サイツガ | ナノ




見えてる?ねぇ見えてるの?
俺と君の指に繋がっている糸が
俺にはちゃんと見えてるんだよ?
だからきっと君にも見えてると思うんだ!
だから早く気付いて俺に気付いて
そうしたらきっと
俺も君も
シアワセになれるよ。








彼の世界はとてもカラフルに出来ている。
それは目が痛くなるくらいのカラフルさだ。
でも彼にとってそれは普通故
目が痛くなることなんてこれっぽっちも無い。
人間の肌の色が紫だったり青だったり
葉の色がピンクだったり太陽が緑だったり
ビルの色が黄色だったり赤かったり
それは彼にとって日常的な色をしているので
驚く事は無いのだ。
それに対しサイケは不思議だとは思わなかった。
生まれてからずっとそうなのだから。
先生に怒られてもそれがサイケの見えている世界なのだ。
気持ち悪がられたってそれが彼の世界だ。
友達も一応それなりに出来た。
でもやっぱりその子達の色はおかしいのだが
いろんな色の人間を見てきた彼にしてみれば普通で
自分だけが肌の色をしているだとか
自分だけが黒色の髪を持っているのも
普通だと思っていた。
彼らも自分と同じで世界はカラフルなのだと思っていたのだ。
そう問えば、違う気持ち悪いよと言われ離れていってしまったが
不思議と寂しいとは思わなかった。
自分は違うのかと理解はしたが理解だけでは変える事はできない。
どう足掻いたって世界はとてもカラフルなのだから。
気がつけば周りには誰一人としていなかった。
親すらも彼を見離したのだ。
捨てられた事など気にしてもいない。
一人で好きに生きられると逆に楽な生活を送っていた。


そんなある日、目が覚めると小指に違和感を感じた。
そっと小指を見れば
そこにはピンク色をした糸が巻かれていた。
外そうと引っ張れば指が切れるのではないかと言うくらい痛く、
ハサミでその糸を切ろうとしても硬くて切れなかった。
切る事を諦めその糸がどこまで続いているのか気になり
引っ張って糸の方へと歩いてみれば
それは外へと続いていた。
急いで着替え外へと出ればそれはエレベーターの中まで続いており
どうやらマンションの外まであるようだ。
一度部屋に戻り必要な物をポケットへと詰め込み
お気に入りのピンクのコードのヘッドホンをつけ
マンションを出て行った。

やはり世界はカラフルでその糸を見失いそうになりながらも辿り歩いていく。
1時間程度歩いたところでその糸の先が見えたのだが
その先にはなんと人へと繋がっていたのだ。
とろとろとしていそうな蜂蜜色の髪を持つ彼は
自分と同じ肌の色を持っていた。
そんな人を見たのは初めてで驚く。
自分の親ですら茶色と緑という謎の色をしていた。
そんな世の中で初めて自分と同じ肌の色を見つけたのだ。
こっそりこっそり蜂蜜色の彼を追いかける。
近づくにつれて解ったことは
彼は今時には珍しい和服に身を包んでいた。
白地に青の模様が入っている。
そしてやはりあのピンクの糸は彼の小指へと繋がっているようだ。
気付かれないように気配を消し近付く。
顔が見たい。
どんな声なのだろうか。
やっぱり彼も世界はカラフルに見えているのだろうか。
そんな事ばかり考える。
蜂蜜色の彼が人気のない路地裏へと入っていった。
付いていくとばれるかもしれないと思いながら
その後をつける。
案の定路地裏に入れば
彼がこちらを向いて立っていた。
引き返そうとしたがフード部分をつかまれ逃げる事を許されなかった。
そーっと彼に目を向ければ睨みつけられる。
少し怖いが美人の分類に入る顔をしている。



「さっきからつけてたろ」
「…」
「何が目的だ?」


低くて心地いい声をしていた。
彼の問いを無視してそんな事を考える。
自分の好きな音を持っていた彼にニッコリと微笑み告げる。


「俺あんたの声が聞きたかったんだ!だから嬉しい!!
あとあとえっとあの俺サイケって言うんだけどお名前何?」
「…津軽」
「つがる?つがる…つがちゃんでいいかなぁ…つがちゃん…可愛いねつがちゃん」


フードをつかまれたままだというのに
バタバタと手足をバタつかせ喜ぶ。
その反動で津軽と名乗った彼はサイケのフードから手を離してしまった。
彼の手を取りやっぱり…と呟けば自分の小指と彼の小指を立て
彼の目の前にまで上げる。


「ねぇつがちゃん!君には見えてるかい?俺と君はピンクの糸でつながれているんだよ!!」


急にそんな事を言われても意味がわからないと首を傾げる。
そんな様子の彼すらサイケには可愛く映る。
ニコニコと微笑み、疑問符を浮かべている彼の両手を掴み
先程であったとは思えぬ言葉を発したのだ。


「ねぇつがちゃん!俺はつがちゃんが好き!運命の人だよ!!
だからね、だから一緒に住もう!大丈夫俺が全部面倒見るから安心して!
俺はつがちゃんがいたら生きていけるからだから一緒に住もう!!」


そして津軽と名乗った彼もまた少しおかしいみたいで
そんな言葉に答えるのだ。


「…まぁ良いけどよ……手前には悪いが
俺にはその糸とやらは…まぁいいか」
「いいの?本当に?俺んちに来てくれるの?…うれしい!!
つがちゃん大好き愛してる!!」


ふるふると振るえ涙をためながら津軽に抱きつき
愛の言葉を囁く彼を気にせず抱きかかえ
元来た道へと歩き始める津軽。
周りの目などきにする事もなく歩いていく。

俺にはどうみてもこれは赤にしか見えないんだがピンクなのだろうか
とりあえず家に戻り身支度をしなければ。

そんな事を考えサイケをくっつけたまま歩いていく。

周りの事などやはり目に入っていないようだ。








すき
うん
だいすき
わかった
いっしょにいてね
うん
あいして
うん









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