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「お前たちには、夏休み初日の3日間。行ってもらいたい場所がある」


書類を見ながらそう口にした相澤先生に、職員室に集められた私たちは揃って小さく首を傾げた。

期末試験も終わり、夏休みを目前にした今日。私と爆豪くん、轟くん、常闇くん、飯田くん、緑谷くん、切島くんそして上鳴くんの8人は昼休みに職員室に呼び出されていた。なんでこのメンバーだけ?と不思議に思っている私たちに向けられた相澤先生からの言葉。

夏休み初日に?
3日間?
行ってもらいたい場所??
このメンバーだけ??

「どういう事ですか!相澤先生!!」と勢いのある挙手と共に問いかけた飯田くんに、相澤先生は漸く書類から顔を上げた。


「毎年、体育祭でベスト8になった生徒に行く話だ。うちの学校の卒業生で、現在はプロヒーローをサポートしてくれている人が居るんだが……その人は母校であるうちにも寄付してくれているんだ」

「卒業してもなお母校への恩を忘れずに寄付を…!なんて素晴らしい!!」

「その代わり、毎年、体育祭でベスト8に入った1年の力量を見たいとのお達しがあるんだ」

「え?体育祭のベスト8って………」


相澤先生の言葉に自然と全員の視線が上鳴くんへと集まる。上鳴くんは決勝トーナメントには出ていたものの、1回戦でB組の塩崎さんに負けていた。「俺入ってませんけど??」と頬を引き攣らせて自分を指差す上鳴くん。そんな彼に視線を移した相澤先生は、ガシガシと荒っぽく後頭を掻いた。


「一応ブラドから塩崎にも話は行ってるんだが…その日塩崎はどうしても外せない予定があるらしく、先方にそれを伝えたところ、1回戦で塩崎と当たった上鳴を繰り上げてくれればいいと言われてな」

「なるほど…それでか!」

「しかし、その卒業生さんは何故生徒を……??」

「それは寄付をしている以上、自分がサポートしている生徒たちの実力を自分の目で確認したいからだそうだ」


なるほど、そういう。呼ばれた理由に納得していると、それを聞いてなお、いや、聞いたからこそなのか、不機嫌そうに眉根を寄せた爆豪くんがチッ!と舌打ちを一つ。


「3日もかけて何見せろってんだ」

「さっきも言ったが、お前たちのヒーローとしての資質を見極めたいとのことだ。それに、その人………戻 若敏(もどり わかとし)さんは、ヒーローサポート会社の社長としても活躍している。ヒーローをサポートするサポート会社の人間や、元プロヒーローとの繋がりも多く持っている人だ。毎年彼に会った生徒たちはそうした繋がりの相手とも知り合って帰ってきてるぞ」

「プロとしての繋がり……」

「将来を見据えるなら、悪い話ではないだろう。だから爆豪、体育祭1位が欠席はなしで頼むぞ」

「…わあったよ!!」


面倒そうに顔を顰めながらも、どうやら納得したらしい爆豪くん。3日も時間を取られるのは面倒だけれど、プロになってからの事を思うと行かないという選択は出来ない。と言ったところだろう。爆豪くんらしい。
しかしそういう事ならば、私こそ行く理由がない。プロになった後の繋がりに拘る気はないし、元だろうが現だろうがプロヒーローにも興味はない。戻さんという人がどんな人かは知らないけれど、出来ることなら辞退したい。そう思って口を開こうとしたその時。


「ちなみにだが、苗字。戻さんはお前の個性に大変興味があるそうだ」

『え、』

「つまり、お前の辞退はなしだ」


先手を打たれるとは、こういう時に使うのだろう。
辞退します。という台詞は口の中で消え、代わりに出てきたのは、渋々絞り出した「はい…」という諦めた返事だった。



***



「初めまして、戻 若敏です」


「よろしくね。雄英ヒーロー科の諸君」そう朗らかに笑って手を差し出してきた彼、戻さんに、ホッと肩の力を抜いたのは私だけではないだろう。

夏休みを迎えた私たちは、相澤先生の説明通り、夏休み初日に戻さんの元へと向かうことになった。
新幹線に乗って約4時間。関西の端にある県の更に端。海に面するそこには、市街地から少しだけ離れた場所であるにも関わらず、立派な、とても立派な建物が。なんでこれ。どんな御屋敷だ。大きな洋館に目を奪われていると、その屋敷から私たちを迎えるために現れたのが戻さんだった。
綺麗に纏められた白髪の彼は、柔和な顔立ちでとても優しそうなダンディな叔父様だ。「ダンディ…」と思わず呟くと、分かる。と言うように上鳴くんが頷いてくれた。


「長旅で疲れているだろう?部屋に案内しよう。少し休むといい」

「いえ!大丈夫です!」

「俺らの個性を確認したいんすよね!!なら、直ぐ見せますよ!!」


気遣いの言葉を掛けてくれる戻さんに飯田くんと切島くんが答えれば、二人の勢いに少し驚いた後、「それじゃあ早速頼もうかな」と戻さんは屋敷の中……ではなく、屋敷の裏手へ。
正面からは見えなかったけれど、屋敷の後ろにあったのはこれまた立派なドーム型の建物だった。「ヒーロー達の訓練施設だよ」と言う戻さんの声に、おお!とみんなが目を輝かせた。


「ここなら、どんなに個性を使っても問題よ」

「スゲエ!!」

「かなり立派な施設ですね……」

「喜んで貰えたなら何よりだ。…だか、ただ“個性”見せてくれと言っても困るだろう?」


にこりと笑った戻さん。その手に握られていたのは小さな黒いリモコン。ピッ。とリモコンのボタンが押された瞬間、施設内に響き出した聞き覚えのある機械音。
何処から現れたのは、私たちの目に映るのは入試の時に見たものとよく似た仮想ヴィランのロボットたち。


「さあ、敵(ヴィラン)は用意した。君たちの力を存分に発揮してくれたまえ」


人の良さそうなその笑顔に、僅かに頬が引き攣った。
MY HERO 30

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