剣を鞘に直し、まだふらつく体をなんとか支える為に今度は壁に背中を預けてドクターを見る。


「…全部聞いていたわ。私は彼女のもう一人の人格なのね」


静かに言う司にドクターは『予想外だ』と言うように少し驚くドクター。まさかもう一人の司が聞いているとは思ってなかったのだろう。
本来の司とドクターが話していた事を先程本来の司が言っていた薄暗い所で聞いていたもう一人の司はようやく理解したと思った。明を殺したい程憎んでいるはずなのに、不意に『殺しくたくない』と思う理由。気づけば涙を流していた理由。全ては本来の自分が原因だったのだと。まさか自分がもう一人の人格とは思いもしなかったが。


「理解した上で君はどうするつもりだい?」

「明を殺すわ。私が生まれた理由はそれが原因なのよ」


自分の存在を知った上で躊躇いもなく言う司にドクターは笑う。それから、と続ける司は言う。自分を表に出すナノマシンを壊してほしい、と。当然ながらドクターは了承するわけがなかった。そう言うと予期していたのか司は何故そのように言ったのかを口にする。


「本来の私はもう二度と出ないわ。…どうやら自分のせいだった事がかなりショックだったみたいね。だからもうナノマシンはいらないのよ。万が一戻る様な事があれば直ぐに殺してくれればいい。逃げも隠れもしないわ」


偽りではなく真実を告げている司をもう一度ドクターは見る。するとドクターは面白そうに笑い、「いいだろう」と部屋から出ていった。残された司はベッドに倒れ込む。


「明を憎む気持ちが大きくなって出来たのが私…か。なら私があの子を殺したら私という存在は消えるのかな」


消えれば本物の自分はどう思うのか。恐らくもう一人の自分を生み出した自分自身を憎むだろう、と考える。今だってそうだ。まさかこんな事になるとは思いもしなかったから、もう表に出る気力すら感じない。前までは自分の胸に何かがいるような気がしたのに。それすらも感じない。


「…私がやる事は…もう、答えは出てるわね」


どこか寂しそうに笑う司。一度目を閉じれば明や両親、他の友達などの顔が思い浮かぶ。最後に思い浮かんだのは…梓。


「今この場に梓がいたら…どんな反応をするのかな。もう一人の私を見てどう感じるだろう」

『司は司だろ?まあ…明さんを殺すっていうのは許さないけどさ』


いるはずのない声が聞こえてきて司は頬を緩ませる。そしてそのまま眠ってしまった。―――頬に伝う涙に気づかずに。
 
 
 
 
 


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