イザシズ | ナノ





可愛らしいフワフワした白いコートから覗くのは、自分とは全然違う少し肉付きの良い…
だけど細くて可愛らしい足だった。





煙草に火をつけようと口に銜えていた。
ライターを探している時に聞き覚えのある声がし、そちらに視線を向ければよく知った顔が居た。
そいつはいつもと違う服装だった。スーツを着ていた。
ファーつきのコートではなかったのだ。
その隣には可愛らしい女が居て、楽しそうに笑い合いながら歩いている。
腕を組んでいて、知らない人が見ればあの二人は恋人のように見えるだろう。
いや、完璧に恋人同士だ。
そのポジションは自分なのに。
静雄は手にしたライターを無意識に握り潰した。



その後はどうやら顔色が悪かったらしく上司に早く上がるようにと言われてしまった。
大丈夫だと言っても「今日のノルマは終わりだから」と頭を撫でられる。
少なからず自分の事を心配してくれているのだと思えば嬉しくなった。
この人の事を好きになればこんなにも苦しくはなかったのかもしれない、とバカな考えを持ってしまうくらい優しい人だ。
帰り着く間にも静雄は考えてしまう。
あの二人はあの後どこに行ったのだろうかとか、キスはしたのだろうかとか、愛の言葉を囁きあったのか身体の関係は持ってるのだろうか。
考えれば考える程自分が惨めになっていくだけなのに考えてしまう。
やっぱり同性より異性の方がいいんだろう。
自分より大きい奴を可愛いだとか思えるハズもない。
小さくてフワフワしていて抱きしめたら壊れてしまうようなそんな子の方が良いに決まってる。
胸だってこんな骨ばったものよりも肉がある方がいいだろうし
二の腕も太股も柔らかい方がキモチイイだろう。
…何も勝てるものがないじゃないか。
醜い感情だ、と思うと同時にこんなにもあいつの事を思っていたのかと笑ってしまった。
どうせなら手酷く捨ててくれたら良いのに。
そんな事を考えていたら玄関前に居た。
鍵を回せばガチャリといつもの音がしなかった。
鍵をし忘れたのか?とドアノブを回せば簡単に開き家の中に入る。
靴を脱ごうと下を向けば見慣れた靴があり息が詰まった。
あのまま家に来たのだろうか。
もしかしたらこのまま別れ話をされるんじゃないか?
不安しかない静雄はそのまま振り返り家から出ようと再びドアノブに手をかけた。


「おかえりシズちゃん」


声をかけられビクリと肩が揺れる。
振り返ればそこにはやっぱりと言うべきか、真っ黒な彼がいた。


「帰ってきたばかりなのにどこに行くの?」
「…ッ……コ、コンビニに…牛乳もうねぇし、あと」
「牛乳もプリンも煙草も買ってきてるよ」
「…明日の朝飯とか…」
「俺が作ってあげる」
「なっ…泊まる気かよ…」
「恋人なんだからいいでしょ?」


恋人、その言葉に息が詰まるかと静雄は思った。
あの時見たものが脳裏に焼きついている。
表情が歪みそうになるのを必死に耐えていたら臨也が近付いてきた。
ばれない様にと顔を逸らしたのだが無理矢理目を合わせさせようと手で固定される。


「何泣きそうな顔してるの?」
「ッ!なんでもねぇ!」
「…俺が他の人と歩いてたから?それも腕を組んで」
「ッ!?」
「やっぱりね」


ガチャン。と鍵を閉める音がして、腕を引っ張られ部屋の中へ連れて行かれる。
そのままベッドへと座らされた静雄は枕を手にして顔を埋めた。
鼻がツーンとして今にも泣きたい気持ちになったからだ。
きっとこのまま終わるに違いない。
朝飯を作ってくれるのだって最後だからだ。
泊まっていくのだって今日で終わりにしたいからだ。
そんな事を思っていれば涙が溢れてしまった。


「…いざやのばか…しね…」
「えー?俺のせいなの?てかさーシズちゃん聞いて」
「聞かねぇ…絶対別れねぇ…」
「…ン?」


臨也は頭を傾げた。
別れない?どういう事だ。自分が誰かと腕を組んで歩いていたら別れなければならないのか?


「シズちゃん」
「イヤダ」
「シズちゃん俺もわかれ」
「ヤダ!」


どうやら誤解されているようだ。
その誤解を先に解かなければ話が出来ない。
何をそんなに恐れることがあるのか。
君は誰よりも魅力的なのに。
ハァ。と溜め息を吐き出せばピクリと反応を見せる。
その姿を愛おしいと臨也は思った。


「…あれ紀田君だから…女の子じゃないよ」


そう告げれば、ガバっと勢いよく静雄は頭を上げ臨也の方を見た。
鼻先は真っ赤になり目には涙が溜まっている。
枕が濡れているのを見た臨也は少し後悔する。


「でも細かったし」
「まぁ…彼もどちらかと言えば細いタイプだと思うよ」
「手前より小さかった」
「俺より小さい子なんていくらでも居るじゃない。俺と紀田君なんて5センチ程の差だよ」
「あとなんか可愛かったし」
「見た目は可愛げあるよね彼。中身は全然可愛くないんだけど」
「…ふわふわしてた」
「髪が?服が?服はサキ、メイクとかは波江の力だよ」
「………臨也とお似合いだった」
「はぁ!?やめてよシズちゃん!!」


あんなのとお似合いになりたくないよ!!と静雄の肩を揺すって力説する。


「アレはただの仕事の一環で、いつもと違う格好だったのは色々とばれないようにしなければいけなかったからだ。紀田君はカモフラージュだよ。
サキに頼もうかと思ったんだけど紀田君が猛烈に反対してきて仕方なく彼に女装してもらう事になったんだ。
凄く嫌がってたけどそれなりのお金を渡したらやるって言ったのは彼だよ。俺にそんな趣味はないからね。
仕事の内容は言えないけれど決して君の事が嫌いになったわけでもないし、紀田君と付き合うって事もない。絶対に!言い切れる!
俺はシズちゃんの事が大好きだし、別れるつもりなんて微塵もない。
君が思っている以上に俺は君に事が好きなんだよ、愛してるっと言ってもいい。というか愛してる。惚れ込んでるよ。
きっと今後君をこんなに愛してる人なんて現れないと思うんだけど、シズちゃんはどう?」


そう問われて数秒後、静雄の顔は真っ赤に染まった。
初めは何を言われたのか理解出来なかったのだろう。
解った途端に爆発してしまいたい気持ちになり布団の中に潜りこんだ。


「ねぇ…答えてよシズちゃん」
「…しらねぇ!」
「素直じゃないなぁ」


布団の中に入らせないようにと腕で押さえているのだが静雄は気付いていなかった。
足元ががら空きなのだ。
臨也はその足元から布団の中に入り静雄に抱きつく。


「あっ離せ!」
「ヤーダ」
「…クソ」
「シズちゃんってさぁー俺の事大好きだよねぇ…嬉しいよ」


静雄はクスクス。と笑う臨也をぶん殴りたい衝動に駆られた。







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バカ!死ね!しねじゃなくて死ね!!
何ソレ
爆発しろよ!!
ドッカーン
〜〜ッ!?
アハハッ!!…大好きだよシズちゃん
……おれもだ
今日はそれで許してあげる











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