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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
誠凛高校が、キセキの世代獲得校の合同合宿に参加すると聞いたのがつい先日。「いってらっしゃい」と笑顔で見送ろうとする私を、「名前さんも行きましょうよ!」とにこやかに誘ってくれたリコちゃん。さすがに関係者でもない私が行くのは。と遠慮しようとしたけれど、「んなこと今更気にしなくていいんすよ」「そうですよ。行きましょう、名前さん」と日向くんや鉄平くんの後押しもあり、参加させて貰う事になった。


「ここが、今回の合宿の開催場所よ!」


バスに揺られること数時間。こんなに長く座っていたのは久しぶりかも。都会の喧騒から離れた山の中。丸々5日間の合宿ということもあり、意外と嵩張った荷物を持ってバスを降りようとすると、「持ちますよ」と俊くんが荷物を持ってくれた。うーん、さり気ない気遣い。とっても紳士だ。折角の申し出を断るのも申し訳ないので、「ありがとう」と笑ってお礼を言うと、少し気恥ずかしそうにしながら、「いえ」と笑い返してくれた。


「先に宿泊施設の方に荷物を運んでから、着替えて体育館に集合よ」

「「「「「はい!」」」」」


いい返事だなあ。と感心していると、「私達も行きましょう」とリコちゃんに促され、用意された部屋へ。この部屋は私とリコちゃん、さつきちゃんの部屋になるらしい。きっとまた仲良く喧嘩するんだろうなあ。なんて以前2人が温泉で言い合っていた事を思い出して苦笑いしていると、首をトレードマークのホイッスルをかけたリコちゃんが「?どうかしましたか?」と首をかしげてきた。うん、可愛い。日向くんが惚れるのがよく分かる。


『ううん、なんでもないよ。それより、私、今から着替えるから、先に行ってていいよ?』

「え、でも…」

『体育館は目と鼻の先だし、迷ったりしないよ』


だから、気にせず行っていいよ。という意味を込めてリコちゃんに笑いかけると、少し迷いながらも、リコちゃんは先に体育館へ。私もすぐに準備をして行こう。私服からジャージに着替え、2枚もっているからと、リコちゃんが貸してくれた誠凛ジャージを羽織る。まるで誠凛高校のマネージャーみたいだな。と笑いながら部屋を出ると、「「「「あ、」」」」と重なった声が聞こえ、そちらを向く。


『あ、みんな』

「名前姉?なんで、ここに…」

「また誠凛の手伝いか?」

『うん、誘われたから、来ちゃった』


清志くんの声にヘラりと笑う。
今回の合宿には、引退した3年も参加するらしい。3年生の皆が揃って現れたのは、今回は部屋数の関係から学年ごとに部屋を分けられているからだろう。
「体育館行くなら、一緒に行きましょう」という健介くんの言葉に頷いて歩き出すと、「そういえば、」という翔一くんが思い出したように声を上げる。


「名前さん、諏佐とは話したことないやんな?」

「ああ。ウィンターカップの時に、顔を合わせたことはあるが」

「そう言われるとワシもじゃの。福井から話に聞いたことはあるが、こうした会うのは初めてじゃ」


「桐皇の諏佐です」「ワシは、陽泉の岡村です」と礼儀正しくお辞儀をしてくれる2人に、慌てて自分も自己紹介をする。


『誠凛高校卒業生の苗字名前です。よろしくお願いします』

「お噂はかねがね」

『え?』

「耳にタコができるほど聞かせてもらっとるからのお」


噂?耳にタコ?キョトンとした顔で2人をみると、翔一くんが諏佐くんの口を塞ぎ、健介くんが岡村くんの足を踏んづけた。あ、痛そう。
「何するんじゃ!福井!!」「わり。足が滑ったわ」と軽く謝る健介くんに苦笑いしつつ、「大丈夫?」と岡村くんに尋ねると、目を丸くした岡村くんは、次の瞬間涙ぐんでいた。え、なんで??


「苗字さんっ…!なんて優しいんじゃっ…!」

『え?いや、普通だと思うけど…』


オーバーな反応をする彼に首をかしげていると、「ほっといていいから行きましょう」と少し呆れた顔をした健介くんに手を引かれ、再び歩き出したのだった。



***



「あ!名前さん!」

「!!名前さん!!お久しぶりです!!」

『リコちゃん、さつきちゃん、』


3年生の皆と一緒に体育館へ行くと、こちらに気づいたリコちゃんとさつきちゃんが駆け寄ってきた。やばい。2人とも可愛い。天使かな。キラキラとやけに目を輝かせている2人に「どうしたの?」と尋ねると、意味ありげに皆を見た2人は「「なんでもないですよ」」と首を振った。
とりあえず、私は他のチームの監督さんたちに挨拶をしようと、皆と別れ、監督さんたちが集まっている一角へ。やっぱりオーラがあるなあ。と少し圧倒されながら、「本日はよろしくお願いします」となんとか皆さんに挨拶をすると、「こちらこそよろしく頼む」と陽泉の女監督さんを皮切りにそれぞれ挨拶してくれた。いい人たちだ。なんか感動。
よし、と改めて気合を入れ、今日の仕事を確認しようとリコちゃんの元へ向かうと、その途中「名前さーん!!!」と言う声とともに駆け寄ってきた人物が1人。


『和成くん、』

「名前さん!!お久しぶりです!!」


ぱっと顔を輝かせ、抱きついてきた和成くん。相変わらず可愛らしいスキンシップをしてくれる彼に、笑顔をこぼしてその黒髪を撫でると、嬉しそうにはにかまれる。
「何をしているのだよ!高尾!!」と和成くんに気づいた緑間くんが声を上げたけれど、聞こえていないのか、それとも聞こえないフリをしているのか、抱きついたまま和成くんは離れようとしない。可愛いけれど、そろそろ練習が始まるのではないか。
離れた方がいいんじゃないかな。と和成くんに声を掛けようとしたその時。


「ぐえっ!!ちょ、くび!首締まってる!福井さん!!」

「あ?聞こえねえなあ」

「よし、俺が許可する。やれ福井」

「いやいやいや、助けて下さいよ!宮地さん!可愛い後輩のピンチっすよ!?」

「あ?可愛い後輩なんざ何処にも居ねえなあ」

「辛辣!」


和成くんの襟首を掴んで引き離した健介くんと、そんな健介くんの後ろで笑っている清志くんや翔一くん。なんか怒ってる?パチパチと瞬きをしながら、皆のやり取りを見ていると、「名前さん、」とこの場には少し不似合いな落ち着いた声に気づき、ゆっくりと振り返る。


『征十郎くん、こんにちは』

「こんにちは。今日から、よろしくお願いします」

『うん。よろしくね』


差し出された手を笑顔で握り返す。本物の征十郎くんだなあ。なんて、ちょっと感動していると、「そろそろ始めるわよ!」とリコちゃんが号令をかける。あ、仕事聞かなきゃ。
征十郎くんとまたあとでと一言交わして慌ててリコちゃんの元へ駆け寄った。

リコちゃんいわく、今回の合宿には、宿泊施設のお手伝いさんたちもいるので、料理は大丈夫らしい。その代わり、人数が多いため、ドリンクを作ったり、洗濯物を干したりするのに手間がかかるため、基本的にはさつきちゃんのお手伝いという感じになるらしい。
「何でも言ってね」とさつきちゃんに言うと、「頑張りましょうね」と力強く頷き返された。
合同合宿編

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