「…昔話はこんなとこだ。あの時クリードが一体何考えてたのか…。理解する気にもならねぇけどよ」


誰も何も言わずにただトレインさんの話を聞いていた。…何を言えばいいのかわからなかった。どう考えても部外者なのに、感情がぐちゃぐちゃになる。一番辛いのは…こうして話しているトレインさんなのに。
トレインさんは自分がクリードから女一人守る事が出来なかった。それが情けない話だと言うトレインさんに、イヴちゃんが呟く。何故サヤさんは最後に自分の事を"忘れていい"と言ったのだろう、と。その事はトレインさんもわからず、掃除屋になってからも頭の中に引っかかっていたらしくて。


「…ルナフォートタワーでクリードと命がけで闘った後、なんとなく思ったんだ。あいつは…自分のせいで俺が過去に捕われる生き方をするのが嫌だったんじゃねーか…ってな」


サヤさんはそういう人だった。いつも他の人の心配ばかりしていたとトレインさんは語る。だとしても、忘れていいなんて言う方も言われた方も辛すぎる言葉だと思う。


「けど…やっぱ忘れるのは"逃げ"なんだ。きっちり過去に決着をつけてから前に進まねぇと…」

「トレインさん…」

「…トレイン」


スヴェンさんが何かを取り出し、トレインさんに見せる。それは手錠だった。これはトレインさんが持っていればいいとスヴェンさんは言う。クリードを捕まえたら自らの手でこの手錠をかけてやりなと笑って告げるスヴェンさんにトレインさんも笑い返し、「おう!」と手錠を受け取った。


「…さて、そろそろ戻って出発する準備でもするとするか」

「そうだね!トレインさん、話してくれてありがとう」

「明。ちょっといいか?」

「え?」


いつまでもティアーユさんの家で長居する訳にはいかないもんね。スヴェンさんの言葉に返事をしながら戻ろうとすれば、突然トレインさんに止められた。戸惑っているとイヴちゃんが「頑張って」と微笑みながら背中をポンと押してくる。いや何を!?と後ろを振り向くとスヴェンさんも笑っていて二人は先にティアーユさんの家へと戻っていった。


「悪ぃな、引き止めて」

「う、ううん。どうしたの?」


この場に二人しかいない事に緊張する。イ、イヴちゃんが変な事言うから二人きりなのを余計に意識してしまって上手く会話出来るか不安になる。


「どっちでもいいんだけどよ、手、出してくれるか?」

「手を?…じゃあ…はい」


首を傾げながらも言われた通りにとりあえず利き手である右手を前に出す。するとトレインさんの手が私の差し出した手に触れる。それだけでも顔が赤くなった気がした。
 
 
 
 
 


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