サイツガ | ナノ






あの弟事件が起きてから数日サイケは外に出なかった。
パソコンに向かってキーボードを叩いていたりマウスを忙しなく動かしたり。
何をしている?と津軽が問うと
音楽作ってる!と元気な返事が返ってきた。
マイクを持って歌っているが津軽にはその言葉はやはりわからなかった。
しかしその歌は前に聞いた曲とは違いとても幸せそうな声だ。
前に聞いたのは叫ぶような声だったから。
そんなサイケを見ながら今晩の晩御飯は何にしようと津軽は思い、冷蔵庫の中を覗きに行った。
ここ数日外に出てないから冷蔵庫の中は卵しか入っていなかった。
サイケに一声かけて買い物へ行こうとしたら一緒に行く!と言い出したので手を繋いで近場のスーパーへと向かう。



津軽がお菓子は一つだけだぞ!と言ったにも関わらず1つの袋の中はお菓子だらけだ。
サイケはその袋を嬉しそうに手にし、もう片方は津軽と繋いでルンルンと歩いていた。
津軽はサイケに言われたチーズ入りハンバーグの作り方を考えていた。
昔作った事があったのだがどう頑張っても焼いている間にチーズが溶け出してしまう。
どうしたら良いものか…と頭を悩ませていたのだが視界に入ったピンクと白にその悩みは吹き飛んだ。
咄嗟にサイケの腕を引っ張り、視界に入った方を背にし抱き締め羽織の中に収める。
津軽の急の行動にサイケは驚いたが抱き締められる事に悪い気はしない。
きゅーと抱き締め返して津軽を見上げる。


「つがちゃんどうしたの?」
「ん?なんでもない」
「えー!…でも嬉しいからいいよ」


胸元にスリスリを頬を寄せるサイケを見て、津軽は胸がキュンとした。
可愛いなぁ…とぼんやり思いながら見つからないようにとサイケを隠す様に抱き締める。
だからピンクと白のその人が背後に居た事に気付かなかった。
津軽は肩をポンポンと叩かれ振り向いた。
むにり…と頬に何かが刺さり、驚く。
見つかりたくなかった人、夢島と名乗った男だ。
そして刺さっていたのは人差し指だった。。


「こんなのに引っかかるってどうよ?」
「…手前ぇ」
「ばぁか」


そう言うと隣をスルリと通り過ぎて前方に回り、羽織の中に入れていたサイケに抱きつく。


「ひゃああぁ!つがっ!つがるぅ!」
「お兄…おにぃの音は綺麗なピンク色してるから俺だぁいすき」


急に抱き締められたサイケは驚いてきつくきつく津軽に抱きつく。
そしてそれに負けじと夢島もサイケに抱きつくので津軽は仰け反るかたちになってしまった。
それでもサイケを守らなければと片手でサイケを抱き、もう一方の手で夢島の顔を引き離そうと押しやる。


「手前、サイケが嫌がってるから離れろ」
「おにぃだいすき」
「話を聞け」
「おにぃおにぃおにぃ」
「つがるつがるつがるつがるつがる!!!」


顔を押している手が邪魔だと夢島はベロリと舐めた。
その行動に驚いた津軽は手を離し動きを止めてしまう。
その隙を突いて逆に津軽を押し離しサイケを腕の中に収める事に成功した男はにんまりと笑った。


「おにぃおにぃ!」
「わっわっ!!なんな、なに!?」
「ちゅぅしよ?」
「ヤー!」


顔を近付けたら両手で押さえられてしまった。
ぶぅ。と唇を尖らせどうしても?と聞けばどうしても!と返ってきた。


「俺はつがちゃんとしかしないの!」
「ぜったい?」
「ぜったい!」
「…今日もした?」
「した!」
「……じゃあアレとすればお兄とした事になるか」


その言葉を聞いたサイケは顔が青ざめた。
津軽が自分以外の奴とちゅうするところを間近で見る事になってしまう事に。
最愛の人の唇を自分以外の奴に奪われてしまう事に。
サイケを抱き上げて津軽へと近付く。
津軽は未だに舐められた事が余りにもショックで掌をゴシゴシと羽織で擦っていた。


「おい」
「ん?」


声をかけられ顔をあげる。
状況が掴めない津軽はゆっくりと近付く顔を見ているだけだった。


「だ!だめええぇえぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」


あと3センチと言う所で二人の唇の間にピンクと白のぐるぐるキャンディーがぬっ!と現れ、夢島と津軽はそのキャンディーにむにりと口付けた。
買い物袋の中から今日買ったばかりのキャンディーをサイケが阻止するために出したのだ。
それに驚いた夢島はサイケを下ろして、一歩下がる。


「サイケ…?」
「…おにぃ」
「つがちゃんも俺としかしないの!」
「…」
「ぷーってしてもだめだからね!」
「…にぃ」
「コレあげるからガマンして」


ピンクと白のぐるぐるキャンディーを差し出されたそれを受け取ると夢島はしょんぼりと肩を落とす。


「お兄、ごめんなさい…またアソボ」


とても悲しそうに笑いながらその場を夢島は去った。


その後、サイケは家まで無言で津軽の手を引いて歩いた。
家に着けば手にしていた袋を手放し、津軽が持っていた物も離させてそのまま浴室に押し入れシャワーコックを捻った。


「サイケっ濡れる!」
「別にいいよそんな事」
「でも…」
「津軽はオレのでしょ?」
「そうだ…が」
「…だったら誰にもふれさせないでよ…オレ以外…やだぁ」


ぎゅぅと抱きつき抱き締め返される。
ただ守りたかっただけなのに守られてしまったと津軽は少し嬉しくなった。
顔を上げさせ額にありがとう。とキスをするとどういたしまして。と唇にされてしまった。
ああ、とても愛おしい人だ。俺はとてもこの人が好きだ。
その思いを伝えたい。伝えなければと津軽は考え言葉を発した。


「ごめん、サイケの事凄く好きだ」


滅多に心の内を表してくれない津軽の思わぬ告白にサイケは心臓が爆発するんじゃないかと言う位ドキドキして身体中真っ赤にしてへたり込んだ。





だってだって




…つがるはんそくだ
なにがだ?
おれもつがるだいすき
ん、うれしい






キャンディ美味しい
…日々さんに逢いたいな









- ナノ -