イザショタシズ | ナノ







出会いは突然…




たまたま仕事を早く切り上げられた。
と言っても好きな時に切り上げれる仕事なのだが大体は仕事場で寝泊りしたりしている。
家は1つだけではなくあちらこちらにマンションの1室を借りている。
本日は仕事場から一番近いマンションに泊まる事にした。
晩御飯は適当にピザでも頼む事にしてなにも買わずにマンションへ歩き出す。
今日も人間の醜い処を存分に拝見出来て気分は最高で
うっかりルンルンとステップを踏んでしまう。
マンション前でロックを外し、エレベーターで向かうは最上階。
最上階と言ってもこの辺りじゃあ普通の大きさのマンションで安かったので一室ではなく1フロア貸切にしてある。
エレベーターが開けばそこは自分の家そのもので何もない、はずだった。
一番奥の玄関前に黄色な小さい何かが蹲っている。

「あんれー?おかしいなぁ…ここは確か俺だけしか住んでないんだけどなぁ…」

聞こえるように少し大きい声で言えば、ビクリと身体が揺れるのが解った。
生きてるのかと少し安心。
まさか自分が知らないうちに知らない誰かが自分の家の前で死んでいた、だなんて事は勘弁してほしい。
ゆっくりとその黄色に近づく。
近づいている事に気付いてるのかその黄色は少し身体を縮めた。

「ねぇ…こんなところで何してるの?」

しゃがみ込み話しかける。
顔を見せない様にと腕の中に顔を埋めるがそれを阻止するかのように頭を両手で包み、無理矢理上げさせる。
ヒッ!って声がしたが気にすることなく見つめる。
少年…?まだ幼稚園くらいだろうか…幼い子。
顔には痣だらけで腕には火傷の痕が出来ていた。
…正直面倒な事には巻き込まれたくはなかったがこのまま外に置いておくのも気分が悪いので
その小さな少年を抱き上げ、すべて揃っている家の中に入ったのだ。













「で、君の名前はなんて言うの?」
「……」
「喋れない…?何歳?」
「…」


ソファの上に座っている彼にピザと一緒に頼んだコーラを渡しながら質問する。
カチカチとプルタブを開けようとしているが開かないようでじぃーっと俺を見上げてくる。
仕方ないなぁ、なんてこんな小さい子が開けれるわけないかとそのコーラを取りプルタブを開け再び手渡そうとしたら
小さく”ありあと”と聞こえた。…ありがとうの意と受け取りどういたしまして。と答えた。

「お話、出来るよね?お名前なに?」
「…」
「言ってくれないとお兄さんも困るんだよねぇ…君を家に帰せない」

ふぅ…とため息を吐き出せばビクリと大きく身体が揺れる。
これは…見て解るけど虐待されてるんだろうなー。なんて考えながらピザを一口食べる。

「今日は帰らなくてもいいからさ、君を呼ぶのにずっと君のままじゃ嫌なんだよ。
だからお名前、言えるよね?」

笑顔で怖がらせないように問う。
そうすればキュッっと閉まっていた唇が開き声を発した。

「……しずお…」
「しずおくんかぁ…俺はイザヤ」
「いざやぁ?」
「そう、イザヤ。で、しずおくんは何歳なのかな?」
「…ご、さい…?」
「ん、良く出来ましたー」

偉いねと頭を撫でれば少しビクビクしながら頬を染めていた。
五歳にしては少し言葉使いが幼いし体格も小さい気がする…。実際の五歳児なんてちゃんと見た覚えはないけど。
食べれるかとピザを小さく切って渡すと少しずつではあるが食べてくれたので一安心だ。
その後はお風呂にタオルと自分の持っている一番小さい服を持って行き、
脱がしながら一人で入れるかと聞けば、弱弱しくだが首を縦に振ったので一人で入らす事にした。
何かあったら俺を呼ぶようにと一言添えて。

彼がお風呂に入っている間にいつも世話になっている運び屋に五歳児くらいが着れる服と下着を数着と飲み物を頼んだ。
正確には頼んだ相手は運び屋の同居人で、自分の同級生でもある男なのだがいらぬ詮索をされてしまい苛立つ。

「え、なにイザヤ知らない間に子供とか作ってたの?それとも急に貴方の子よ!みたいな修羅場でも?刺されたらよかったのに」
「ちょっと君酷いよ。それに俺はちゃんとゴムつけるよ、そうならないようにね。…まぁちょっとした企みがうまくいってるって処」
「へ〜そうなんだー。とりあえず解った、セルティに持っていかせるよ。」
「頼む」

運び屋が来るのが早いか、あの子が出てくるのか早いかピザを食べながら待つ。
テレビをつけてみてもくだらない恋愛ドラマや政治がどうの世界がどうのといっているニュースのみ。
つまらないとテレビの電源を消した。
しかし同じ味ばかり食べていると飽きてくるのだ。
あきちゃった、と小さく呟き蓋を閉じる。
テレビをつけていない部屋はとても静かで、お風呂に入っているはずの彼の音すらもしない。
シャワーのつけ方解らないのかもしれない…。
ちょっと覗いてみるかと浴室へと行けば浴槽に黄色い彼が浮いているではないか。
慌てて抱き上げ飲み込んだであろう水を吐かせる。
ごぼり、と吐き出された水を見て少し安心していたら運が良いのか悪いのか家のチャイムが鳴ったのだ。
こんな時に…!と舌打ちをし、しずおを浴室に寝かせまま玄関へ向かい覗き穴から運び屋かどうか確認してから開け、
とりあえず中で待っててと一言言って再び浴室へと戻る。
浴室に寝かせたままのしずおをバスタオルで包み、リビングにあるソファの上へと寝かせて頬をペチペチと軽く叩けば目蓋がゆっくりと開かれた。

「よかった…。しずちゃんお風呂一人じゃ無理なら言ってよ…びっくりした」
「…ごめ…おこらっな、!!…ケホ…」
「怒ってないから泣かないで…本当によかった」

抱きしめてぽろぽろと零れ落ちる涙を拭いながら安堵の息を吐き出す。
その様子をオロオロと後ろから見ていた運び屋はどこから出したのか解らないPDAで何かを打ち込み臨也に見せた。


『だ、大丈夫なのか?』
「一応、ね」
『そうか。その子は?』
「しずおくん」
『…お前の子か?』
「まさかー俺は未だ独身で恋仲なんて居ないよ」
『まさか…誘拐!?』
「ははっおもしろい事を言うねぇ…預かってるだけだよ」
『………。とりあえず言われたものはちゃんと持ってきたぞ。あと要る物があれば言え。』
「そうだなーんー…思いついたらメールするよ」
『わかった。じゃあ私は帰る』
「ありがとーあ、それと近々この子連れて家に行くって言っといて、見てもらいたいし」
『伝えておく』


ヒラヒラと手を振り、玄関へと歩いていく運び屋を視界の片隅に入れながらしずおの頭を撫でる。
怒っていないと言ったのにそれでもポロポロと溢れる水は止まる事を知らないらしい。
ヒクヒクとしゃくり上げながら泣いている。
小さい子には良くある症状で泣き止もうとしてるのにどうする事も出来なくてそれで泣いてるんだ。
大丈夫だよ、と言い聞かせて頭を撫で続けていれば
泣きつかれたのか服を握り締めたまま眠りだしたので
そーっと抱きかかえたまま寝室に連れて行きベッドへとおろした。


「どうしよっかーこのままってわけにも行かないし…色々と仕掛けるか。 
っとーその前に俺も疲れちゃったから一緒に寝ようかな」


服を握られたままなのもありしずおの隣にゴロンと転がる。
しずおを腕の中に引き寄せ収め髪を撫でれば縋り付くように臨也の方へと寄ってきた。
そして残念そうに溜息を吐き出したのだ。


「ちょっと前までは綺麗な色してたのに…こんなキシキシの金髪にされちゃってさ…
もうちょっと早く仕掛ければよかったかなぁ…」


しっっぱいしたかも、と呟き目蓋を閉じる。


「おやすみシズちゃん」





出会いは突然…?





愛してるよシズちゃん
君がこの世に誕生したその時から
ずぅーっと君だけを見てきたんだよ







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