※南倉でエヴァパロ



通話中を知らせるランプが光る。
流れる景色とぶかふかとしたプラグスーツ。ボタンを押せば空気を抜かれて体にフィットする。そこでやっと深呼吸。窓枠をなぞった手をぶらりとさせ、巨大人形を見上げた。それから、まだ痛む腕を無理矢理動かして包帯を外す。ここ最近で怪我が増えたな。それはこの巨大人形に乗るようになってからで、先輩と距離が開きだしてから。デート中でも部活中でも授業中でも睡眠中でも、こいつは俺を呼び出す。自分の中枢に俺を取り込んでから、色んな世界を見せてくるんだ。俺はあいつで、あいつは俺。もうお互いがいないと生きていけないし、仮にどちらかがいなくなったとしてもそいつは元のそいつとはいえない。つまり、二人でひとつ。切っても切り離せない存在。

『おい、聞いてんのか?今どこだよ』

「あ、準備完了しました。いつでもいけまーす」

『は、何言ってんの倉間』

また今日もデートダメでしたね。帰ったら何しましょうか。また謝りますから、許してくださいね。俺だって好きでこんなやつのパイロットやってるわけじゃないんですよ。ただこいつが、俺を必要とするから。
相変わらず光りつづけるそれを握りしめ、あいつの中枢に乗り込む。上から改めて作戦が話されるけど、もう頭に入れたから大丈夫。小さな機械の向こうで先輩が何か言ってるけど、聞こえない。聞こえないんだ。俺にはもう、何も聞こえない。

「…これは、俺の独り言です」

『倉間……お前…』

「別に好きでやってるわけじゃない。誰かがやらないと使徒はどんどんやって来るし、サードインパクトだって起こるからやってるだけ。人類の約半数が滅亡だなんて、先輩死んじゃうかもしれない。というか天秤にかけたら俺とこいつの命と人類の半分なんて、バカでも重みの違いってやつが分かるでしょ。あー先輩には難しいかもなぁ。あの人結構あほだし」

いつもなら飛んでくるツッコミもなくて、先輩は戸惑ってるみたい。要はね、簡単なことだよ。

「初号機パイロットなんて、痛いだけです」

痛い。痛い痛い痛い痛い痛い。どこが痛い。色んなところ。あいつが受けた痛みはリンクしている俺にも伝わる。だから痛い。

『お前、エヴァに乗ってんのか!?』

エヴァ。あいつの名前はそんなだったかな。というか先輩、エヴァなんて知ってたんすね。

『初号機!使徒が来るわ!』

「りょーかい。とりあえず、サードインパクトぐらいは防いでみせますよ」

『おい倉間!!返事しろ!!』

通話中を知らせるランプが光る。
結局開きすぎた距離は戻らないし、今からっていうのも遅すぎる気がする。先輩は俺が初号機だってことを知らなくて、ただデートも部活もなんでもかんでも中途半端にするみっともないやつだって思ってて。それでも俺は先輩が、

「好きでした。ずっと、好きでした。」

使徒の核を撃ち抜くと同時に受けた攻撃により、初号機は頭を失った。



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