指先から漏れる僅かな熱が甘く、そして吐息さえも溶かしてしまいそうな優しげなその瞳が、ゆっくりと降り注ぐ。
重くのしかかるようで、どこか途切れてしまいそうな細長さを感じされるそれにゆっくりと息をつけば、青い瞳がかちり、とこちらを捉えた。吸い込まれそうな青だ。澄んだ海水を並々と注いだガラス製のグラス。宇宙の彼方で誰かが溢した雫のよう。マリンブルーのプラネットから注がれるそれに胸が大きく波打ったあとに、言い表せることのできない感情の洪水が渦を巻いてとん、と混沌の底へ落とす。

「凛、」

あいつから、ハルから紡がれる自分の名前がこんなにも愛しいだなんて。
丸く輝いたビー玉の青がゆっくりと細められて薄く開かれていた自身の唇に触れる。
触れた箇所から全身へと痺れにも似た感覚が全身を襲って、ぶるりと身体を震わした。ああ、痛い。触れられた箇所が、痛い。痛くて、くすぐったくて、幾層にも積み重ねた菓子の城が音を立てて崩れて。何年も前の、まだ菓子の城で暮らすことを夢見ていたあの頃の自分が持っていた小さな感情の余波が、静かに押し寄せる。当時っていた何かをなくしたことにも気づかずに歩んできた道を振り返ることも、この先の限りある未来を見ることも、今目の前にいるハルを見ることも。あの頃の自分は、できていたのだろうか。
今こうして止まらぬ何かを、見ていたのだろうか。自分のことのように、感じていたのだろうか。

「凛、」

「……は、る」

どす黒い重たく大きな、けれども儚さと美しさを兼ね備えた感情を隠すことなくさらけだしていたあの頃がひどく懐かしい。
はる、はる。何度も確かめるようにして絞り出した声に応えるように、ハルはぎゅっと手を握った。つめたい、大きな手だった。

「凛、泣くな」

大きく広げられた腕に導かれてぼすんと身体を預ける。しん、と静まり返った深海のようなそこで、ハルは、そっと、俺の目尻に指を這わせる。止まることを知らない大きな粒がぼろぼろとハルの指を濡らしていった。

「笑って、凛」

ぴりり、と心を小突かれたみたいな錯覚を覚えた。ハルのつめたくて優しい指が、心臓を這う。

それがひどく愛しくて、そして切なく感じた。

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手探り状態の遙凛。



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