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色々と注意かも。























静雄はあの行為が終わった後、シャワーを浴びながら考える。非生産的な行為の無意味さを、流れ落とす種の儚さを。何も生み出せず、何も繋ぎ止めれない自分の意味を考える。考えた所で思いつく訳もなく、ただ体内に吐き出されたどろりとした白濁を掻き出した。
一通り身体を洗い流し、湯に身体を預ける。その間にあいつは帰るのだろう。いつもそうなのだ。行為が終わって、その後一緒に眠るという事や、風呂に入るという事をした事がないのだ。終わったら即帰る。ただの性欲処理相手とされているのだろう。別にそれでも静雄は良かった。相手にされているのだから。それすらされなくなったら、なんて事を考え、馬鹿らしくなり溜息一つ吐き出す。あいつと俺は、何もないただのセフレのような関係だ。俺の気持ちなんかあいつには解るわけがない、知られる訳にはいかない。知られたら…。

「俺は捨てられるのか」

浴室で零れた音は誰にも知る事は無かった。

なんとなく、あいつを繋ぎ止める方法を静雄は考えてみた。馬鹿げていると解りながら、考えたくなったのだ。そしてその馬鹿げた考えは、より一層馬鹿げた考えを引き起こした。自分の腹の中にやつとの子を宿せば繋ぎ止めれる、かもしれないと。それはどう頑張っても無理な話で、自分で考えた事ではあるが笑いが込み上げてきた。どうしようと、奴を繋ぎ止める事は無理なのだ。やつな何よりも自由を愛し、人間を愛している。俺なんか見ていない。人間じゃない化け物なんか、どうでもいい存在なのだ。その考えが少し寂しくなり、何かが零れそうになった。それを誤魔化す為に湯に潜った。




風呂から出れば案の定、やつはもう居なかった。それでいい。自分達の関係なんてそんなものだ。次いつ会えるのか、なんて解らない。そんなものだ。汚れに汚れたシーツを剥がし、洗濯機に投げ込む。洗濯機回すのは起きてからだ。まだ日も昇っていない。ベッドへダイブすれば、枕から微かにあいつの匂いがして、切なくなった。残り香だけ置いていくなんて酷い男だ。静雄もあいつに何か残せているのか考えた。何も残せていない。この枕と一緒で、多分匂いだけだろう。背に、首筋に、腕を回せずいつもシーツを掴んでいるのだから、傷すら残せていないだろう。匂いなんて、洗い流せばすぐに消えてしまうものだ。ぼんやりとそんな事を思いながら、意識が遠退いた。



それからやつは一ヶ月以上姿を見せなかった。
何処かで野垂れ死んでいるかもしれないな、なんて煙草をくわえながら考える。あいつの最期は自分の手で…なんて考えは捨てなければ。そんな事より静雄は自分の身体の調子の悪さに首を傾げた。体温が少しだけ上がり、匂いによりすぐ気持ち悪くなるのだ。どうしたものか、これでは上司といつも行っているファーストフードに行けない。ああ、これもすべて、やつのせいだと思う事にした。

それから数週間後、死んだと思っていた奴が、目の前に現れた。いつものように、人を馬鹿にしたような笑みを浮かべて静雄に近付く、降参と言わんばかりに両手上げながら。しかし静雄はそれどころではなかった。最近、吐き気が凄いのだ。込み上げる吐き気に、身体を曲げる。ああ、あの匂いは久し振りだと頭の片隅で思いながら。両手を上げていた男は、身体を曲げる静雄の背中をサスりながら話しかける。久し振りだね、だとか、何してた?だとか、どうでもいい事ばかりだと静雄は思った。でも男が零した最後の言葉に顔を上げる羽目になる。男はこう零したのだ。


「俺の子を生むんだよね?頑張ってね、シズちゃん」


何を言われたのか解らず、目を見開く。クスクスと目の前の男は笑っている。その姿を見ていたら、急に頭痛が襲ってきた。そして頭の痛さに静雄は意識を手放した。







「これで繋ぎ止めれるね、シズちゃん」











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