※兵長出ません。ほとんど夢主の独白



何か大きな手が、視界を覆ったような気がした。真下に染まる己の手から目を離すことができない私の周囲がふっと暗くなって、荒い息づかいだけが鼓膜を震わせ、あとは何も聞こえない。それ以外を考えることを、というか、もはや思考することを遮断した私の脳内は、これまでやってきた私の全てをいっぺんに否定していた。いつもならすぐに鳴る警報は働かず、鍛えられた反射神経なんて全く役に立たない。刃を抜くこともできない。赤黒くなっていく手が、そばに転がっている頭部をそっと撫でた。


「…へ、い、ちょ…」


ただ一言、そう発した私にいつもなら考えられないくらいの彼の大声が降ってきた。名前、名前。何度も呼ばれるそれに返事をしようとか、頑張ってこいつから逃げて仇を打たなきゃとか、そんなことすらもう、考えられなかったのだ。全身をこの刃で刺されたような、巨人の大群に遭遇したような、悲鳴を上げて死んでいく仲間を見ていたような、その仲間の、立体機動装置を奪って、帰還したような。そんな言い表せない、否、言い表したくないような、よくわからないそれが全身を襲ったときにはすでに、私の体は宙に浮いていた。

くぱ、と大きく開けられた口が、ゆらゆらと揺れる私の足下でただ静かに私を待っている。そいつの顔は何を思ったのかにやりと笑って、なかなかその先を実行しようとはしない。まるで私が恐怖するのを待っているかのように感じる。脳を持たないはずの彼らにも、そういういたぶり殺すといった行為ができるのだろうか。
名前、と再び呼ばれたそれは、さっきよりも焦りとか、そういうのが含まれていたけど、なんかもう考えられないというか、あぁさっきだってそうだった。私は仲間が死んでいくのを、黙って見ていたじゃないか。
ぽっかりとなくした何かはきっと、そう、


「おい名前!」


きっとそれは、


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進撃ってどう書けばよいやら…