一緒に暮らし始めて一ヶ月以上経った。
親と一緒じゃなくて寂しくないのか？って聞いたら元気に「シズちゃんがいるからへいき！」と言われてしまった。
それじゃあ駄目だろ。と思いながらも少しだけ嬉しいと思った俺はもっと駄目な奴なんだろう。
臨也と一緒に暮らすことが当たり前になってしまうのは少しだけまずい。
いつかは親と一緒に暮らすようになるんだから。
そんな事を考えながら洗物をしていたら臨也から声をかけられた。
「あのねシズちゃん」
「どうした？」
「あのさーこんどのにちようびヒマ？」
「ん？…あぁヒマだ」
少し考えるフリをしてから答える。
考えなくても暇なんだけど。
臨也と暮らすようになってから同級生と遊ぶ事が少なくなった…と言うより無いに等しいだろう。
元々友達は多くは無かったが、それなりに居るには居る。
相手も一応事情は知っているから誘われなくなったのが正解だ。
少し寂しいが仕方ない。
「あのね！あのね！！にちようびにうんどうかいやるからきてよ！！」
「…あ？…ああ、もうそんな時期なのか。判った行ってやるよ」
わーい！シズちゃんだいすきー！と腰抱きついてくる臨也を適当にあしらいながら食器を乾燥機の中に入れていく。
「おい、その事はおばさん達は知ってんのか？」
「いちおーママに言ったよー」
「なんて言ってた？」
「来るってーなんかパパもやすみとれたら来るってさー」
「ふぅん…良かったな」
濡れている手を拭いてから臨也の頭を撫でる。
嬉しそうに笑いながら撫でている手にぐりぐりと頭を振る臨也は少し可愛いと思った。
運動会当日。
お弁当は臨也の母親が作ったのだがどうしても俺のも食べたいと我侭を言った臨也のせいでおにぎりだけを作って渡してやった。
一人で見てるのも寂しいからと友達に声をかけたら快くついて来てくれた。
「ごめんなセルティ、態々ついて来てもらってよ」
『気にするな。暇だったし静雄のおにぎり食べれるんだろ？』
「ああ！いっぱい作ってきたんだ。遠慮せず食べろ」
『ありがとう。良いお兄ちゃんだな』
「ハハ。照れるだろ」
友達のセルティは音は聞こえているが声が出ない。
ある日突然出なくなってしまったらしい。
その為、携帯で文字を打ちながら話をする。
唯一心許せる友達だ。
臨也が出る種目は徒競走と玉入れと借り物競争と創作ダンスらしい。
それが始まるまでセルティと話をしていた。
徒競走の時は力一杯走る臨也を応援していて
ゴールした後に俺に気付いた臨也は嬉しそうに手を振ったあと少し表情が暗くなった気がした。
その後も俺達は場所移動していないのにこちらを見てはくれなかった。
最後の最後まで、意図的にこちらを見ないようにしていた。
終わった後にこちらに寄ってきたと思えば「ママといっしょにかえるから」と一言言って校舎へ入っていってしまった。
俺は意味が判らず、頭を傾げた。
帰り道、なんであんな態度をとられたのか判らない俺は黙り込んでしまった。
そんな俺にセルティが携帯を見せる。
『彼に悪い事をしてしまったね』
「なんでだよ？」
意味が判らずやっぱり俺は頭を傾げる。
『…静雄は気付かなかったの？』
「なにがだ？」
『…彼、私が言うのもなんだけど嫉妬したんじゃないかな』
「嫉妬？」
『どう言えばいいのかな…弟が居る静雄なら判ってくれると思うけど、お母さんが取られてしまうような…そんな気持ちになったんじゃないかな』
「…臨也が？」
『静雄は彼のお兄さん的存在に、もうなってるのかもしれないね』
「…兄的だったらどれだけマシか…」
一時的な迷いだろう熱烈な愛の告白を思い出し頭を抱える。
臨也の考える事はいまいち理解出来ない。
前方に良く知っている姿を発見した。
それはセルティの名前を叫びならがこちらへと近付いてきている。
「新羅が迎えに来たぞ」
『…恥ずかしいやつめ…』
「愛されてるな」
『静雄、お前もだよ』
「ん？」
セルティが後ろに視線を向けたから釣られて一緒に後ろを見てしまった。
そこには体操服姿の臨也が走っていて、俺の名前を呼んでいる。
「シズちゃ！やっぱいっしょにかえっろおぉ！！」
「いざや…」
『愛されてるな』
「…みてぇだな」
『じゃあ私はこれで失礼するよ。おにぎり美味しかった！ありがとうな！』
「おう。俺もありがとな。じゃあまた」
『また』
セルティに別れを告げて、俺は臨也の方へと走り出す。
後ろの方から新羅の叫び声が聞こえたが気にしない。
あいつよりも臨也の方が大切だ。
がんばってはしったよ！
シズちゃん！ただいま！！
おかえり臨也
あのね！オレいちばんだった！！
凄かったな！
だからごほうびちょうだい？
なんだ？安いのにしてくれよ。
あのね！あのね！！ちゅうして！！
却下だ！！
やすいのに！シズちゃんのケチー！！