心音が聞こえない胸に耳をあてながら、自身の手をゆっくりと這わせる。ぴくりと反応を見せたあとに身動ぎ、「くすぐったいです」と苦笑いを浮かべるお前になんだか胸が温かくなって、こんなに生きていると感じたのは久しぶりだと思った。そこは天国でお互い死んだ身であるというのに、何故か胸だけはほっこりと日だまり包まれているみたいで。
手を伸ばせば同じ死人、けれど俺が勇者でカイが羊飼いで。俺は魔王を倒すために生を受けて、カイは羊飼いAにすぎなくて。目的を果たすために何度でも生き返る俺と、もう二度と生き返れないカイ。その些細な違いは、たったそれだけの小さな違いは、俺たちを隔てるには十分すぎたのだ。だから、カイ。

「生まれ変わったら、お前と同じ羊飼いAになりたいんだ」

そうすればきっといつまでも、どこまでも、お前と一緒にいられる。

吐息と共に漏れた声が、部屋の中でこだましているように響き、そしてやけに大きく感じられた。カイは一瞬息をつまらせたあと、それらの全てを吐き出すようにその言葉を紡ぐ。

「ふふ、だめですよ、勇者様。」

勇者様は勇者様でないと、いけないんです。

優しくて、けれども泣きそうなか細く小さな声が鼓膜を揺らしたとき、頭上で光輝いていた金色のリングがふっと消えた。
それを横目で確認したカイが「…もう、行ってしまわれるんですね」と再び小さくこぼす。

「……魔王を倒す前に、もう一度ここに来る」

「…そんな、だめです」

「っ、カイ!俺は……!」

「勇者様」

そっと伸びてきた手は俺の頬を撫で、そのままするりと首元をたどる。そしてたどりついた先は小さく音を立てる心臓部。

「ああ、動いてるん、ですね」

「……カイ、」

「勇者様、どうか、」

死んでしまった僕でも、どうか、あなたのお側に。

頬をつたって流れ落ちる涙をすくってやりながら、次目を覚ましたときにはもうカイはいないのだと、自分は生き返ってしまうのだと、言い表せない感情に駆られながらも、その心音の聞こえぬ小さな体をそっと抱き締めた。

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元ネタ分かる方いらっしゃるんでしょうか…



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