冷たい風に頬を撫でられて意識が浮上した。隣で黄名子ちゃんと水鳥先輩、その向こうに茜先輩と葵ちゃんが寝息を立てている。夜空を彩るそれらを見上げて、ここは本当に白亜紀なんだと改めて認識した。

男子が寝ている葉がしかれた穴を覗けば、女子同様すやすやと眠っていた。今日一日歩いてばかりいたから仕方ないのだけれど、少しだけでも付き合ってほしいと期待を持ってしまう。期待が膨らんでもいいことはない。ほら、誰も起きてこない。
結局一人で夜道という名の草原を行くことになり、みんなから少し離れた。迷子になってしまってはたまらないので、風通しのよいところに腰を下ろす。ひっきりなしに聞こえる動物たちの鳴き声に、この時代の夜は眠ることを知らないのだと知った。

「名前、風邪引くよ」

そんな私に声をかけ肩に手を置いたのはフェイだった。どこか落ち着きのある声が私の名前を呼ぶ。それだけで、なんだかくすぐったくなってしまった。

「こんな時間にどうしたの?」

「名前が寂しそうにしてたから」

「狸寝入りしてたの?」

まぁね。なんて言いながら、フェイは隣に座った。吹き抜ける風が肌寒くて人肌にすりよれば、彼はそっと肩を寄せた。

「怖い?」

唐突にそんなことを聞けば、フェイは一瞬遅れて何が?と聞き返してきた。

「サッカーがなくなるのが」

それは天馬くんや神童先輩を含めた多くの人たちからなくなるのか、フェイ自身からなくなるのか。どちらともとれるがあえて主語を抜かしてみた。だけどフェイは間髪入れずに答えてみせた。

「怖いよ。すごく、怖い。」

まるで暗闇の中にいるみたい。そう紡がれた彼の言葉を自分の中で繰り返してみる。サッカーがないと、暗闇の中にいることになるの?

「きっと今も暗闇にいるよ。けど、今はサッカーがあるから光に当てられてそこは暗闇じゃないんだって錯覚させられているだけ」

きっとフェイは自分と天馬くんたちの格差を自分で広げてしまっているのだと思う。自分だけが暗闇にいて、みんなは暖かい光に包まれているだと。そこに格差がないことはみんな当たり前のように思っているのに、フェイはそう思ってないようだ。
その事実に胸がきゅっと締め付けられた。

「フェイは、ここにいる」

フェイは私の隣にいて、一緒に光を浴びて生きている。あなたは暗闇になんかいない。格差なんてない。フェイからサッカーがなくなっても、誰もあなたから離れていったりしない。たとえ世界中の人がいなくなっても、

「私がいるから、大丈夫」

その時ふわりと儚げに微笑んだ彼は私の手を強く握る。とても綺麗。でもなんだか消えてしまいそうだ。そんな彼との夜は、世界を彩る星たちに吸い込まれていった。