plus alpha



「すまない…。行ってくる」
「はいはい、楽しんでこいよー」


何度も何度も、留まっては俺の顔を伺う心配性の兄を何とか玄関から追い出して早々にリビングのソファに沈みこむ。

することがないし適当にリモコンを弄っては興味のない番組を流して行く。
世の中はクリスマスで盛り上がってるようで…
この十二宮も例外ではなく、兄は恋人の宮へケーキを持って二人で過ごしに行った。
友人のミロは料理を手伝いながらゆったりと恋人といちゃいちゃするとはしゃいでいたし。
朝方すれ違ったシュラは晩酌のための酒を引っ提げていた。わざわざ恋人の好きな物を選んだのがはにかんだ不器用な笑顔でわかった。

今日は恋人達の年に一度の特別な日。

だが、同じ恋人持ちであっても自分のような者は例外で。
遠距離恋愛をしている自分達は中々会えずにいて、互いにすれ違いばかり。
生きている環境が違うのだから仕方がないとはわかっている。

地上と冥界の違いは地味に大きいのだ。

会いたい。

正直に言えば今すぐ会いたいのだが、理性と経験がそれは無理だと…諦める事を選択する。

今、何をしているんだろう?
冥界は忙しいから仕事をしているかもしれない。
いや、部下達とパーティを開いている可能性もある。


ご飯は食べたろうか…?


「あー、やめだやめ。自分で惨めになってどうする!……酒でも飲んでケーキ食べるか」


兄が自分に、と買ってきたケーキを冷蔵庫から出してビールも二本引き抜く。
甘い匂いを纏わせた小さなホールケーキを引っ張りだすと、メインであるはずの苺が何も乗っていなかった。

「自分で乗せろってか…」
だがまた冷蔵庫に行くのは何だか面倒くさい…
まっ平らな何もないケーキを見ていると、自然とため息が出た。

メインのないケーキは、今の自分の気持ちと相まってかなり寂しく見える……


─ブブブブブッ

「うおっ」

突然ズボンのポケットから振動が伝わりちょっとヒヤッとした…。

最近支給された携帯電話を見ると彼の名前。

「…もしもし」
『お前は良い子か』
「はい?」

わけのわからない第一声よりも、数ヵ月ぶりに聞く恋人の声に口元が喜びを隠せずわなわなしていてちょっと情けない事になっている。

「どういう意味だそれは?子、なんてつけられる歳じゃないぞ俺は。」
『じゃあ良いおっさんか?』
「おっさん…」
『クッ…ハハ。良い子にしている所にはサンタが来るらしいぞ』
「それぐらい知っている。だが俺は子供ではないからプレゼントは貰えない。」
『それは残念だな。俺は出来たらサンタに仕事を減らしてもらいたいぞ。肩こった』
「大変だな…」

仕事の合間にかけているのだろうか…
にしては静かだ。


『なぁ、カノン…─もし、サンタがプレゼントを落としていたらどうする?』
「サンタが大事なプレゼント落とすのか?」
『その可哀想なプレゼント、見つけたらお前が拾ってやってくれ。』


場所はな─…




「…嘘だろ」

「メリークリスマス。トナカイの鼻をもぎ取ってやったら振り落とされた。可哀想なプレゼントは靴下には届けられなかったから拾ってくれ、カノン。」

にっと笑って、赤くて丸いトナカイの鼻の様なキャンディーを自分の鼻に当てて、アイアコスは手を差し出した。

ああ、ちくしょう…


「その鼻ごと貰ってやる!」



メリークリスマス!







December 24, 2012 21:57
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