拍手 | ナノ




「シズちゃん!桜見に行こうよ!!」


ガラガラと窓から入ってくるのはやっぱりいつものあいつで、怒る気すらなかった。
桜を見に行こうだなんて言われても今はもう夜で夜桜をするような時間帯でもないのだ。
あいつは何を考えて居るのか今一わからない。


「ライトアップとかされてねぇだろ。無理だ」
「えー!街灯で照らされてる桜とかでも良いから一緒に見に行こうよ」
「…なんでそんなに行きたいんだ?」
「だって昼じゃ周りに邪魔されそうだ。夜、それもちょっとずらして行けば邪魔とか入らないだろ?俺は君と二人きりで見たいだけなんだ」


ああ、こいつは恥かしげもなくつらつらと言葉を発する。
確かに昼間だと知り合いだとか、関わりがない人間でも俺とこいつの仲は犬猿だと分かってる奴らの方が多いだろう。
そんな二人が一緒に並んで花見なんてしてたら気持ち悪がられるに違いない。
実際気持ち悪いのだが。
仕方ない、ちょっとだけこいつの我侭に付き合ってやる事にした。


「行っても良いけどよ」
「なぁに?」
「その前にコンビニ行って煙草買わなきゃなんねぇ」
「了解」


下で待ってる。と臨也は窓を閉めて出て行った。
バーテン服の上からジャケットを羽織、夜だからとサングラスは置いて鍵と財布だけを持って部屋を出た。



先にコンビニで煙草を購入する為に、臨也には外で待っててもらう。
外は少し寒いからホットココアを2本と煙草を買って臨也が居るであろう路地裏に入る。
しかしそこには誰も居ないようにただ暗いだけだった。
あいつは闇に紛れるのが上手くて困る。
どこに居るかなんて俺には判る筈も無くてただ一歩一歩進んで見る。
壁からぬっと出てきた白い物体に驚いて身体を反らせたが意味が無かったようで引き込まれる。
むにりと唇に何かが当たったと思えばそこには臨也が居た。


「シズちゃんはキラキラしてるから闇には紛れられないね」
「ッ…びびった…」
「…じゃあ行こっか」


返事をする前に手を握られて、拒否する事すら忘れてそのままついて歩く。
そういえば唇に何かが当たったんだったと思い出す。
それが何か気づいて恥かしさのあまりその場にしゃがみ込んでしまった。
手を繋いだままだったから臨也も足を止めて、しゃがみ込んだ俺の頭を撫でる。
ああ、ちくしょう、あのむにりとしたものは…。


「手前…さっき何しやがった」
「何ってキスだけど?」


何か問題でもあった?なんて普通の顔して言いやがるこいつを潰してしまいたいと思った。
でもそんな事出来る訳なくて、諦めて立ち上がり臨也の唇を手で覆い隠した。
恥かしげもなくそんな事を言えるこの口が憎い。
俺以外も知っているこの口が嫌いだ。


「…」
「…行くぞ」


繋いでいた手も、口を押さえていた手も外し一人で歩きだす。
どこの桜を見に行くのか知らないがその辺にもあったはずだと歩く。
先ほど思った感情を知らないフリをする為に。
気づけば俺だけがあいつを想ってるのではないかと惨めになるのだから知らないフリをしなければ。
どこかの公園に桜があったはずだ。
ああ、もう今の時間が終わればいいのに。
煙草を吸おうとポケットを探り、ライターを取り出す。
コンビニ袋から煙草を取り出そうとしたら手に暖かいものが当たってそういえばココアを買ったのだと思い出した。
渡すのは花見をする時でいいだろう。
急に手を後ろに引かれて、少しイラつきならが振り返る。


「しーずーちゃーん」
「んだよ…」
「桜、ここにあるよ」
「んー…ホントだな」


臨也が指差した先には街頭に照らされた桜があり、ここで良いかと近場に有ったベンチへと腰を下ろした。
火をつけて煙草をふかす。
手にしていたコンビニ袋を臨也の前に突き出し無理矢理受け取らせた。


「…ココア」
「温かいうちに飲んどけ…冷えると微妙だからな」


ふぅと息を吐いた。
痛いくらいの沈黙。
こいつは何がしたかったのかと気になる。
ただ一緒に桜を見たかっただけ、だなんて信じられるか。
何か裏があるに違いない。きっとそうだ。
聞き出そうとしたら先に臨也が話し始めた。


「桜、綺麗だね」
「…そうだな」
「…月が綺麗だよ」
「ん?…ああ確かに綺麗だな」


見上げれば綺麗な綺麗な満月だった。
はぁ。と隣からため息が聞こえた。
何が気に入らなかったのだろうか。それは俺に判るわけがない。


「…月?」


何か聞いたことがある。
月、月。つき。ツキ。
頭の中でぐるぐるとその言葉を回す。
考えていたら隣に座っていた臨也が立ち上がり、帰ると言い出した。
意味がわからず自分も立ち上がり後ろをついて歩く。
その間も頭の中では月が綺麗だという言葉をぐるぐると回していた。
確かに綺麗だったのだが、意味もなくこいつがそんな事を言うだろうか?
態々連れ出してまでそんな事を…。


「…ッ!!」


言葉の意味を理解した途端、動きを止めてしまう。
臨也はそんな俺に気付かず歩いていく。
回りくどいやり方は好きじゃない。理解するのに時間が掛かるからだ。
少し離れてしまった臨也に追いつく為に早歩きをして、手を引っ張りこちらに向かせる。


「つっ…月が綺麗だな!」


驚いた顔が見る見るうちに赤くなり、にへらと笑った。
いつもと違う笑顔が見れただけでよかったと思おう。






花より





気付いてもらえなかったらどうしようかと思った。
…もっと判りやすく言えよ。
嫌だよ。
捻くれ者が。
君の全てが俺で埋まれば良いのに。
…手前がそうなれば良いのにな。






---------------------


拍手有難う御座います!







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -