「私、シンドリアが大好きだよ」

こちらに伸ばされていた手を払うように言えば、彼はぐっとつらそうな表情を浮かべた。

「…なら、この国を出る必要なんてないじゃないですか…」

いつもの彼とは似つかわないほど弱々しく紡がれたそれは、私の耳を通り抜ける。頬をかすめる風が私たちの間を吹き抜けた。

「名前、」

「私はね、恩返しがしたいんだ」

私の言葉にぎゅっと眉根を寄せ、服のを握りしめる。視線を上げて彼を見つめれば、悲しげな瞳とかち合う。歩み寄ってはいけない。この人と一緒にいれば、私はきっと、

「強くなって、みんなを守る」

「名前…!」

「ジャーファル、」

ありがとう。そう言ったあとに頬を伝う涙を手の甲で拭き、まばゆいルフにふれる。瞬間体は宙に浮き、すぐに周囲の音が聞こえなくなった。下でジャーファルが何か言っているけど、私が言えるのはただひとつ。

「また会おうね」

それは10年後?20年後?もしかして50年後?そうだったらジャーファルも私もおじいちゃんとおばあちゃんだ。なんだかおかしいな。いつ会えるのか分からないのに、強くなれるんだって思うとこんなにも嬉しいなんて。でもなんでかな。嬉しいのに、涙がとまらないんだ。

とどめなく溢れる涙とこの気持ちに、私はゆっくりと蓋をした。