「っ…!また、だわ…!」
体の力が抜けてその場に座り込む少女ーーー司。先程まで自分の部屋で振っていた剣が手から落ちて床に落ちる。最近よく来る脱力感。まるで自分が何かに引きずり込まれるような感覚。"何か"がわからない司はどうしようもなかった。その時、自分の部屋の扉が開く。息を切らしながらそちらに目を向ければ一人の男がそこにいた。
「司」
「…ドクター。…勝手に、私の部屋に入らないでほしいわ、ね…」
「随分苦しそうじゃないか。やはりナノマシンが弱まっているのだな」
「…?ナノマシンが弱まる…?」
言っている意味がわからない司はただただ苦しそうにドクターを見るだけ。司の身体が持つかわからない為、ほんの少しの間元の自分に戻るようにしていたのがアダとなったか、とドクターは考える。恐らく元の司が表に出ようと抵抗しているのだと考えたドクターは司の顔を見ながら呟いた。
「もっと強めないと駄目か」
「―――その必要は無いです」
「!」
不意に司の声が低くなり自分の剣を手に持ち立ち上がる。そのまま剣をドクターに向けた。先程まで息を切らし苦しんでいたのが嘘の様に、何事も無かったかの様に立っている司をドクターは驚いた表情を見ていたが、直ぐに目を細めて口角を上げた。
「…なるほど。"本来の司"か」
「…初めまして。こうしてあなたに会えるのは初めてですね。いつも変な私だったから」
「そうだな。だが残念ながら君は直ぐに戻ってしまう事になる」
「いいえ、戻らない」
戻らない確信がある司は剣を降ろす気は一切無い。断言する司は理由を言う。今まではナノマシンの影響でどのタイミングかもわからず、少ししか表に出る事が出来なかった。しかし自分が抵抗する事によってナノマシンが弱まっているのを司は日々感じていた。そして今、こうして自分の意思で表に出る事が出来た事によって主導権はこちらが握ったといってもいいと司は思っていた。
「どれだけナノマシンによってもう一人の私が出てこようとしても、弱まっている今なら出さないように出来る。あなたがナノマシンを注入しない限り」
「…ほう。中々の自信だな。僕が君に注入出来ないとでも思っているのか?」
「確かに剣は扱った事など無い。だけど私には道[タオ]がある」
実際に本当の自分が使った事は無いが、感覚は覚えていた。ならばこの場からどうにかして脱出するだけ。
ドクターは訊く。彼女の元に行くつもりかと。彼女とは明の事だとわかり、司は頷く。
「たとえ君が戻っても彼女は君を拒むかもしれない」
「…そうかもしれません。でも私は明を信じてる。親友だもの」
優しく微笑む司。どれだけもう一人の司に憎まれても殺されかけても自分を戻そうとしてくれた明。そんな彼女だから司は信じられる。そう思った。
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