「っわ、ちょ、隆也、おねがいまって、」

「無理。もう待てない」

「だから、っん、おねが、はなしっ…きいて…!」

「っ、はぁ、……お前、話してる余裕あんの?」

「ひっ、あぅ、ぁ、」

「ん、…名前かわい…」

今日は親もシュンもいねぇから、と言われたのは隆也の家の玄関で靴を脱いだときたった。普段ならお出迎えをしてくれるシュンくんやおばさんの声がしない上に靴も少ししか並んでいなくて、先に上がっていた隆也に「おばさんたち、どこか行ってるの?」と聞くと、振り向いた隆也は頬が少し赤くなっていて、それからおばさんとおじさんは今朝から旅行に行っていて、シュンくんは友達の家にお泊まりに行っていると言われた。

「だから、したい」

それからすごく小さな声で、そんなことを言われたときは私までつられて顔が赤くなった。それまで視線をずらしていた隆也はちらりと私の顔をじっとみつめる。まるで返事を待っているようなその表情に、思わず「…ん、」と曖昧な返事を返した。
それは私にとってはせいいっぱいのOKの返事で、隆也にも伝わったのか「…じゃあ、部屋行くぞ」と手を絡められて手をつながながら階段を上がった。

私も隆也もそれぞれ部活が忙しくてこうして二人で帰ったり家にお邪魔したりするのは久しぶりだった。私のほうはちょうど夏の活動も一段落して3年生が引退して、やっと夏休みを満喫できるといったところで、隆也も相変わらず忙しそうだけれど明日は久しぶりの休みらしくて、すぐに明日は家に来ないか、と昨日の夜連絡をもらった。
だから隆也の部屋に入って、隆也が後ろ手で扉を閉めて、鍵をかけて、鞄を置いて。どちらからともなく視線を絡めたあと、私はすぐに隆也に口を塞がれた。

学校があるときでも何度も隆也の家には来ていたし、そういうことも少しはやったことがある。私も隆也も高校生で、そういったことに興味を持つお年頃だ。けれどおばさんもおじさんも、しかも部屋に鍵がかかっているとはいえ同じ2階にはシュンくんもいたし、怖そうだなとか痛いのかなとか私が思っていたことに隆也も気づいていて我慢してくれていたことも単純に時間がなかったこともあって、最後までやったことはなかった。ただお互い触りあって、私は隆也のを抜いてあげて、隆也も指を入れてくれたりして、なるべく声が漏れてしまわないようにたくさんキスをして。2回くらい気持ちよくなったあとは制服を整えて夕飯をご馳走になってから帰ることもあればすぐに帰ることもあった。けれどそんな毎回いやらしいことをしていたわけじゃない。学校では二人でお弁当を食べたり休日が重なればデートをしたり、手を繋ぐだけでも顔を真っ赤にしたりして、今時の高校生にしてはけっこう健全なお付き合いをしていたと私は思いたい。
それでもやはり、物足りなさを感じていたのは私も隆也も同じだ。

「ふっ、ん、や、ぁ…」

「っは、」

久しぶりの激しいキスに思わず力が抜けて腰から崩れ落ちると、隆也はすぐに私を抱き上げてベッドに寝かせた。それから息を整える暇もなく隆也も覆い被さってきて、ベッドが私たちの重みにギシ、と大きく音を立てる。そして、素早くシャツのボタンを外されたあとはスカートに手を突っ込まれた。
普段自分だってそんな風に触らない箇所を、隆也のゴツゴツした手がまるで割れ物を扱うかのようにゆっくりと撫で上げた。その感覚に背中がびりびりと電流が流れたみたいに仰け反って思わず声も漏らせば、隆也が唾を飲む音が聞こえる。

「…指、入れるぞ」

「……え、ちょ、まって――…やあぁ!」

いつもは胸を触ったりだとか首筋を舐めまわしたりだとか、そういった愛撫があるのにいきなり本番だなんて、いくらなんでもがっつきすぎだと驚いた半面嬉しくもあって、今までのだって気持ちよかったのにこれ以上気持ちよくなるなんて私はどうなってしまうのだろうと喘ぎながら考えた。
しかし、くちゃくちゃ音を立てて中を掻き回される感覚にはじめは身を捩らせていたけれどだんだんと快楽に変わってきたあたりで、私はあることに気づく。

「た、隆也ストップ!」

「…んだよ」

「お風呂!お風呂入りたいんだけど!」

「はあ?」

そうだ、何か忘れていたと思っていたらお風呂に入っていない。
いくら何度もそういうことをしているとしても、やはり最後までやるのは今日がはじめてなわけだし、お風呂に入って体をきれいにしてからがいい。好きな男の子が相手ならなおさらのことだ。
私の中につっこまれていた指の動きがとまってくれていたおかげで、飛びかけていた理性が戻ってきていた。

「なんで風呂なんだよ。風呂でしてぇの?」

「ちがうってば、汗もかいたし、先に体とか洗いたくて…」

「…俺気にしねぇのに」

「わ、わたしが嫌なの――…って、ひあぁ!ん、ちょ、まって、急に指動かさな、いで…!」

「無理。もう待てない」

ていうか、ここでお前を風呂にやるほうが俺に酷ってもんだろ。と、隆也は私の手をとってそれを自分のそこへと導いた。
瞬間、今まで以上に顔がぶわっと赤くなるのを感じる。何度も触ってきたけど、いまだにそういうことをされるのは慣れない。大きく膨れ上がったそれは制服のズボンの中では苦しそうだった。ほんとに、おおきい。そんなことを考えながらさわり、と撫でたら隆也は「ってめ、わざとか…!?」と私同様顔を赤くさせて、さらには何かに耐えるよう表情をしながらこちらを睨んできた。

「え、まって、そんなつもりじゃ…」

「煽ったのお前だかんな。もうぜってー風呂とか行かせねぇ」

ちょちょちょ、ちょっとまってー!
お風呂はぜったい行きたいんだから!と体を起こして抵抗しようとすれば、隆也はぐい、と私の肩を押してベッドに倒すと再び指を動かしはじめる。
途端に力が抜けてまた喘ぐばかりの私に、隆也は「風呂は終わったらいけばいいだろ。それに俺はもう絶対に我慢できねぇ。名前も、そうじゃねぇの」と掠れた声で私の頬撫でながらそう言った。
たしかに、もう、我慢できないくらいに気持ちよくて、もっとしてほしいって思うけど、隆也に汚れてるとか思われたらほんと私、生きていけない。

「名前」

「…っん、?」

「風呂入ってないだけで嫌いになったりしねぇし、俺だって汗かいてるからきたねぇ」

「隆也は、汚くないよ」

「俺も、名前は汚くないと思う」

「…隆也…」

「だから、な?」

最後のほうなんだか上手く丸め込まれた気がしたけど、あまりにも熱っぽく見つめるから思わず黙ってしまった。汗で額にはりついた前髪を軽く避けたあと、隆也は私の頬を撫でる。そんな隆也の額にも汗がにじんでいる。

もう、お風呂入らなくても、いいかなあ。

そう思ってまた曖昧に「ん、」と返事をしたら、隆也は「さんきゅ」と小さく笑ってキスをしてくれた。もういいよ、隆也。隆也にそう言ってもらえただけで私はじゅうぶんだから。お風呂くらい、我慢する。
そこからまた舌を絡めるような激しいものに変わっていく中、私は幸せ者だなあと考えながら、隆也からふりそそぐ愛に意識を沈めた。