痛めつけられた体にみしみしと音を立てる頭。ぱっと手を離されて、成す術もなく私の頭は床に落ちる。手足が縛られているからどうにもできないのは仕方ないのだけれど、やはり痛いものは痛いのであって。だけどいやらしく撫でられている太股を切り落としてしまいたいのもまた事実。痛いのは嫌なのに、足は切り落としたいだなんて矛盾している。そんなことを考えながら、口内の切れた部分をそっと舐めた。血の味が口に広がる。

「おいおい嬢ちゃん、そろそろ吐いちゃえよ」

にやにやと笑う男の一人が、再び足の付け根をなぞる。そこにある赤のクランズマンである証の焔に男が触れているのだと思うと吐き気がした。
やめて、触らないで。睨むようにしてそちらを見れば、さらに笑みを深める男たち。

「お仲間さんたちは、どこにいるのかなぁ?」

「……あんたたちなんかに、仲間は売らない」

仲間。自分で言うのはまだ恥ずかしい言葉だけど、それでもこんなに落ち着くのはみんなのおかげ。
一人だった私に手をさしのべてくれたこと。いつも一緒にいてくれたこと。欲しい言葉をくれたこと。ああどうしよう。思い出しただけで泣きそうになる。

「だったらこいつぁ見せしめだ。殺すぞ」

リーダー格の男が拳銃向ける。仲間の居場所を吐け。さもないと殺すって?は、そんなの最高じゃない。早く殺せよ。
頭に突きつけられる銃口から発砲準備の音が聞こえた。
かちりかちり。仲間を売るくらいなら、死んでしまおう。覚悟を決めて真っ直ぐと銃口を見つめる。そのときだった。

外で忙しく鳴る銃声と悲鳴に、向けられていた銃口が少しずれる。
バタン、と勢いよく開け放たれた扉に視線が集まる。

「名前」

「…み、ことさっ…」

凛々しく、されど禍々しい怒りと炎をまとった王が臣を引き連れ部屋に入る。私の仲間。また会えてよかったと薄く笑みを浮かべれば、彼らは早速戦闘準備に入る。
だけどやつらは、元より彼らを殲滅することを目的としていない。

「そっちから出てきてくれるとは、好都合だな」

「見せる予定でしたから、ちょうどよかったんじゃ?」

「ああ。…吠舞羅のクソガギどもォ!よーく見てな!」

汚ならしい笑い声を上げたリーダー格が、再び銃口を私に定める。
みんなの動きがぴたりと止まり、冷や汗を流す。ゆっくりと視線は動き、全ては尊さんに向けられる。

「離せ」

「あぁ?」

「名前を、離せ」

尊さんがそんなことを言うなんて、と嬉しくなってしまうのは少し不謹慎だっただろうか。なんとなく自分の死を危惧していた私には、最後の最後まで私を仲間として扱ってくれた尊さんやみんなが嬉しかったのだ。

「今さら泣くなんざぁ、わかってんじゃねぇか」

「はぁ?ばかじゃないの」

「………なんだと?」

クライマックスに命乞いをするヒロインがどこにいるのだろうか。
そう言っておきながら私はヒロインではないけど、命乞いをする情けないモブにはなりたくない。命乞いなんてまっぴらごめんだ。泣いたのはあんたたちが怖いからじゃない。吠舞羅がきれいだから、泣いたんだ。
そして私の言葉に血が上ったらしい男が、引き金に指をかける。

「ありがとう、みんな」

大好きだよ。
そう言ったあとに見たみんなの顔は、なんでか知らないけど泣きそうになっていて。銃声が鳴るのと尊さんの炎が広がるのは、ほぼ同時のことだった。


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敵は吠舞羅に怨みがあって、彼らの目の前で仲間を殺すことが目的。目の前で仲間を殺された吠舞羅が怒り狂って敵の組織を壊滅。だけど夢主は生きていて、記憶を失いながらも学園島にて生活中。シロクロネコと友達。この時点で吠舞羅は彼女を死んだものと思っていて、夢主は吠舞羅やそれに関係するものを一切覚えていない。後に吠舞羅とセプター4と接触しながら、記憶を取り戻していく。夢主死亡未遂の時間軸は、十束殺害直後。
みたいな話が書きたい。