イザシズ | ナノ




戯言に落としていた
指揮官・臨也と人体兵器・静雄の
出会いと言うか最初らへんっぽいお話。
ちょっとずれてるかも知れない。











新羅が秘密だと言いながら見せてくれたそれは
試験管の中に得体の知れない液体が入っていただけだった。







「ねぇ新羅コレなに?」
「コレはね、420って言って人体兵器になるものらしいよ」


臨也は「よん、にー、ぜろ」と繰り返した。
人体兵器とは人間の形をした兵器なんだろうなー程度であまり深く考える事もしなかった。
新羅の父親は変な人だからこんなモノだって作れるんだろう。


「420って事は他にもいっぱい作ってたって事?」
「そうじゃないかなー私にはよく解らないけど…これから必要になるからって必死になってたよ」


ふぅん。と興味の無い返事を臨也は返す。
これから必要…兵器が必要になると言う事は戦いを仕掛けるのか、仕掛けられるかのどちらかだろう。
簡単に言えばそのうちに戦争が始まると言う事だ。
俺には関係ない。そう思った。
液体がコポリと息をする。





それから5年後、臨也は15歳になり情報関係の学校へ通っていた。
それなりに優秀で色んな情報が入ってくる。
授業の一環だと行って他国へ入り込み情報を奪う。
色々と聞いていくうちにやはり自分が住んでいる国が戦争をするらしい。と言うものを手にした。
面倒な事になるのならこのままあの国を捨てると言う選択も出来たがフと思い出してしまった。
あの試験管の中にいた彼はちゃんと人間になれたのだろうか?と。
そして数日後、新羅と会う約束をして試験管の彼、420はどうなったのか聞いた。


「あー彼かい?ちゃんと人間になってるよ。今は10歳くらいだ」
「…うまくいったんだ。見せてよ」
「君が興味を持つなんて世界が終わるかもしれないね」


なんてね。と連れて行かれた部屋は前と違う部屋で中に入れば試験管と比べ物にならないくらいの大きな水槽に彼は居た。
初めて見た時はただの液体だったのだがどうしたら人間の形になるのか不思議だ。
ジーっと液体の中に丸まって浮いている彼を見つめる。
目蓋は閉じていて起きる気配がない。


「新羅、これは寝てるのかい?」
「いや、彼は起きれないんだよ。まだ不完全なんだ」
「ふぅん」


廊下から新羅を呼ぶ声がして新羅は部屋を出て行った。
臨也はペトリと水槽に身体を預け眠っている彼に話しかける。


「ねぇ…420って呼びにくいからさ…シ・ズ・…オ…シズオ!…シズちゃんって読んでいいかな?いいよねーその方が可愛いし、さ。
君はいつになったら起きるの?俺の声聞こえてる?…ってそんな訳ないよねぇ…」


一人クスクスと笑いながら水槽の中の彼に視線を向ければバチリと視線が合う。


「…えっ」


水槽の中の彼はニコリと微笑み再び目蓋を閉じた。
臨也は彼の笑顔が脳裏から離れず、一週間に1回程度だが彼に会いに行った。
しかし彼が起きる事はあの日以外はなかった。













国は着々と戦争に向けて準備をしているらしい。
その一つがシズオだ。
臨也は考えた。
どうにかして彼を傷つける事なく戦いを終わらせられるかと。
情報だけが脳に入り込む。
どれもこれも役に立たないような情報ばかり。
戦争を起こさない方法なんて誰も知らない。
誰も教えてくれない。
戦争を起こす情報しか教えてくれない。




臨也は毎日のように会いに行った。
彼がどんどん成長していくのを見守りに。
あの時は10歳だったのに、今では同じ20歳くらいの外見をしている。
液体の中で浮いている彼はきっと自分より大きいのだろう。
水槽も大きくなった。相変わらずコポコポと息をしてる。


「ねぇ新羅、シズちゃんはいつ起きるの?」
「どうだろうね…このまま起きないかもしれない」
「…その方が幸せかもね」


兵器になんてされるくらいならこのまま眠り続ける方が幸せだ。
彼を戦場に出したくない。
綺麗な彼が傷付くのは見たくない。

嗚呼、そうか


「新羅、俺が国を動かすよ」
「…突拍子の無い事を言うね、相変わらず」



そして1年後、友達に宣言したように臨也は軍の一部を動かす地位まで上がった。



「有言実行、さすがだね」
「これも全部シズちゃんの為だよ」


と言っても大佐だけど。と呟きながら愛おしそうに水槽の中の彼を見つめる。
彼は相変わらず眠ったままだ。
ゆらゆらと水槽の中を浮いているだけの物体。
心臓は動いているし、勉強もしているらしい。
頭に繋がっている色んなコードから情報が入っている、と言う事しか臨也には解らなかった。


「じゃあ私は別の件があるから時間の許す限り420を見ていけば良いよ、どうせ明日には旅立つんでしょ?」
「…うん、1ヶ月くらいは帰れないかな」


気をつけて。と一言残し新羅は部屋を出た。
この国はとうとう戦いを仕掛けた。
誰が、どこに、どうして。
そんな情報はもう意味が無かった。
そんな情報を手にしても戦争がなくなる訳は無いのだから。
いつもの様にシズオが浮いている水槽にペトリと抱きつき目蓋を閉じる。


「…水槽じゃなく…君を…君を抱き締められたらどれだけ幸せか…」


その言葉に返事するかの様にコポコポと息をする。


「実はさ…最近は君が戦う姿も見てみたいと思うようになったんだ…綺麗だろうなって…。
でもやっぱり俺は君が傷付く姿を見たくないんだ…アハ、矛盾してるだろ?それでもさ…戦いはなくならないんだよ」


王様が戦いを望んでいる。
国が破滅を望んでいる。
世界が、彼を望んでいる。


「…だから俺は上に」


君の為に、だなんて言わない。
自分の為に、俺の為に上にあがるのだ。
彼を手にする為に。
残念だ、もう行かなければ行けない。
臨也はそっと水槽に口付け、彼の前から、部屋から、国から、姿を消した。






くそったれなお国の為に俺は今日も走る






それから4年の月日が経ち、臨也は元帥へ上り詰めた。
あとはこのくそったれな国を潰すだけ。
クスクスと笑っていれば背後から声をかけられた。
振り返ればよく知っている顔と、待ち焦がれていた彼が居たのだ。


「臨也、久しぶり」
「久しぶり、新羅。…で、隣の彼は」
「君が会いたくて仕方なかった子だよ」


新羅にぽんぽんと背中を押され、彼が少しだけ前に出た。
臨也も金髪の、待ち望んでいた彼の前に移動する。
彼が口を開き言葉を発そうしている。
ああ、待ち望んでいた、待ち望んでいた彼の声を初めて聞けるのだ。


「あ、あ…俺は420と言う…手前の好きなように使え」


低くて心地いい声をしていた。
あまり言葉は綺麗じゃないがそんな事気にならない。


「420、ちゃんと教えたよね?元帥の直属になりました、420と申します。って言いなさいって」
「…長くて覚えれねぇよ…」
「良いよ、俺は気にしてない。あと420じゃなくて君は今日からシズオだ。シズちゃん!ヨロシクね」
「…ヨロシク」


手を差し出せば、その手を握られる。
待ち望んでいた彼に触れた。
ああ、暖かい。
人工的に作られた彼でも熱はあるのだ。体温を持っている。
だったらやっぱり自分が出来る事は一つしかない。



「ねぇシズちゃん」
「なんだ?」
「俺、君を守るから。その為には手段も選ばないよ」
「は?」
「新羅ー手伝いよろしくー」
「決行するのかい?出来る範囲でやらせてもらうよ」
「ありがとう」


臨也がニッコリ微笑む。
新羅はどこかへ電話をし始めた。
シズオと呼ばれた彼は解らないと頭を傾げていた。
そんなシズオを抱き締め、耳元で囁く。


「さぁ、シズちゃん初仕事だ



国を潰そうか



君なら簡単さ」




そう手段は選ばないのだ。
君が、俺が、幸せに暮らせるのなら。
例え君が傷付こうと関係ない。
君が隣に居ればどこであろうと幸せだ。








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