01


ファラム・オービアスがブラックホールに吸い込まれる。
それはどんなに残酷な言葉だっただろうか。わたしにはそれを言葉にするための文語力も、考えるための余裕も、悲しみにくれる時間も、何もなかった。ただその場に立ち尽くして、苦渋の表情を浮かべたミネルさんを見て。その言葉は真実なのだと受けとめることしかできなかった。


「それは本当か」


「残念ながら、まことにございます」


吸い込まれてしまうのだろうか。かつての、わたしの故郷のように。
真っ暗な闇に吸い込まれて跡形もなく消え失せたわたしの故郷と、その惑星と共に宇宙の塵となった同胞と両親。ブラックホールに吸い込まれるという運命はこの宇宙に存在するかぎりどうにもならないことだ。分かってはいるのに。故郷も、そうして吸い込まれてしまったのに。
泣き叫び、恐怖し、震える声で助けを求めながら消えていく同胞が。わたしの安否を気づかいながら抱き合うようにして泣く両親が。凛々しく、まっすぐに闇の先を見つめる王族が、毎晩のように夢でわたしを責めいさなむ。惑星キエルに生まれた誇りを捨てて逃げ出したわたしにはそんなことをする権利はないはずなのに、苦しくて、泣いてしまいたくて。夜中にからだを震わすことだってある。昼間食べたものをもどしてしまうこともある。それでも、泣くことだけはいけないと、瞳にたくさんのしずくをためて夜が明けるのを待つのだ。ひとりには、長すぎる夜を。ずっと、ずっと。


「ナマエ」


呼ばれた名前にはっとした。
慌ててそちらを見れば先程までミネルさんとお話しになっていたララヤさまがじっとこちらを見据えていて、どきりと胸が脈打った。何を考えていたのだ、わたしは。ララヤさまの前であるというのに、考えごとだなんて。


「もっ、もうしわけありませんララヤさま…!」


「ナマエ、泣いておるのか」


今度は違う意味で胸が脈を打つ。「泣いておりません」泣く権利など、ないのでございます。わたしには、故郷を捨てたわたしには、何も残ってはおりません。


「安心せい。わらわの惑星は、ブラックホールなんぞに吸い込ませたりさせん」


「ララヤ、さま」


「わらわの惑星は、わらわが守る。だから泣きやめ、ナマエ。おぬしに涙は似合わん」


伸びてきた手が、ゆっくりと、目元をなぞる。


「笑うのじゃ、ナマエ」


ああ、ララヤさまはなんてお優しいのだろうか。