イザショタシズ | ナノ








「いざやとおそろい…」
「そうだね、俺とお揃いだ!嬉しい?」
「…うれし」

静雄がニコリと微笑むとこちらまで微笑んでしまった。
顔の痣が見えないようにと少し大きいのだがフード付きケープを羽織らせた。
しかしそのフードはネコ耳の物だったのだが静雄が嬉しそうに「にゃー」と言ったので問題はなかったのだが
服を探している間に静雄が見つけ出した猫耳帽子を被る破目になってしまった。静雄が喜んでいるから良いとしよう。
妹達が置いていった物なのだが今回は少しだけ感謝しようと思う。
しかしずっと静雄は胸元に抱きついており態々この服を着せなくても良かったかもしれない。




新羅の住むマンションに着いたから呼び鈴を押させてあげようと静雄を呼び鈴の方へ近づけた。
これくらいの年の子は押したがるものだと思っての行動だった。
俺はそんな事なかったけどね。


「はい、ピンポンしてー」
「…ん、……ピンポーン」
「…口で言うとは、ね…流石だよ静雄くん」


しかし予想外な事に静雄は呼び鈴を押さずに口で言ってしまった為苦笑いを零しながら自分が押すハメになった。
パタパタと扉の向こうで走っている様な音が鳴りガチャリと開かれる。


「…いらっしゃい、臨也…に静雄くん。待っていたよー」
「邪魔するよー…シズちゃん挨拶は?」
「…こんちあ」
「こんにちはー静雄くん。なんで君まで猫耳帽子なんだい?ハッ!?まさかセルティとお揃いに!!」
「セルティとお揃いじゃなくて静雄くんとお揃いなんだよ。ねー」
「ん!」


顔を出したのはこの家の持ち主である新羅だ。
ちゃんと挨拶出来たシズちゃんの頭を撫でて褒めてあげれば嬉しそうにほっぺたがほんのりピンク色に染まった。
一人ワーギャー言っている新羅はほっといて遠慮なく入り、抱かかえたままの静雄の靴を脱がせ自分のも脱いで
いつもの様にリビングへ行けば昨夜服を届けてくれた運び屋がゲームをしていた。
忙しそうに指を動かし必死な様子だが気にせず話しかける。


「やぁ。昨日は助かったよ」
『今てがはなせないあtpにしてくrw』
「だろうね。画面凄い事になってる」
「セルティは今最終局面なんだ…私とも話してくれなくてね…」
「ふ〜ん。あ、そうだ新羅ーシズちゃんの身体の痕残らないように出来る?」


ペラリと静雄の腕の袖を捲り火傷の痕を見せる。
これはほんの一部だよ。と伝えながら。
その痕をジーと見つめる新羅を今すぐ殴りたくなったがこれもシズちゃんの為だと我慢する。


「んーなんとかなるかな…今の状態じゃあ保障出来ないけど」
「そう…良かった」
「あとは顔と…」
「…身体にも、ね」
「…信じられないよ」


ハァ…と新羅が溜め息を吐いたその音にビクリと反応した静雄に怒ってないから大丈夫だよ。と優しく教える。
精神的にも癒せる方法を調べなければならない。
とりあえずちゃんと診たいからとゲストルームへと向かった。


「これは酷いね…折れてないだけましと思うべきかな」


上半身裸になったシズちゃんをベッドの端に座らせる。
酷い物で手形が残っていたり足跡が残っていたり、今時はやりもしない根性焼きという名の火傷も何かに切り付けられている痕もある。
成長していくうちに痣の痕は解り難くなるだろうとの事だった。
気になるならレーザー治療がいいらしい。
火傷の痕も盛り上がらなくて変色しただけならある程度レーザーで解らなくなるだろうが
盛り上がり、ケロイド状で数が多ければ切除して別の傷に見せる方法しかない。
あとは皮膚移植…新羅の手があれば治りそうな気がするんだけどどうなのだろうか。


「困ったね…結構かかりそうだ。まぁいいんだけど」
「何もそこまで面倒見なくていいんじゃない?」
「ん?」
「静雄くんの事だよ」
「あー……シズちゃん、セルティのところに行っておいでよ、遊んでーって」


シズちゃんを一度抱き上げベッドから下ろすと服を着させる。
安心させるようにニッコリと笑顔を作り「あの人は良い人だから大丈夫だよ」と言えばゆっくりゆっくりと部屋を出て行った。
と、思えばドアの向こうから顔だけを出し、こちらを伺う様に見る。


「どうしたのシズちゃん」
「…いざや…どこもいかな、い?」
「行かないから大丈夫だよ。お兄さんとお話があるだけだからね」
「ちゃんと…あっちきてくれう?」
「ちゃぁんと一緒におうちに帰るから大丈夫」
「ん!」


ヒラヒラと手を振ってドアから離れていった。
そして先ほどまで静雄が座っていた場所に腰をかけて新羅を睨む。


「それでさっきのことだけど」
「静雄くんをどうするつもりなのかな?」
「そうだ新羅、ほんの少しだけ昔話をしよう。きっとそこに答えがあるからさ」
「えーめんどくさいなぁ」
「まぁまぁ良いから聞きなよ


それはある日の事でした。
一人の青年は暇そうにショッピングセンター内を人間観察も兼ねて歩いていました。
しかし青年は疲れてしまって、店内にあるソファーに座り目の前にあったチャラチャラしたような服屋に入っていく人間を観察しだしました。
そこに入っていく人間は大体店員と似たような格好をしていてつまらないなぁ別のところの前に座ろうかなぁ。と思い始めた頃、その店がタイムセールを始め急に人がいっぱいになったのです。
そしてある夫婦が青年が座っていた前にベビーカーを置いてその店へと入っていきました。
青年は思ったのです。可愛そうにきっと良い大人になれないんだろうなぁこの子。顔だけでも見てみよう。と。
そしてベビーカーの中を覗けば、クリクリ眼にぷにぷにぽっぺた、髪の毛もふわふわしていてとても可愛らしい子が居たのです。
可愛いなぁとほんの少し思い、もう少しその子を見ていようと自分がよく見えるようにベビーカーの向きを変えてソファーに座りなおしました。
数分後、その赤ちゃんがグズグズと言い出し、泣き出しそうでした。
慌てた青年は何を思ったのか指を突っ込んだのですが、その指をキュイキュイと吸う姿が余りも可愛くて可愛くて仕方ありませんでした。
この子を置いていった親に一言言ってやろう。
この子は将来、自分が育てると思ったのです。


コレが真相だ。
まぁ実際は一言言う事せず、裏で手を回した結果がアレなんだけどね。
悪い事をしたとは思っているけど、反省はしてないよ。
俺はどうしてもどうしても彼が欲しくて仕方なかったんだ。」
「君が歪みきっているって事は判ったよ」
「有難う」


呆れきった顔をしている新羅ににっこりと微笑み礼を言う。
これが紛れもない真実だ。静雄は知らなくてもいい。
知らずにずっと一緒に暮らして俺にだけ愛を与えてくれる、そんな子になって欲しい。
はぁ、と溜め息をつき頭を抱えた新羅は再び同じ質問をした。


「これからどうするつもり?」
「どうって…自滅してもらうつもりだけど?」
「…殺すのかい?」
「まっさかー!いくら俺でもそこまではしないよ…似たような事はするかもしれないけれど…俺はシズちゃんさえ手に入ればいいんだよ」
「クズ人間だね」
「褒めても何も出せないよ。シズちゃんのお薬代はちゃんと出すけどね」


にっこりと、さもソレが当たり前のかの様に伝える。
別にどうにかしたいなんて事は思っていない。多分。
ただ可愛いと思って、欲しいと思った。
きっと子供を攫う女の気持ちはこんな感じなんだろうなぁと思いクスリと笑ってしまった。
薬を取りに部屋を出た新羅に続き自分も静雄と一緒に居る為にリビングへと向かう。
そこでは少し可笑しい光景があった。


『おまえは わたしのいっていることが わかるのか?』
「う?」
『じ よめない?』
「んー?」
『……』


液晶画面を睨みつけているシズちゃんと、オロオロしながら接しているセルティ。
シズちゃんは字が読めない。言葉も少し遅い気がする。
それなのに液晶を見せて一生懸命になっているセルティには悪いが笑ってしまった。
仕方なく助け舟を出す。


「まだ静雄くんは字なんて読めないよ」
『で、でもさっきは私の言った事に返事をしたんだ』
「文字を見せたのかい?」
『いや、違う。考えながら打っている最中に返事を…』
「せうちぃ」
『!?』
「ちゃんと発音出来ないねぇ」
『可愛いな!!コレ!!』
「あげないよ」


静雄の後ろから驚かさないようにゆっくりと抱き締め、ただいま。と声をかけたら嬉しそうに「かぁりー」と言われた。
抱いたままセルティの隣に座って新羅を待つ。
シズちゃんはセルティから出ている謎の影に興味津々で触りたいのだろうが恐怖が勝って俺の腕にしがみ付いたまま動かない。


『わたしは こわくないよ』
「…」
『だいじょうぶ』
「せうちぃ…いざや…せうちぃこあい?」
「怖くないよ?とても優しいお嬢さんだ」
「ん!」


静雄がセルティを触ろうと立ち上がり、ヘルメットに触れる。
ころりと外れたヘルメットの下には顔が無い。


「ゃっ!!」
「…あーあ」
『ああああああああああああああ!!!!!!!!!』
「薬持って…セルティ!どうしたんだい!?はっ!?まさか臨也のやつが君を襲おうと!!」
「いざあぁ!!!!」
「新羅煩いよ」


部屋には動揺したセルティから放出されている黒い影と
シズちゃんの驚いた言葉にならない声と
勘違いしている新羅の叫び声が響いた。




ぜんとたなん



静雄君!!私は怖くないから大丈夫だから!!
いざああぁぁぁあ!!!!
イタイ!イタイってシズちゃん!髪の毛抜けちゃう!!!
セルティ!!早く僕のところに来るんだ!!そんな変態に近付いたら変態になってしまうよ!!!!









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