真っ赤なパーカーを脱がせたあと、半裸になったおそ松から逃げるようにして今脱がせたばかりのそのパーカーに顔を埋める。すん、と鼻先を彼の甘い匂いが掠めて一瞬くらりとしたけれど、それでもいいから、もうわけが分からなくなるまでくらくらしてもいいから、今は真っ赤になってるだろう顔だけは見られたくなくてそこにぐりぐり頭を押しつけた。


「名前、かお」


「…や、やだ、」


「なんで」


「は、はずかし、」


「はあ?名前まだ1枚も脱いでないじゃん。恥ずかしくねえーって」


「っだって、これからおそ松に脱がされるって、かんがえたら、」


恥ずかしいよ。
最後の言葉はのみこんで、どうにか察してくれないかとおそ松のパーカーを思いっきり握りしめていたのだけれど、「んしょ、っと」というその声と共に簡単にパーカーを取り上げられてしまう。


「お、おそま、……っひゃ、」


とりあげられたパーカーは邪魔だと言わんばかりに遠くへ投げ出されて、今度はその手がわたしの胸元へと伸びてくる。今日ははじめからこうする予定だったため、はしたないかもしれないけど、すぐに脱げるような服を着てきたからどんどんボタンを外されて、あっという間にブラウスを脱がされる。「ほおら、手、抜いて?」言われるがまま、されるがまま。パーカーと同じようにブラウスもそこへ放り投げられてしまえば、今の状況にやっぱりどうしても恥ずかしさはなくならなくて、次に手をかけられたスカートを脱がされている間、生理的な涙がどんどんたまっていった。


「つぎ、俺な」


「…っ、」


「名前」


「…わ、わか、てる、」


立ち上がったおそ松の前に膝を立てて、ベルトに手をかける。だいたいここにはそういうことをやる覚悟で来たのだから、いつまでも恥ずかしがってちゃだめだ。いい加減腹をくくらなきゃ。でも、それにしたって「やっべえこれフェラみてえ…」なんて、おそ松ってばほんとにデリカシーないんだから。ベルトループからベルトを抜きとって足元に置く。それから、ここがいちばんの山場だ。既に勃ちあがっているそこをなるべく刺激しないように、フックを外す。やはりキツかったのか、フックを外したとたんに中から下着越しのそれが飛び出てきた。よ、よし、あとは下げるだけだ。


「おそ松、おしり、さわるよ…?」


「あ"ーーりょうかい…もうむしろ何でも触って…いやお願いだから触ってください…」


「そっ、……それは、あとで、でしょ…」


今はとりあえず脱がしっこしてるんだから、脱がなきゃどうにもならない。ジーンズと下着の間に指を滑り込ませてずり下ろす。ゆっくり、ゆっくり。直に肌と指が触れると何度かおそ松の肩が跳ねた。そらからたまに「んっ、」となんとも色っぽい声を出されれば、いつもの彼とは似つかわないそれに、ああ、私ってほんとにこれからするんだなって、改めて思わされる。と、だんだんとジーンズを脱がせていき、ちょうど足首あたりまできたという時に、ふとこの脱がし合いはどこまで続くのだろうと疑問に思って、思わず手がとまった。


「おそ松、」


「なに?」


「あの、さ、これってお互いどこまで脱ぐの…?」


「あーー…んー…そうだなぁ……。……とりあえず俺、名前の全裸が見たい」


「ばっ…!」


「うおっあぶね、なにも殴ることないだろー」


「だっておそ松が…!」


「だぁってよ、俺お前の彼氏だし?一回ちゃんと見ときたいっていうか…」


「……………」


「そんな食い入るようには見ねぇから!それはえっち始まったらにしとくから!」


「……………」


「……だめ?」


「…、………よ」


「ん?」


「……おそ松の裸も見せてくれたら、いいよ」


なあんて、私にしてみたら結構大胆なこと言った、と思う。でも本心には間違いない。だって、私のは見せるのにおそ松のは見れないなんていうのは嫌だし、私だってちゃんとおそ松のこと見ていたい。恥ずかしくて泣きそうになっても、途中でめげちゃうかもしれないけど、私はちゃんとおそ松に抱かれたい。
でも、今の言い方はちょっと、はしたなかったかな。まあこんなことしてる時点ではしたないもなにもないんだけれど。


「いいよ」


「……、…え、?」


まさか、そうやってすぐ返されるなんて思っていなくて、うまく反応できなかった。いいよって、そう言ったときのおそ松の顔がとても優しげで、きゅっと胸が締めつけられる。「おそ松、」上から腕が伸びてくる。そのまま横の髪をさらりと梳かれて、耳にかけられる。それから少しかがんで私と目線を合わせると、鼻の頭にちゅ、と軽くキスを落とした。


「ははっ、なんだよ、その反応」


「う、だ、だって……そんな、即答されるなんて思わなくて…」


「はあ?お前の全裸だけ見て、俺は見せねぇわけないだろぉ〜?……つーか、これからセックスすんだし、お前が嫌っつっても見るはめになると思うんだけど。ていうかむしろ嫌とか言われたら傷つくわ」


「嫌なんかじゃないよ!…でも、そっか、そうだね…」


「ん。ちゃんと見ろよ、俺のぜんぶ。……だから、名前のぜんぶも、俺に見して」


「……っ」


「な?」


「……ん、」


小さな声で、小さく頷いた。聞き取れるかも分からないほど小さな声と、しっかりと見ていないと分からないほど小さな動き。『わたしも、おそ松のぜんぶが見たい。だから、わたしのぜんぶもちゃんと見ていて。』私にとってのせいいっぱいの返事だった。それでもおそ松はちゃんと分かってくれたようだ。ジーンズから足を抜くと足でそれを蹴飛ばして、「名前、ばんざーい」と今度は私のキャミソールを脱がしにかかる。「ブラもいい?」どこで覚えてきたのか知らないけど(どうせAVかエロ本)、おそ松は私が頷くと同時に素早く腕を背中に回してプツン、と片手でフックを外した。ずいぶんと慣れた手つきだから一瞬本当に童貞なのか疑ったけど、露になった胸を唾をのみこみつつ物欲しそうな目で見るってことは、まあやっぱり童貞なんだろう。「…おそまつ、下着」さっきと同じように、立っている彼の前に膝をつく。さすがにこの距離でそれを見るのは、とここは思いきり目をつむって、なるべく触ってしまわぬようにお尻あたりのほうでそれに手をかける。「えー、名前俺のちんこ見てくんないの?」不服そうな声をあげたおそ松をあとでどうせ嫌ってほど見るんだからとかなんとか言いくるめて、ゆっくりと下着を下に下ろす。が、何故かなかなか下がらない。目を閉じているせいかどうして下がらないのかも分からなくて、焦っていたこともあってかとりあえず1、2回ほどぐい、と力をこめて下に引っ張ってみる、と、少しぐぐもった声のあと、頭上からずいぶんと慌てた様子のおそ松が「ちょ、名前!」と私の手首を勢いよく掴んだ。


「え、な、なに?」


「ん…っ、はぁ、名前、ちょ、まじたんま、」


「え、?」


「え?じゃなくて!!ちんこ!ちんこ引っかかってっから!無理矢理引っ張んないで!いやきもちいいけど!きもちいいんだけどね!?」


「えっ!!」


うそ!そんなことになってるなんて知らなかった!
慌てて手を離したらまた上から「う、」と声が聞こえてきて、恥ずかしいけど、でも、目は開けてやらなきゃいけないかなって、なるべく視界に入れないように、震える手を叱咤しながら性器を気にしつつまたゆっくりと脱がして足元まで下ろした。


「…ん、名前いーこ」


「お、おそまつ、」


「次、おまえの番な。…立って?」


今度は私が立ち上がって、その前におそ松が膝をつく。「肩、つかんでいいから」その言葉に甘えてゆっくり目下の両の肩に手をついて、ショーツに手をかけられたてころでやっぱり目をつむってしまった。恥ずかしさとかうるさいぐらい響いている心音とか、ぼうっとしてうまく働いてくれない頭とか。ほんと、ぜんぶがごちゃごちゃになって何も言えない。「……下ろすよ?」もう声を出すこともままならなくて、1回頷くのに必死だった。ゆっくりとショーツを下におろされていくのが分かる。太股まで下げられたところで性器が外気にあてられてひんやりとする。うっすらと目を開けば、終始目をつぶっていた私とは対照的に顔を紅潮させたおそ松がじっとそこを見つめているのが見えて、じんわり目の前が水の膜を張った。今、自分以外の人に、おそ松にショーツを脱がされて、そこを見られているのかと思うとよけいにそこが濡れるのが分かった。「糸引いてんね。……えっちな気分になっちゃった?」もうそんなのはじめからなってるし、ぐちゃぐちゃに濡れてるのも知ってるからいちいち言わなくていいのに。なんで、そんなこと言うの。
たぶんあんまりにも今いるこの空間が甘く痺れてるから。だから、なんだか目の前がぐらぐらして酔ってるみたいにおかしくて、自分の感情なのにコントロールできないんだ。ショート直前だった頭にその言葉は歯車をかけるどころか、どうもそれまでごちゃまぜな感情を塞きとめていた何かを壊してしまったらしい。溜めこんでいた涙がぼろぼろと溢れて、恥ずかし、いしいっぱいいっぱいなのに、なんでおそはそんなに余裕でいられるのって、私はついにぐずぐずと泣き出してしまった。だって私ばっか必死で、焦ってへまばっかりで、こんなんじゃおそ松のこともちゃんと満足させてあげられるか分からないって、泣き出したらもうとまらない。ぽつぽつと溢れる嗚咽とその言葉も、ぜんぶ吐き出す。おそ松は泣きだした私にはじめこそ戸惑っていたようだけれど、脱がしかけだったショーツを足元まで脱がせて丁寧に足をそこから抜かせて、それから嗚咽混じりの言葉を聞いてしばらく黙ったあと、ゆっくりと声をかけてきた。


「………名前、」


「……、…」


「…なあ、ほら、俺の手、握って?」


「っ、ん、」


甘くてどろどろとした声に誘われて、そろりと彼の手に手を伸ばす。指先が触れたと思ったらそのまま掠めとられて、指同士が絡ませられる。恋人繋ぎだ。きゅと胸が締めつけられるような感覚がして、嗚咽はとまらないけれど、さっきよりもますます顔が赤くなった。


「分かる?おれ、震えてんの」


「え」伏せていた顔を思わず上げてしまった。
だって、余裕だといわんばかりの態度で私に触れていたおそ松が、震えてる?


「おそ、まつも、」


「ん?」


「……おそ松も、緊張してる、の?」


「あったり前。俺ってば超ビッグなカリスマレジェンドだけど、なんといっても童貞よ?」


「そう、だけど、」


「なんてったってはじめてだし、お前は受け入れる側だし?負担かけてきもちよくさせてやれなかったらどうしよう、とか、さすがの俺でも思うって」


「…ん」


「それにさぁ、いまから大好きな大好きな女の子と念願のセックスってときに、緊張しない男がいると思う?」


「でも、緊張してても、もう俺のチンコってば名前ちゃん目の前にしてガチガチのフル勃起してっからね。これからお前ん中突っ込むことになんだし、なんなら今から見とく?」そんなことを言われて見ると言う人もいないけど、見るつもりはないはずなのに視線が下にいってしまうのも仕方のないことだと思う。ちらり、と気がついたらおそ松のそれを視界に入れてしまって、一気に顔に熱が集まる。「やーい名前のえっちー」「ちょ、は、はあ!?」なにそれ!えっちなのはおそ松なんですけど!なんでそんなこと言うの!だって、だってさあ!脱がし合っている間もまったくそれを見なかったといえば嘘になるけど、でも、膨らんでるのは分かってもそのときは下着つけてたし、今見ちゃうのは仕方ないじゃん!「今から私とセックスするくせにえっちはおそ松だよばかあ…」なんとも情けない声だ。でも、涙はもう引っ込んでた。「はは、そりゃそーだ」そっと抱き寄せられて、ぽんぽんと頭を数回撫でられる。まるで弟をあやすようなその手つきに、私はおそ松の弟じゃないのにっていつも思う。……でも、こうやっておそ松に頭を撫でられるのがたまらなく好きで、嫌がってみせてもそういう本心を見抜いて甘やかしてほしいときに甘やかしてくれる。そういうところがかっこいいんだよなあ、おそ松って。たまには甘えてくれたっていいのに。

そんなことをぼうっと考えいたとき。「う、わあ!」突然おそ松から体重をかけられて、そのまま後ろに敷いてあった布団の上に二人して寝転がってしまった。と、今度は横になったままぐい、と抱き締められて、それから足を絡められてしまえばからだもうんと密着する体勢に。いきなりのことで驚いたけれど、それよりも、恥ずかしいはずなのに、お互いの肌が直に触れあっている今の状態はとても心地がよかった。世の中には裸で寝る人もいるみたいだし、こんなにきもちいいなら今度家でもそうしようかなあ。……まあ、もしかしたら、今はおそ松と一緒だからそう感じるのかもしれないけど。ちらり、と少し上にあるおそ松の顔を見上げる。と、私の視線に気づいたのか、おそ松はニッと笑って見せた。


「……ていうか、さあ、」


「んー?」


「なんか、二人して真っ裸で抱き合うってどうなの…」


「えー、俺は幸せよ?名前ちゃん肌スベスベだし柔らかいし、こんなことできんのは世の中俺だけだし?すっげぇ嬉しい。…だけど、」


「……だけど?」


「はは、おれやっぱ童貞だからさ、……もう、我慢できそうにねェや」


ガチガチのフル勃起だって、さっき言ったっしょ?
もともと寝転がってはいたけれど、視界がくるりと回って、あっという間に背中には布団、目の前にはさっきと打って変わってずいぶんと余裕のない表情を浮かべたおそ松とその向こうには天井。


「おれすんげぇ我慢したんだよ〜。名前がかわいくてかわいくて何度も自分でシコりたくなるのも、おっぱいとか触りたくなるのもさぁ。……だから、我慢したぶん、楽しませてよ」


お前のこともちゃあんと楽しませてやっから。な?
ああ、ここから始まるのは手を繋いだり触れるだけのキスをしたりのお遊びなんかじゃあなくて、お互いを貪りあうようなどろどろに溶け合うセックスなんだ。
ぐちゅりと音を立てて合わさった唇から流れる唾液は、もうどちらのものか分からなかった。