1342企画 | ナノ








俺だけのモノで居て
ホラ こんなにも君を愛している


そんな事が出来るなんて俺しか居ないでしょ?












「ただいまシズちゃん」


ベッドの上で横たわっていた身体を気だるそうに起き上がらせて静雄は声のした方を見た。
この部屋にやってくるのは彼しか居ないのだが違う人が来たのかもと確認する。
声でわかってはいるけれど少しだけの期待と不安を混ぜながら確認するのが日課になっている。
何が不安なのかはきっと静雄も判っていないのだが。
上機嫌な彼に一言「おかえり」と言えばますますニコニコと機嫌が良くなる。
彼の手には紙袋が握られていて、それは静雄も良く知っているハンバーガーショップのものでそちらに視線を向けた。


「あぁコレ、今日は君が好きなハンバーガーの新商品が出てたから買ってきたよ」
「…ありがとう」
「どーいたしまして。はい、どうぞ」


隣に座りながら差し出された紙袋を受け取った静雄はその中身を覗く。
それは秋にしか発売されないものでもうそんなに時間が経ったのかと思った。
ガサゴソと紙袋から出してモフリと一口食べる。
それはやっぱり昔食べた物と変わらない味をしていた。



静雄がこの部屋に来た時はまだ雪が降る季節だった。
来たと言う言い方は少し違うのかもしれない。
ナイフに毒が塗られおり、それで切り付けられ意識を飛ばした間に連れて来られたのだ。
どうやってここまで連れて来られたのかは静雄は知らないのだが
とても大きなトランクに詰め込み、何も知らない運び屋にトランクを運ばせた。
そうやって静雄はこの部屋にやってきた。
初めこそは抵抗もしていた。
逃げようとすれば臨也を怒らせてしまって身体中殴られたり切りつけられたりした。
しかしその後は必ずと言っていいほど静雄を抱きしめ泣きながら謝るのだ。
「ごめんねごめんね俺には君しな居ないんだだから逃げないで一緒に居てずっとずっと一緒に居て俺を捨てないで愛してるんだ」と。
その言葉を聞く度に必要とされている事と思い始めた静雄は静雄は逃げ出す事を諦めた。
諦めたと言うよりは逃げる事を止めたのだ。
愛されている、必要とされている。俺は必要な人間なんだと、臨也の為にココに居ようと思ったのだ。
その考えが刷り込まれたものなのか自発的に思ったものなのかわからないが
ベッドしかない殺風景な部屋に留まる事を承知したのだ。







「シズちゃんおいし?」
「ん、うめぇ」
「そっか」
「…手前も食べるか?」


食べかけだけど、とハンバーガーを差し出し、静雄はシェイクに口をつけた。
しかし臨也は差し出された物ではなく静雄の顔をじーっと見つめ口を開く。


「それよりも愛してるって言って」
「……愛してる」
「俺も」


顔を真っ赤にしてハンバーガーを頬張る静雄を愛おしそうに見つめる。
その視線を擽ったそうに顔を背ければ臨也の手によって無理矢理臨也の方に向かされた。
見つめられながら完食した静雄は「ご馳走様」と呟き再びシェイクに口をつける。



「あのねシズちゃん、俺はさ、君が好きなんだ好きすぎてどうしようもなくて閉じ込めてしまいたくなって…君をココに連れてきた」

「君ならきっとわかってくれると思ったんだ。ホラ、あんなにも愛し合えたのは君しかいないから。
君が居れば何もいらないと思っている。これは本当だよ。嘘じゃない。シズちゃんが大好きで大好きで愛してるからだから…だからどこにも行かないで。
君は俺が居なきゃ生きていけないだろ?だから大丈夫だとは判っているはいるけど不安なんだよ…信じてるけど…不安なんだ。
明日もまた君に会えるなんて事、誰も保障出来ないだろ?不安しかないんだよ…」


逃げる事をしなくなったのだがそれでも不安は消えないようでたまに、否、頻繁にこうやって静雄に縋り付く。
その度に静雄は喜びを感じた。
必要とされている、必要としている人間が居るのだからココに居なければと思う。
今にも泣きそうな臨也を抱きしめる為に飲み終わった入れ物を紙袋の中に捨てる。
空いた両手で臨也の首へと腕を絡ませ口付けを一つ落とす。


「大丈夫だ、俺はここにずっといる。手前だけだ臨也。だから泣くな…愛してる」

「愛してる…愛してるよ イザヤ」
「シズちゃんは甘いね…ホント甘いよ」













いつまでこうしていられるのかとすやすや眠る静雄の隣で臨也は考えていた。
静雄は自分の意思で隣にいてくれてはいるのだが世間はそう思ってはいない。
ある日突然、池袋最強が急に消えたのだ。探し出そうと動いている。
ましては彼の弟は独自に動いているらしい。
その頼み相手は臨也も良く知っている奴だ。
ここへと静雄を連れてこさせた相手である。
もうそろそろこの夢のような生活も限界が近いのかもしれない。
彼女は結構鋭いから…彼女の同居人と言うべきか。
この小さな小さな箱庭が崩壊するかもしれない。


「…君を守れないかもしれない」


何からか臨也も判ってはいない。
判ってはいるのだが、それが本当にココを見つけてやってくるのかは謎だ。
もしかしたら彼女じゃないかもしれない。
弟かも知れないし、彼の上司かもしれない。
裏関係かもしれないし、警察かもしれない。
可能性をあげていれば切りが無い、静雄には結構な人間が関わっているからだ。
臨也には不安しかないのだ。
今この時も誰かが静雄を連れて行かないかと心配で仕方なくて弱弱しく静雄の髪を撫でる。
寝ていたはずの静雄が臨也の方を見ていた。


「おれが、まもって…やるから…よ…安心しろ」
「ハハ…何から?」
「…世界?」
「壮大だね。それは置いといて、お姫様に守られる王子がどこにいる?」
「…ココにいる」


髪を撫でていた手に手を重ねてふわりと微笑む。
容姿だとかを見れば静雄の方が王子なのだろう。
その事は重々承知で臨也は苦笑う。
世の中見た目が全てではない。
現に静雄もお姫様という発言に否定はしなかった。
姫にはナイトがついているもの。


(もうじき君の騎士が君を連れて行くんだよ…俺は悪者だ)


外から見れば臨也は悪者だ。
姫を攫った魔王とでも言うべきか。
どんなにデマ情報を流しても効果が無かった。
別の街で女と歩いてる姿を見たとか、山奥で静かに暮らしているだとか。
どれもこれも効果は無かった。
もう時間の問題なのだ。
本人は気付いていないのだろうが彼についている騎士は多すぎる。


「…もう少し寝よう。そして起きたら一緒にお風呂入ろうか」
「ああ。…おやすみ臨也」
「おやすみシズちゃん」


そうして二人は眠りについた。
離れないようにときつくきつく抱き合いながら。








静雄が住んでいる部屋は内鍵は無く外鍵だけの部屋だ。
たまに静雄を試すように鍵をしないで臨也は外に出て行った。
その日もたまたま鍵がされていなかった。
仕事に行ってくる。と言って出て行った臨也の後に鍵のする音が聞こえなかったからだ。
この行動の意味をどうとって良いのか静雄は最近悩んだ。
自分の事を信用してくれるようになったのか。
それとも未だに試されているのか。
どっちなのかと悩んだ。
鍵がされていないからと言って部屋から出ることはしないのだが気になる。
扉の方を見つめていたが待ち望んでいる人はまだ帰ってくる気配はない。


「早く帰って来いよ」


ぽつりと零す。
帰って来る訳でもないのに。
何も無い部屋で暇な静雄は眠る事にした。
今度、臨也が読んだ事がある本でも貸してもらおうなんて思いながら。
ウトウトし始めた頃に部屋の向こう側から足音が聞こえてきたのだ。
しかしそれはいつも聞こえる音とは違う音で
珍しくお客でも連れてきたのか?と顔を上げた。
その足音は静雄が暮らしている部屋の前で止まった。
ドタドタと部屋の向こう側が煩くなった。
叫び声も聞こえている。
その声は静雄がとても知っている人の声でやはり誰かを連れてきたのかと考えた。
しかしその声はいつもと違う、悲痛な叫びだ。嫌な予感がする。連れてきた訳ではないようだ。
ガチャリと扉が開いた。


「…セルティ?」


その扉の向こうには良く知った顔が居て静雄は驚く。
彼女には顔らしいものが無いから顔と言っていいのか悩むところではあるのだが。
部屋に入ってきたセルティは扉を閉じ、その扉を黒い影で覆った。
ガチャガチャとドアノブが動いているが開く気配は無い。
そんな外の様子を気にする事なくセルティは静雄に近付く。


『ここに居たんだね。凄く、凄く探したよ』
「…」
『こんな事になってるなんて思わなかった…ごめん…私のせいだ』
「セルティ?」
『もう大丈夫だから、一緒に帰ろ?静雄』
「どこへ?」


静雄はセルティの言っている事が理解出来なかった。
帰る場所はこの部屋だから。
その部屋の外では叫び声がしている。


『いつもの日常に戻ろう、またすぐに戻れる。私も手伝うし大丈夫』
「言ってる事がわからねぇ…俺の日常は臨也と一緒に暮らしてる事だろ?」
『…静雄?』
「俺はここで臨也の仕事へ向かう姿を見送って、帰ってくるのを迎えて、一緒に飯食って、たまにだけど一緒に風呂に入って」
『静雄…それはお前の日常じゃない』
「…そんな事判ってる…でも愛してるって言ってくれた」
『私も新羅も静雄を愛してるよ』
「ずっと一緒だってあいつは言ったよ。愛してるって。俺だけだって言ってくれた」
『それは違うかもしれないじゃないか』
「…それでもいいんだ…ただ良い様に使われていても俺がそばにいたいだけだ」
『静雄…』
「なぁ知ってるか?人間は簡単に頭から血を流すんだ。俺が少し押しのけただけであいつの身体だ壁に叩きつけられて動かなくなった!!」
『静雄落ち着け』


両肩を握られ揺すられながらセルティは少し遅かったと後悔した。
静雄は無くす事の恐ろしさを知ってしまったのだ。
それも自らの手で無くしてしまうという恐ろしさに。
無くす事が恐ろしいと思っているのはセルティも同じで解らなくもなく静雄の顔を見る事が出来ない。


「あいつは弱いから精神的にも肉体的にも弱いから俺が…俺が守ってやらなきゃあいつが死んじまう!あいつが死んだら俺はなんの為に生きるんだ?教えてくれよセルティ」
『…』
「今も見てみろよ。臨也はこんなにも俺の事を欲しているじゃないか。俺はそれが嬉しいんだ。」


激しい音をたてている扉の向こうからは未だに静雄を求める声がしている。
嬉しそうに微笑んだ静雄を見てセルティは諦める事にした。
ここに残る事が本人の意思なのだと。
少しどころじゃない。
とても遅かったのだ。
失う恐ろしさと、求められる喜びを、愛を囁いて微笑み合う幸せを彼はあいつから与えられたのだと。


『静雄…ごめん。何かあったら連絡してほしい』
「ん、多分しねぇけどありがとう」
『…本当に良いんだな?』
「…なぁセルティ…こんな部屋の扉くらい俺なら簡単に壊せるのにずっと監禁されてる理由を考えてみろよ」
『…わかった』


まぁ確かに。とセルティは無理矢理自分を納得させた。
扉を覆っていた影を自分の身体に戻せば、勢いよく扉は開き泣いている臨也が飛び込んできた。
セルティの存在など見えていないようでそのままの勢いで静雄を抱き締める。


「シズちゃんシズちゃん愛してるからどこにも行くなよ!!俺から離れるなんて絶対許さないから!!愛してるんだこんなにも!!」
「俺も臨也だけだから離れるなよ…俺を置いていくな…」
「しずちゃんしずちゃっ」
「…泣くなよ…俺まで泣きたくなる」


抱き締め返した静雄を見てセルティは部屋から出て行った。
新羅や幽達になんて話そうか、ありのままを話していいのかと悩みながら。




『狂った愛』






(可哀想なシズちゃん)
(可哀想な臨也)


「「俺だけが愛してあげる」」





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work様

リクエスト有難う御座います!
そして遅くなってしまい申し訳ありません。
監禁だ!張り切ったんですが難しいですね…。
監禁=工口かグロしか思いつかない頭でした…変態です。
悩みつつも楽しく書かせてもらいました!
有難う御座いましたー!




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