「やはり君は自分の事を全くわかっていないのだな。君は明を憎んだ事が多くあるはずだ」
「なっ、そんなのあるわけ…!」
『明はどうして梓と仲が良いのだろう。梓は私の彼氏、なのに…』
ドクターの言葉を否定しようとした瞬間、不意に元の世界にいた時に呟いた自分の言葉を思い出す。そしてその時に抱いていた感情も思い出す。
―――嫉妬。司は明が梓に好意を抱いているなんて思っていない。梓も自分の事を愛しているのは充分にわかっている。
二人の事は信じている。それでもやはり梓が明や他の女子といると、仲良くしていると嫉妬が渦巻く。特に明といる時は尚更だった。信じているはずなのに…もし梓を取られたら。そう考えると徐々に不安になった。そしてそんな自分に嫌気も差していた。
(嫉妬が大きくなって、無意識に明を憎んでいたの…?そんな事…)
「君の体を調べた所、普通の人間とは何かが違っていた。それを追究すれば、もう一つの人格が君の中にあるという事がわかった。理由は…まあ、先程述べた通りだろう」
ずっとドクターに明を憎む様になるナノマシンを注入されているのだと思っていた。だから弱まるのを待っていればいつか彼女の元へ戻れると思っていた。だが違った。本当はそんなナノマシンを注入されていなく、自分と自分のもう一つの人格が全ての元凶だった。
「もう一人の君は表には出ないでずっと引っ込んでいた。だから僕はもう一人の司を表に出すナノマシンを注入したのだよ」
持っていた剣が手から床に落ち、ガシャンと音を立てる。拾う気力は無い。立っているのもやっとのほど動揺する司にドクターは追い討ちを掛ける。
「後はこのような状況になった時の為にある言葉を言えばもう一人の君を無理矢理表に出すようにもしていたのさ」
「ある、言葉…?」
「―――"梓"」
「っ…!?あ、ああっ…!?」
一気に力が抜けて床に膝を付ける司。何度も経験したもう一人の自分に引きずり込まれる感覚。割れそうな程に痛む頭。今回は何故か体が熱くなる。
「ど、…して…!あな、た、がっ…!」
司にとって愛しい恋人の名前を知っているのか。必死にドクターを見ながら声を出すが長くは持たないだろう。ドクターは司を見ながら笑う。
「君を調べている最中に君が何度も口にしていた。明以外に余程大切な人間なのだろう?だからそれをトリガーにした訳だ」
その言葉を聞いた途端ついに床に倒れてしまう。まさか自分の恋人の名前がもう一人の自分を出す事になってるとは。司の意識が遠のいていく。視界がぐにゃりと歪んでもう自分がどこにいるのかさえもわからなくなってくる。
「…あ、ず…さ…」
最後に愛しい恋人の名前を呼んだ司は涙を流しながら意識を手放したのだった。
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