1342企画 | ナノ








まだ世界は眠っている時間帯に
グズグズと布団の中から聞こえてきた。
それが何かは解っているのだが頭がついて行かず胸元に抱き着いているサイケの頭を撫でた。
ビクリと反応をしたサイケを落ち着かせようと撫で続ける。
小さな声でつがるつがると確かめるかの様に呟く。
その声に覚醒しきった津軽は布団の中からサイケを引き上げて顔を見合わせる。


「俺はちゃんとココにいる」
「うん。うん。」
「だから泣かなくてもいい」
「つがちゃっ」
「………今日はどんな夢だったんだ?」
「…っ」


サイケの夢は基本的に色は現実とかわらずカラフルなのだが
現実よりぶっ飛んでいて人間が空を飛んでたりクジラと話せたり
時には身体一つで宇宙までいけるらしい。
そんな夢は臨也と逢ってからモノクロな夢も見るようになったらしい。
全てがモノクロで人間が空を飛ぶこともなければクジラとも話せない。
そして地球上に独りぼっちになる夢だとか。
初めは別に気にしては居なかったが津軽に出会ってからそのモノクロの夢がただの悪夢になった。
どれだけ探しても津軽は何処にもいない。
カラフルな夢の中ではとてもとても幸せに二人で空の散歩だとかしていたのに
急にモノクロになったと思えば隣に居た愛おしい者は消え、空から急降下する。
地面に激突する前に叫んで目が覚める。
そんな夢をよく見ていたのだ。
最近は減ったとは言っていたが度々叫び声を聞いていた津軽は心配だった。
今回はその叫び声を聞く事がなかったと言う事は違う夢を見たのだろうと考えた。
津軽がぐっすりと眠っていて聞こえていないだけかもしれないが大体その叫びで目が覚め、その度に抱き締め落ち着かせていたのだ。
その時と同じようにゆっくりゆっくりと背中を撫でる。


「言いたくないなら言わなくていい」
「…」
「ココアでも飲むか?」
「…怒らない?」
「ん?…怒らないぞ」
「…つがちゃんが…殺される夢を見た」
「…うん」
「俺以外の奴に殺される…でもあれは俺だったんだ」
「……」
「俺だけど俺じゃなかった」


ぽつりぽつり話だしたサイケに相槌をうちながら大人しく聞いていく。
サイケが言うには
やはりカラフルだった世界はモノクロに代わったらしい。
それでも隣には津軽が居て、モノクロでも隣に津軽が居るのならば幸せだと感じていたのだが
その津軽の手を誰かが引いて遠ざかって行った。
そのまま連れて行かれぬようにと追いかけて津軽の名を叫んだのに振り返ったのは手を引いていた奴で
その顔がサイケと同じ顔だった。
ただ違うのは黒い服に赤い目をしていてニヤリと嫌な笑みを見せる。
モノクロの世界に嫌に綺麗な赤が入る。
そんな事気にもせずただひたすら走り叫んで
あともう少しで手が届くというところで津軽の着物が赤く紅く染まり崩れ落ち姿が消えたのだ。
その場にあるのは紅い液体だけでガクリと膝が落ちた。
白い服が紅く染まる。
クスクスと笑い声が頭上から聞こえてきたが見上げる気にもならくてその場で泣く事しか出来なかったという。


「…俺が死ぬのが嫌だったのか?」
「それもある、けど…」
「けど?」
「俺以外に殺させたくなくて…」
「……」
「津軽の最期は俺が…俺じゃなきゃだめなんだよ」
「…うん」
「…津軽はわかってないんだ、どれだけおれが津軽の事を思ってるかなんて。
こんなにもこんなにも津軽の事だけをおもっているのに俺だけのものになって欲しいのに!
どうして!どうして俺じゃなかったの?!あれは誰?なんでついて行ったの?おれじゃダメだったの?俺は要らないの!?」
「落ち着けサイケ」
「俺だけを見てよ!俺だけだって言って!俺しか要らないって!俺が!おれっすきなのっつがるがだいすきなの!だからっだからっはっあっ!…っ!!」
「っ!」


津軽は短い呼吸とボタボタと大きな雫を落とすサイケをきつく抱きしめる事しか出来なかった。
与えたい言葉はいっぱいあるのに津軽の口からは何も出てこないのだ。
出てくるのはごめんと言う言葉とサイケの涙だけ。
不安定なのだ。
彼は愛を知らないからどれだけ与えてもそれが愛だと解らないからもっともっとと強請る。
でもそれでもいいのだと津軽は考える。
自分が与える愛で気付かない内に溺れてしまえば良いとすら。
甘えるのが下手ならば下手なりの甘え方を受け止めるし
不器用で痛々しい愛をくれるのならばソレを喜んで受け入れる。
求められれば全てを捧げる。捧げられたら全てを求める。
それが津軽の考える愛の形である。
彼は不器用なのだ。
落ち着きだしたサイケの額に軽く唇を落とし抱えたまま起き上がり相手に言い聞かすように話し出す。


「サイケ、俺はちゃんと生きてる死んでない」
「ん」
「俺はお前だけだから安心しろ。勝手に不安になるな」
「うん」
「俺が死ぬ時はちゃんとお前の手で死ぬから」
「うん」
「だから俺より先に死なないで」
「うんうん」
「俺はサイケだけだから。サイケだけを見てるから。サイケだけを愛してるから。だから…泣くなよ…笑ってくれ」
「つがちゃ!!」
「泣くなって…はは…よく出る涙だな」


ぽろぽろと止まる事を知らない涙は指で拭っても落ち続ける。
それが津軽には少し可笑しくて笑ってしまったのだが
それにつられてサイケも泣きながら笑った。
まだ世界は眠っている。
そう眠っているのだ。
だから今ならサイケの幸せな夢を、空は飛べる事は出来ないが現実にする事が出来る。
手を繋ぎ、愛を囁く。
甘い甘い夢を現実に。


「サイケ、お散歩に行こう」
「おさんぽ?」
「そう。言い換えるならデートだ」
「いく!」
「みんな大体寝てるから、」
「ちゅーいっぱいしようね!!」
「!?…あぁ…」





世界は二人の為だけに廻る






つがるだいすき
おれもだいすき
羽織に入ってイイ?
ああ
しあわせだよ
しあわせだな







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亜美様

遅くなりました。
申し訳ないです。

独占欲むき出しの泣き虫サイケになってしまいました。
リクエストにちゃんとお答え出来ているか心配です…。
精進したいと思います。

リクエスト有難う御座いました!


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