生まれた!

歓喜に涙ぐんで顔をくしゃくしゃにした男の人が私を抱き上げた。よかった、よかったとしきりに繰り返すその様子に私は何がよかったのだろう、そして何が生まれたのだろうと首をひねってばかりだ。
そもそもここはどこなのだろうか。思うように辺りを見回すこともできず、私はただ子供のように泣きじゃくる男の人の腕の中で声を発しようと喉を震わせた。けれど私の口から出る言葉は、聞き覚えがありすぎる自分の声とも似つかわない、そもそも言葉にもなっていない動物の叫び声のようなものだった。


「(え、ちょ、ちょっとまってよ。これ私の声なの?)」


どういうことだ。わけがわからない。いつから私は人語を話せなくなってしまったのだろう。というか、この特徴的な叫び声は、まさか。
次の瞬間、男は近くの台で横になる女の人へ私を近づける。


「ほら、お前の子供だぞ」


視界に映ったのは、汗で髪を額にはりつけ、苦しげな表情を浮かべながらも嬉し泣きを繰り返す、綺麗な女の人だった。


私、生まれちゃったのか。




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