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ふああぁぁぁ…此処が何処だか解らない…。
助けてよ…ろっぴちゃん…。






彼は今にも泣き出しそうになっていた。
周りを見回しても人とビルしかないのだ。
手には地図を持ってはいるのだが、地図の読み方を彼は知らなかった。
誰かに声を掛けようと頑張るが、勇気が出ずに立ち竦む。
ああ、このままじゃあ彼の家まで行けない。どうにかして行かなければ。


「…ろっぴちゃ」


地図を見て、歩き出す。
そっちが正解なのか間違いなのか解らないままに。
歩いて歩いて、立ち止まり周りを見渡す。そしてまた歩く。
一向に見知った世界に出会わない。
もしかして降りる駅を間違えたのかもしれない。
ああ、どうしよう。このままじゃ彼に迷惑を掛けてしまう。
歩けど歩けど辿り着かない。
もうだめだ。としゃがみ込む。
助けを呼ぼうと鞄から携帯を取り出し、メモリーを見る。
入っているのは一件しかなくて、それは求めている人で。
この人に掛けたらすぐに来てくれるけど、彼は忙しい人だからやっぱり迷惑は掛けたくない。
ぽとりと涙が落ちた。
ああ、なんで自分はこうなのか。
いい加減、道を覚えたいのに覚えられない。


「…もうヤだ…」


どんどん自分が嫌いになっていく。
手伝いを任される度に、外に出る度に。
役立たずなのだと思い知らされるから、嫌いになっていくのだ。
ろっぴちゃんろっぴちゃん…と心の中で叫ぶ。
届かないのだが、彼には今それしか出来ないから呟く。


「ろっぴちゃん…」

「何?」


聞き覚えのある声に驚き顔を上げれば、そこには逢いたい人が居た。
安心して気が緩んだのか、涙は止まらなくて零れてはマフラーに吸い込まれていく。


「な、なんで…此処に居るの?」
「なんとなく。月島に呼ばれた気がしたから、か、な?」


同じ目線に合わせる様にしゃがみ、泣いている彼の頭を撫でた。


「ホラ、泣き止んで」
「んっ」
「早めに俺を呼べって言っただろ?」
「…う」
「…迷惑じゃないから安心して」
「…はい」


その言葉を聞いて彼は頭を撫でてくれている彼に抱きつき、安心させるように彼はそれを受け止めた。
彼が泣き止むまでの間好きなようにさせていた彼はもう泣き止んだだろうと、顔を上げさせた。


「頑張った月島にご褒美をあげる」
「ご褒美?」
「そう。だから目をつぶって」
「?」


月島は言われた通りに目蓋を下ろす。
彼が急に居なくならないようにコートを握り締めながら。
その様子にくすりと笑い、人差し指でふにりと唇に触れる。


「月島、口開けて」
「…あー」
「…そう、そのまま」


ふにふにと唇に触れながら、もう片方の手で自分のコートのポケットを探る。
取り出したのはアメで、包みから取り出す為に口に挟み引っ張った。
取り出されたアメを掌に乗せたまま、月島に声を掛ける。


「月島、俺の言う言葉を言って」
「はい」
「トリックオアトリート」
「…と、とりっくおあ、とりーと?」
「ん、可愛いね」


唇を触っていた手を顎へと移動させて少し上を向かせる。
そして掌に乗せていたアメを自分の舌へと乗せ、無防備に口を開いている彼に口付けた。




トリックオアトリート






ッッ!?
(慌ててる…可愛いな)
ろっろっ!!
…さぁ、帰ろうか。














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