『あれぇ?まーだ通じないでやんの』


それから10日後、サヤは自分の部屋でトレインに電話をかけていた。しかし何度かけても出る事はなかった。それどころかアパートにすら戻ってきていない事に流石に疑問を抱いていた。勿論トレインが懲罰房入りになっている事など知らないサヤは袋に入った最後の煎餅を口に含みながら困った奴っスねーと呟く。


『…早く帰ってきてよー。大事な話あるんだからさー』


そうして煎餅を一枚食べ終わった瞬間、誰かが扉をノックしてくる音が部屋に響く。返事をしながらサヤは扉に近づいたが、相手は何も喋らない。トレインかと思いながらドアノブに触れようとした瞬間。


『…っ!』


何かが扉の外から貫いてきた。間一髪でサヤは自分を貫こうとした物を自らの銃で防いでいた。貫いてきた物は剣。一歩後ろに下がり警戒をしていれば、ゆっくりと扉が開く。


『思ったよりいい反応をするじゃないか。サヤ=ミナツキ。でも…必ず殺す…!』


中に入ってきたのはクリードだった。初対面であるクリードを見てサヤはただ驚く事しか出来ない。
クリードはサヤに言う。トレインの目は穏やかになったと。トレインの目は自分の剣の刃のように研ぎ澄まされた殺意と危うさを持っていたのに、今はもう見る影もないと。その原因は…サヤが呪いをかけたからだと言う。サヤの事を魔女、と憎しみを込めて呼ぶクリードは改めて自分が何者かを名乗る。


『僕はクリード=ディスケンス。かつてトレインのパートナーをしていた男だよ』

『!』

『トレインは必ず僕が元に戻してみせる。お前を殺して…ね…!』

(な…なんて殺気…!まるで血に飢えた猛獣が目の前にいるような…)


本気で殺すつもりなのは彼から伝わる殺気が物語っていた。クリードは床を蹴ってサヤに斬りかかる。後ろによけたものの、浴衣が軽く斬られる。サヤは直ぐ様クリードの事を危険な人物だと悟った。
一旦距離を取る為に窓から飛び降り、他の屋根の上に着地する。逃がすつもりはないクリードは後を追った。クリードの剣をよけながら少しずつ距離をとる。街の人は何事かとこちらを見ているのを感じ取り、闘うにしても人がいない所しかないとサヤはただ走った。


(そっか…ここんとこ忙しくてすっかり忘れてたけど…。今日は…)


どれくらい走ったのかわからない。気づけば周りに人はいない。代わりに夜空には大量の花火が咲いていた。そんな状況ではないが、サヤは少しだけ花火を見ていた。


『今日この街は花火大会らしいねぇ…。世の中の人間共[クズども]が楽しんでいる中、君は一人孤独に死んでいくというわけだ…』


しかし直ぐに後ろから足音を立てて追ってきたクリードへと目を向ける。楽しそうに笑いながら言うクリードはもう逃げないのかとサヤに聞いた。だがサヤは逃げたわけではなかった。
 
 
 
 
 


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