「君はここに倒れていた事を覚えているかな?」
司は自分がいた世界で死んだのはわかっていたが、どうしてこの世界に来たのかは知らない。シズクと出会っていない司は、シズクによってこの世界に来た事を知らなかった。勿論明がここにいる事も知らなかった。
司が目を覚ました時、既に自分は星の使徒の一員として動いていた。自分であって自分ではない自分。何故こうなったのかすら最初はわからず、それを薄暗いよくわからない夢の様な所でもう一人の自分の行動を見ていただけ。その中で自分はナノマシンによりこうなったのだと推測した司。
「誰も使っていないこの部屋に君は倒れていた。当然ながら侵入者かと思ったクリードは君を殺そうとした。が、君が言ったある人物の名前で僕がクリードを止めたのさ」
「…名前?」
「"明"、だ」
『…この女はトレインを誑かす女と知り合いという訳か』
司がここに現れる前、トレインの傍にいる明の事を調べていたクリードは直ぐに理解し殺そうと剣をに手をかけた。しかしドクターは彼は止めた。何故止めると睨むクリードにドクターは眼鏡を上げながら提案した。
『この娘を利用して一番残酷な死を明に与えるんだよ。その後にこの娘は殺せばいい』
話を聞いている司は自分を恨んだ。何故明の名前を呼んでしまったのだろうと。呼ばなければこのような事態にはならなかった。自分が死ぬだけで済んだのに。悔しくて唇を噛み締める。
「クリードの許可も得た僕はまず君の事を調べた。そして面白い事を発見した」
「…もう話さなくていいです。そこをどいて下さい」
これ以上聞きたくないと思った司はドクターを睨む。一歩剣を向けながら近づいてもドクターは引かない。いくら何でも殺すのは…いや、それどころか斬るのは無理だった。もう一人の自分は人を斬った事はある。だが司本人は斬った事など一度もない。先程は強がって言っていただけだ。感覚は覚えているといっても、実際に自分がやるとなると訳が違う。今も手を震わせながら剣を向けている。それを誤魔化す為に口を開く。
「私は明を憎むナノマシンをもう射たせるつもりはないです。だから、」
「君は何を勘違いしているのかな?」
「…勘違い?」
「僕がいつ、"明を憎むナノマシンを注入した"なんて言ったんだい?」
自分が考えられていた事と明が教会で闘った時に言ってた言葉でそうだと思っていた。だが確かにドクターは一言もそうとは言っていない。ならば何故彼女を憎むもう一人の自分が出てくるのかと疑問が出てくる。
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