「私は名字名前。君は?」

「青砥ゴンザレス琢馬」

「ぶほぉっ!ごっゴンザレス、琢馬っ…!!」

「………」

いつだったかは忘れたけれど、琢馬との出会いはこんな、そう、甘い感じのものではなかった気がする。はじめまして、から始まってたまにサッカーの練習して。名前なんて聞かずにただ日が暮れるまでボールを蹴って。それまでは本当にいい友人として成り立っていた彼は、私の想像を超越しすぎた姓を受けていた。
名を青砥ゴンザレス琢馬。何故青砥琢馬だけではだめなの。そして何故ゴンザレスをチョイスしたの!私の腹筋崩壊を狙っているのね!なんて腹を抱えて笑った私を蔑むように見てきた彼は、整った顔立ちにくりんくりんの青い瞳を持っていてきれいだったけど、その蔑んだ眼差しとゴンザレスが邪魔をして、その時ばかりはギャクにしか見えなかった。
もっとかわいらしい名前を期待していたのに、まさかのゴンザレス。フランソワーズ、は女の子の名前かもしれないけど、そういうふわふわな名前を想像して胸を踊らせていた私を返してもらいたい。いや、切実に。

「つまりねー、私と琢馬は付き合ってないんだよ」

「いやいやいや、今の話からどうなったらそうなるん!?」

「え、だから、その日から琢馬は私を無視するようになって、ゴンザレスくんって呼び名から琢馬になってもやっぱり無視で、それがずるずると……今に至る、みたいな?」

「みたいな?ちゃうわ!」

もう、エリカちゃんが私と琢馬の話聞きたいって言ったんだからね。と頬を膨らませると、エリカちゃんは「せやけど…」と困ったように笑った。
第一こんな大声で話をしていたらみんなに聞かれちゃうし、やっぱり私もゴンザレスで笑いすぎたと思うし、色々と悔やんでるし…
悪循環とは違うけど、今さらみんなに掘り返されたくない。

「何か用があるときとかはどないすんの?」

「私は普通に話しかけるけど、琢馬は何にも言わないよ。大体言いたいこと分かるから、こっちもさっと片付けて…」

「熟練夫婦やあるまいし、そないなこと普通はできへんで」

「そう?」

でも琢馬、顔に出やすいんだよなぁとそちらに目をやれば、いつの間にかこちらを向いていた琢馬と目が合う。ぱっとそらされたけどいつものことだし、もう気にしない。そしてそスタスタと小さく聞こえる足音に私も支度をを終わらしてベンチから立ち上がった。

「ごめん、エリカちゃん。琢馬帰るみたいだから、私も帰るね。」

「え!あ、あぁ!ほな、また明日な!」

「うん、ばいばい」

小さく手を振ってから琢馬に駆け寄る。「帰るでしょ?」と尋ねると、首を小さく縦に動かして歩きだす。結局琢馬は私を待っていてくれたし、優しいところは何ひとつ変わってないなと嬉しくなった。そんな私を琢馬はじと目で見てくる。「なに?」とか言いたいんだろうな。「べつに、なんでもないよ」と言えば、彼はふいっと前を向いて再び歩き出した。
閑静な住宅街に私の声だけが、どこまでも響いているような気がした。


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ただ夢主がゴンザレスに笑ってるだけの話。