1342企画 | ナノ









今日はシズちゃんが早く帰ってくる!とスキップしながら帰っていた。
その動きでガシャガシャ言っているランドセルをちゃんと閉める時間すらもったいなくて開いている。
教科書が飛び出しそうになっているけど気にしない。


「シズちゃんがホットケーキ作ってくれるなんて!たのしみだなぁ!!」


シズちゃんの作るホットケーキはとても甘くて美味しい。
シズちゃんのお母さんがこっそり教えてくれたんだけど、
前にホットケーキ食べたい!!とお願いしたのが原因で作り方を覚えてくれたらしい。
シズちゃん好みにとびっきり甘いホットケーキを。
その味と自分の為だけに覚えてくれたんだと思えばに笑顔になってしまう。


「たのしみだなぁたのしみだなぁ!」


この坂を上りきったらお家につく。
スキップの途中でターンなんか決めちゃって周りは少し離れた気がするけど気にしない。
あと少しで上りきれると言うところで黄色い頭を見つけた。
シズちゃんだとすぐに解り駆け寄ろうとしたけど隣にもう一人居る事に気付く。
ピッタリした黒い服に黄色なヘルメットをしている人がバイクに跨っていた。
その黒い服の人が携帯らしき物をシズちゃんに見せれば楽しそうに笑いあっていて…。
その光景を見て足が止まる。
ツキリと心臓辺りが痛くなって胸を押さえた。
このイタさはなんだろう?
その後も何かを見せては笑いあって少し良い雰囲気で近寄れなかった。


「どうしたんだ?イザヤ」
「…ドタチン…」
「そう呼ぶなと何度言ったら解るんだ…」


その場に立ち尽くしていれば後ろから声をかけられて振り返るとドタチンが居て
気にする事なく前に居るシズちゃんに視線を戻す。
ドタチンは自分より2つ年上で登校班の班長さんをしている。
この間みたいに中身飛ばすぞ、なんて言いながらランドセルを閉めだした。
年上のドタチンならこのイタさが何なのか解ってくれるかもしれない。


「ドタチン…しんぞうが痛いんだ」
「ん?なんかあったのか?」
「シズちゃんがオレ以外と話してるの見たらキュッてした…今もしてる」
「んあー?…あれか…」
「うん」
「…付き合ってるとか?」
「…そうみえるの?」
「…みえなくもないだろ?…」
「ドタチン…なんでオレは小さいんだろうね」


無言で頭をワシャワシャと撫でられた。
どうやらあの二人は話が終わったようで黒い服の人がシズちゃんに可愛い紙袋を渡し、手を振りその場を去っていった。
残されたシズちゃんはその紙袋の中を見て
嬉しそうに笑ったのだ。
その表情を見て自分の感情が何処に行ったのかわからなくなってしまった。
かなしいのかさびしいのかうらやましいのかいかりなのか
それとも全部なのか。
ねぇ?あの人とは付き合ってるの?
モヤモヤとした黒い何かがお腹の中で渦巻いて
わからなくなっちゃった。
気がついたら走り出してシズちゃんの腕を引っ張っていた。
急にの出来事でシズちゃんは驚いたようでこちらを見た。


「…イザヤ?」
「………」
「どうしたんだ?」


シズちゃんはいつもと変わらない顔でいつもと同じように頭を撫でる。
嬉しいけど嬉しくない。
お腹の中は未だモヤモヤしていてなんだか泣きたくなってきた。
シズちゃんの顔を見れば心配そうにこっちを見てて
泣きたくなった俺はシズちゃのお腹に抱きつく事にした。
ぎゅうっとどこにも行かないようにと。


「いざやどうした?」
「…しずちゃんのばか」
「え?」
「…おうちかえろ」
「…そうだな」


シズちゃんは俺をお腹にくっつけたまま歩く。
たまに視界に入る可愛い紙袋を見たくなくて顔を逸らせた。
色々と聞きたい。
あの人は誰?付き合ってるの?俺じゃあ不十分?俺は要らないの?
そんな事を考えてたら涙が出てきてとまらなくなった。
シズちゃんのお母さんに鍵を貰い、自分の家に入る。
その間もずぅっとシズちゃんのお腹にくっついたままで
シズちゃんは少し動きにくそうだったけどこれくらい許してほしい。
ソファーに座ったシズちゃんは俺を抱き上げて膝の上におろす。
顔がよく見えるようにとか迎え合わせで。
目尻を親指で拭われてビクッと反応してしまった。


「手前泣いたのか?」


頭を横に振ったら困ったように笑われた。


「どうした?いつもの臨也らしくない」
「…」
「まぁ言いたくないなら言わなくていいけどよ」


コツリをおでことおでこが触れた。
多分、俺はとてもシズちゃんに大切にされているのだろう。
嬉しいと素直に思えた。
だから心の中にあるものを全部言ってみることにした。


「…モヤモヤしたんだ」
「うん」
「シズちゃんがあの知らない人といっしょにいて、楽しそうに笑ってるのを見て」
「うん」
「おなかの中がモヤモヤしてなんか泣きたくなってシズちゃんはなんでオレいがいに笑いかけてるんだろうって」
「うん」
「オレが大きかったら、シズちゃんと一緒だったら…こんなきもちにならなかったのかな?」
「どうだろうな」
「オレ早く大人になりたいな…そうしたらシズちゃんを守れるのにワガママだって聞いてあげれるのにちゃんとコイビトにだってなれる」
「…」
「ちいさいのやだな」
「臨也…」


自分の胸元を握り締めて俯けばその上からシズちゃんに抱きしめられた。
嬉しいけれどシズちゃんはごめんな。と小さく謝っている。
違うんだ、謝らなきゃいけないのは俺の方なのに。
だからごめんねシズちゃん。と言えば少し抱きしめられている力が強くなった気がした。


「オレ…シズちゃんがだいすきなんだよ」
「…しってるよ、ばか」
「シズちゃんがあんな人がいいっていうならオレがんばってボンッキュッボン!って身体になるし
お料理だって出来るようになるしいっぱいいっぱいアイをあげる」
「…ならなくていいし、そんなにいらねぇよ。1つでいいんだ1つで」


ばかとまた言われ頭を撫でられた。








その後一緒にホットケーキを作った。
シズちゃんは卵を割るのが苦手らしく卵を割る係りは俺に決定して
これからも一緒にご飯を作ったりするらしい。
シズちゃんお手製の蜂蜜いっぱい甘い甘いホットケーキを頬張る。
美味しくて美味しくてきっとほっぺたが落ちてしまう。
もきゅもきゅと食べていたら視界の中にあの可愛らしい紙袋が入ってきて一気に口の中の味がなくなった。
そして再びモヤモヤが襲ってくる。
モヤモヤの原因を聞いていない。
でもその紙袋の中身も気になる。


「シズちゃん!」
「んっ…なんだ?」
「その紙ぶくろの中身なぁに?」
「これか?これはな」


袋を手にしてニコニコと笑顔になるシズちゃん。
ああ…モヤモヤが拡大していく。
お腹だけじゃない全身に回った。
やだやだそんな顔しないで!オレだけを思ってそんな顔して!!
なんて思っても無駄なのだとは判っているんだけれど思わずには居られない。
ほらよ。と言われて中身を見せてもらった。
それはウサギの形だったりゾウの形だったりウマの形だったりする金属製のものだった。


「なにそれ?」
「何って手前がこの間クッキー食いたいって言ってたから…セルティに頼んでクッキーの抜き型買ってきて貰ったんじゃねーかよ…」


最後の方は声が小さくて聞こえ難かったが
ボン!って音がしそうな勢いでシズちゃんの顔が赤くなった。
少し遅れて俺の為にという言葉が頭に入り俺まで顔が赤くなった気がした。


「……ありがと」
「…いや、なんで手前赤くなってるんだよ」
「シズちゃんが赤くなったから…」
「赤くねぇ…」
「ははっ…オレすごくうれしい」
「そうかよ」


嬉しくてまた涙が出てきて、甘い甘いホットケーキは少しだけしょっぱくなった。
シズちゃんが言うには買いに行くのが恥ずかしいからとセルティという友達にお願いをして買ってきて貰ったらしい。
オレの為に。
おれの為に!
モヤモヤは気がついたらどこかにいっていた。
嬉しくて嬉しくてどうでもよくなった。
そのセルティって人には可愛いシズちゃんを見せてくれてありがとう!とお礼を言ってもいいくらいだ。
でもやっぱりその人と一緒にいて楽しそうにしているシズちゃんを見るのは嫌だから
お礼は言わない事にした。






おれだけをみてほしいんだ!




シズちゃん!
なんだよ
仲直りのちゅうしよ!
ケンカすらしてねぇだろ
オレをモヤモヤさせたバツだよ!
知るか!
シズちゃんダイスキ!!
…ばぁか














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匿名様

リクエスト企画ご参加有難う御座います。
ちゃんと答えれてない気がしますが…こんな感じになりました…。
消極的気味な子臨也になってしまった気がします。
申し訳ないです。

もっともっと頑張りたいと思います。
今回は本当に有難う御座いました!




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