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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
ポタポタと滴る血が、緑の地面を赤く染めていく。傷だらけでボロボロになっても尚立ち上がる三人に、涙が止まらない。

二回戦。グロッキーリングは、球技とは名ばかりのもの。何十倍の体躯を持つ敵から繰り出される攻撃に、ゾロさん達の身体は何度も地面に打ち伏せられている。第一、武器は反則だとゾロさんから刀を奪っておいて、自分たちはあからさまに武器を使っているじゃないか。「卑怯よ…」と小さく呟いた声に、隣に座るフォクシーさんが嘲笑うように目を細める。


「おうおう、名前よ。海賊の世界にゃ、卑怯なんて言葉は通用しねェんだぜ?お前さんも、おれ様の嫁になるからには、そのくらいの常識は備えて貰わねえとなァ」

『っ……常識…?これが、常識なんですか??先にルールだと言ってゾロさんから武器を奪っておいて!当たり前のように武器を使って三人を傷つけることが常識なんですか!!?』

「海賊である以上!!!どんな罠に嵌められようとも文句は言えねえんだ!!悪いのは相手の罠に気づけなかったテメェらさ!!」

『なっ……!』


そんな常識受け入れられるはずが無い。
ぎゅっと唇を噛み締めて睨むようなフォクシーさんを見つめていると、「そんなに熱い視線をくれるなよ」と何故か顔を赤くされる。麦わらの一味から誰かが抜けるよりは、部外者である私が居なくなる方がマシだと思ったけれど、こんな卑怯な人の“嫁”も“彼女”もごめんである。
いっそ怒らせて嫌われてしまおうかと、口を開こうとした時、わっと上がった盛り上がる声に視線を二回戦のコートへ。


『っ………ゾロさん…サンジさん、チョッパー……!!』

「なに!!?まだ立ちやがるだと…!?」


ゆらりと立ち上がった三人の身体。
口の端から流れた血を拭ったゾロさんがまだ終わりじゃないと言うようにフォクシー海賊団のグロッキーモンスターズを睨み付ける。その姿を気に入らないとばかりに顔を顰めたフォクシーさんは、椅子から立ち上がると、人差し指を立てて声を上げる。


「お前達!ワンモンスターバーガープリーズ!!!」

「「「「「「「「!!?」」」」」」」」

『?…わん、モンスターバーガー…?』


一体なんの事かと眉根を寄せていると、にししと至極愉しそうに笑ったグロッキーモンスターズが、鈍く光る巨大な武器を取り出し始める。うそ、なにあれ。あんなもので殴られたりしたら。血だらけになって今度こそ動けなくなる三人の姿を想像し、口元を押さえて涙を流すと、ニヤリと嗤ったフォクシーさんが余裕の表情で椅子へ座り直す。


「さて、そろそろ二回戦も終わりだなァ。なに、お前さんが寂しくないよう、あと“二人”はアイツらから奪ってやるさ」


当たり前のようにそう言う彼に悔しさが溢れてくる。うるさい、とこの人の口を塞ぐことが出来たらどんなに良かっただろう。噛み締めた唇からツッと何かが流れ落ちる。それが血だと気づいた時、なんだか無償に情けなくなって更に涙が溢れてきたその時。


「は、ハンバーグさんがやられたああああああああ!!!」

『え……』


聞こえてきた声に視線をコートへと戻すと、気を失って倒れる敵の一人の姿に目を見張る。一体何が起きたの?と目を見開いていると、大きな剣を持った緑の服の男が身体を回してチョッパーに襲いかかろうとしている。


「どけ!チョッパー!!」


ゾロさんの声に慌ててその場を退いたチョッパー。代わりに現れたゾロさんに、「馬鹿め!自分から殺られに来たか!」と男が嗤う。刀を持たず丸腰のゾロさん。このままじゃ…!と顔をゆがめていると、そんな私の心配など知らない彼は自分から敵の懐へ飛び込んでいく。そして。


「“無刀流 竜巻”!!!!」

「う、うおおおおおおおお!!?」


ゾロさんに向かっていた男の身体が、スピンをしたまま浮き上がり、仲間の身体を切りつけていく。ちょっと待って。何が起きたの?と呆けている私をよそに、目を回してフラフラとしている緑の男にサンジとチョッパーが向かっていく。


「邪魔なんだよっ!お前も、あの“審判も”…!」

「ランブル!!アームポイント!」

「行くぞチョッパー!“空軍(アルメドレール)・サクラシュート”!!!!」

「“蹄帝…!ロゼオ”!!!!!!!!」

「うぎゃあああああああああああああああ!!!」


サンジさんの足によって勢いよく飛ばされたチョッパー。初め見る姿に驚いているのもつかの間は、チョッパーの攻撃によって、緑の服の大きな身体はコートの外へ弾き飛ばされる。その先にいた審判までもが気を失っているのは偶然なのだろうか。あっという間に敵の二人を倒してしまった三人。残るは一番大きな身体を持つ“ビックヴァン”という一人のみ。切られた傷が痛むのか、フラフラとしている大きな身体。それを逃さないのばかりに構えたサンジさんが足を振り上げると、タイミングを見計らったようにサンジさんに向かって飛んだゾロさん。「また喧嘩か!?」と実況役の人は言っているけれど違う。喧嘩なんかじゃない。
チョッパーのように、勢いよく文字通り“蹴り飛ばされた”ゾロさんはあっという間に空を舞う。敵の巨体に向かって行ったゾロさんは、その大きな口の上顎を掴むと落ちる勢いを利用して、そのままゴールに向かっていく。


「「いっけえええええええええ!!!」」

『っ、ゾロさあああん!!』


ドオオオンっ!という音ともにゴールに沈んだ大きな頭。唖然とした顔で固まっているフォクシーさんは、ガクガクと顎を揺らしている。

ゾロさんが、ゴールを決めた。つまり。


「麦わらチームの勝利だああああああああああああ!!」

「うおおおおおおおおおお!!!」


歓喜余ったウソップの雄叫びが響く。何が起きたのか頭が追い付いていないようで、フォクシーさんの目はこれでもかと言うほど見開かれたままだ。呆然としながら、頬を濡らす涙をそのままにその場に立ち上がると、歓声に包まれた三人がゆっくりと立ち上がる。

傷だらけで、ボロボロで。それでも立ち上がる三人に、こんな事を思うのは不謹慎かもしれない。でも、それでも、あんなに大きく、恐ろしい相手に向かっていく姿は、どうしようもなくかっこよく、彼らの信念の強さを感じた。

ポロリポロリと零れる涙を拭う。意味もなく開いたままだった唇を引き結び、三人を見つめれば、その視線に気づいたチョッパーが血で赤くなってしまった小さな腕を目いっぱい振ってくる。


「さあ!指名の時間だ!!一体誰を選ぶ!!?」

「そんなの、決まってんだろ。俺達は、」

「ちょっと待ってルフィ!」


勝者に与えられた指名権。それを使おうとしたルフィが口を開いた瞬間、ナミが慌てて彼の口を塞ぐ。なんだなんだ?と周りのフォクシー海賊団の人達が首を傾げている中、何かを提案したナミに、フォクシーさん達がブーブー!と抗議の声をあげ始める。


「ぴ、ピーナッツ戦法だー!!」

『ピーナッツ??』


ぎゃあぎゃあとナミに罵声を浴びせ始めたフォクシー海賊団。どうやら、ナミは先に三回戦の相手であるフォクシーさんをとる事で、不戦敗を狙ったらしいけれど、それは海賊の流儀に反することらしい。けれど、いくらなんでもそこまで非難しなくても、と顔を顰めていると、どうやら彼女にはこんな罵声なんともないらしく、ギロっとナミが一瞥した瞬間、騒いでいた声がピタリと止まる。


「うるっさいってんのよ、あんた達!」

「「「「「すみません…」」」」」


いっせいに頭を下げるフォクシー海賊団の姿は、さすがナミである。苦く笑ってその様子を見守っていると、事の成り行きを見守っていたロビンさんが、「でも航海士さん、」と声を発する。


「あなたの提案は確かに名案だけど、それじゃあオヤビンまで仲間になっちゃうわよ?」

「あ、」

「「「いや、あれは要らねぇ」」」

「んが!!?」


ロビンさんの声に一斉に手と首を振るルフィたち。声を揃えて要らないと言われたことがショックだったのか、ガーンと効果音を付けて膝をついたフォクシーさんに、ポルチェさん達がが慌てて駆け寄っている。やっぱり人望はあるのだな。卑怯な人だけれど。
さめざめと泣いている姿にさすがに少不憫に思っていると、大きく息を吸ったルフィが声を張り上げる。


「名前ー!!!!戻ってこおおおい!!!」

『っ、』


彼は今、確かに私の名前を呼んだ。呼んで、戻ってこいと、そう、言ってくれた。椅子から立ち上がったまま固まっていた足が一歩、また一歩と前に進んでいく。目を覆うマスクが急に煩わしくなって、外したそれを地面に落とすと、「う…名前ー!!」と後ろからフォクシーさんの声が聞こえたけれど、振り返る事無く“皆”の元へと向かう足。段々と詰まる距離。徐々に見えてきた嬉しそうに笑うみんなの顔。

これ以上、一緒には居られない。私は海賊になんてなれないし、一緒に居ても迷惑を掛けるだけだ。
そう、分かっているのに。

ゆっくりとした足取りが、途端に早くなる。走り出した私に少し驚きながらも、迎えるような腕を広げたルフィ。そんな彼の腕の中に抱き着くように飛び込むと、日に焼けた逞しい腕に力強く抱き締められる。


『っ……ルフィ……』

「にしししし!言ったろ?直ぐに取り戻すって!!」

『っうん……うんっ…!!ありがとう、ルフィ…!』


これ以上、一緒には居られない。私は海賊になんてなれないし、一緒に居ても迷惑を掛けるだけだ。
そう、分かっているのに。

分かってるのに。

こんなにも彼らの傍が居心地良いなんて、そんな風に思ってしまう私は、なんて馬鹿なのだろうか。

力強く、けれど優しい温もり。それが酷く苦しくて、溢れた涙がルフィの真っ赤なベストを濡らした。
デービーバックファイト 5

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