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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
「第一回戦“ドーナツレース”始まるよ〜!!」


空から聞こえてくる実況の声に、うおおおお!と盛り上がる観客の人々。

スリーコインゲーム。つまり、三回戦に渡るゲーム受けることとなったルフィたちは、七人全員で参加することとなった。
一回戦のレースがナミ、ウソップ、ロビンさん。
二回戦の球技が、チョッパー、ゾロさん、サンジさん。
そして三回戦の戦闘が、ルフィ。
戦闘に出たがっていたサンジさんとゾロさんはジャンケンに負けて仕方なく球技のメンバーとなっていたけれど、逆に戦闘を選ぼうとしたなんて彼らの気が知れない。真っ先にレースを選んだナミやウソップが正しいと私は思う。

STARTと書かれた横断幕の下に構えるナミ達と、フォクシー海賊団の出場者。このレースは島を一周して戻ってくるというシンプルなものらしいけれど、相手チームのメンバーにサメがいるのは目の錯覚だろうか。


『……あの、さ、サメが、いるように見えるんですが……』

「ああ、いるな」

「あのサメ野郎…ナミさんとロビンちゃんに怪我させやがって三枚に下ろしてやる……!!」


だから、この人たちの感覚はどうなっているんだろう。普通はサメがいることに違和感を覚えるのでは。大丈夫だろうかと眉を下げてナミたちを見守っていると、「位置について!!!」と実況がスタートの合図を送る。いよいよだ、と両手を祈るように握ってその瞬間、「レディ〜〜〜〜〜〜ドーナツ!!!」と独特の合図でレースが始まった。しかし、その時、


ドドドドドドドドドォン!!!


『ひっ!?』

「な、なんだ!!?」


すぐ側で鳴り響いた沢山の銃声。あまりに大きなその音に耳を抑えて座り込むと、間髪をいれずに二発目を打とうとしている敵に、くわっと目を釣り上げたサンジさんが足を振り上げる。


「ナミさん達に何しとんじゃコラァ!!!」

「「「「「ギャアアア!!!」」」」」


あっという間に、フォクシー海賊団の“お邪魔攻撃軍団”を蹴り飛ばしたサンジさん。すごい、と目を丸くして彼を見つめていると、ふと、お邪魔軍団の後ろにいたフォクシーさんの存在に気づき、パチリと目が合う。そのまま逸らすのもなあ、と日本人の特技とも言える愛想笑いを浮かべて小さくお辞儀をすれば、フォクシーさんの目が、なぜかサンジさんのようにハートへと変わる。んん?見間違いかな?と目を擦ろうとすると、「何やってんだ」と呆れた声とともに視界が遮られ身体が後ろへと傾く。


『え、あ…ゾロさん…?』

「たくっ……あんなやつ放っておいてアイツらの応援すんぞ」

『は、はいっ』


目を覆う大きな手の持ち主の声に慌てて頷くと、「おのれ、ロロノア…!」という恨めしそうな声が聞こえたような気がするようなしないような。今の声は一体と首を傾げていると、くるりと身体が反転させられ、漸くゾロさんの手が離される。
そうだ、ナミたちの応援だと慌てて彼女達の姿を探せば、既にスタート地点からかなり遠くの方まで進んでいて、やっと姿が見える程度の所にいる。追いかけなきゃ、とゾロさんとともに歩きだそうとすると、それ遮るように現れたのはフォクシー海賊団の人達。


「おい、何の用だ?邪魔するつもりなら、」

「いやいや!邪魔だなんてとんでもねぇ!あんた、二回戦に出るんだろ?景気づけに一杯どうだ??」


そう言って笑ったフォクシー海賊団の人が掲げているのは、樽のジョッキに入ったお酒である。まさか、と冷や汗を浮かべてゾロさんを見ると、隣に立っていたはずの彼は、いつの間にかフォクシー海賊団の輪の中へ。「いや、悪いななんか」と言いながらと、上機嫌にお酒を受け取って飲み始めたゾロさん。そういえば、空島の宴会でもずっと呑んでたもんな…と呆れ半分感心半分のため息が漏れる。

仕方ない、それじゃあ他のみんなで、とルフィ達を探そうと辺りを見回せば、直ぐにお目当ての人物達は見つかったのだけれど、


「ホラ、いなり寿司にキツネうどん!!タダだ!!」

「まじで!?ありがとう!!んまほー」


「あなたみたいなコックさんがウチに来て欲しいわ」

「いや〜〜デービーバックされちゃおうかな〜〜」


「りんご飴、食うか!?…お手」

「何だ??何だそれ!?甘いのか?」


……完全に関心がレースが削がれてしまっている。それぞれの欲求を満たしている皆に、今度こそ大きなため息が零れる。…でも楽しそうだし、止めるのも可哀想だなあ。仕方ない、ナミたちには申し訳ないけれど、一人で応援に向かおうと歩き出せば、それに目敏く気づいたフォクシー海賊団の人達が今度は私の周りを取り囲み始める。


「おい姉ちゃん。姉ちゃんも一緒に一杯どうだ??うめぇ酒があんだ!」

「そうだそうだ!一杯やろうぜ!お酌してくれよ」

『いや、あの、私は……』


アルコールの匂いが鼻腔を潜る。完全に酔っているなあと呆れてしまいながら、とにかく断ろうと首を振ろうとしたのだけれど、いきなり掴まれた腕を強引に引かれ、男の隣に座らされてしまう。


『あ、あの、私は、レースの応援に、』

「いいからいいから!ゆっくりして行きなって!」

「応援なんかより、おれ達と一緒に楽しく呑もうじゃねえの!」

『いえ、私、お酒は……』


突きつけられるジョッキを首を振って断れば、それじゃあと代わりに差し出されたのはオレンジジュースの入ったグラス。いや、ジュースならいいという問題でもないのだけれど。「大丈夫です、」ともう一度首を振って、立ち上がろうとすると、咎めるように腕を掴まれ、直ぐに二人の男の間に引き戻されてしまう。


「おいおい、ツレねえなあ、」

「もう少し構ってくれよォ」


どうしよう。と眉根を寄せてはみたけれど、今度こそ逃がさないとばかりに一人の男の手が肩に回される。すぐ側にあるツンっとしたアルコールの香りと、ニヤニヤと下卑た笑み。さすがにこれは、と距離を取ろうとしたけれど、今度は反対側の男の手が伸びてきて腰を抱かれたその時、


「「「触んな」」」

「「グボヘェエエエエエエエエエ!!!!」」

『……え…』


隣から消えた不快な香りと、肩と腰に回されていた腕。あれ、と目を瞬かせて目の前にいる三人を見上げると、いつの間にこちらに来ていたのか、ルフィ、ゾロさん、サンジさんの三人が子供が見たら泣いていしまいそうな恐ろしい表情で立っているではないか。おそるおそる後ろを振り返れば、先程まで隣にいたはずの二人が屋台“だった”木片の中に埋まってしまっている。だ、大丈夫なのだろうか、と顔を引き攣らせていると、「名前ー!」とこの場を和ましてくれる可愛らしい声が。


「名前!一人にしてごめんな?大丈夫だったか??」

「う、うん、大丈夫だよ、チョッパー。りんご飴は、美味しかった???」

「そんなのもう要らねぇよォ!」


抱き着いてきたチョッパーを受け止め、このまま話の流れを変えてしまおうとしたけれど、なぜか怒りが治まらないらしいルフィ達がギロりと周りにいるフォクシー海賊団の人達を睨み始めた。
ひいっ!と縮こまる彼らの気持ちがよく分かる。今のルフィたちに睨まれれば、私の世界の大半の人達は、蛇に睨まれたカエル状態になってしまうだろう。自分を落ち着かせるために、ふうっ息を吐いて、漸く立ち上がってみせると、はっとした顔のサンジさんが「名前ちゃん!」と駆け寄ってきた。


「大丈夫かい?あのクソ野郎共に何かされなかったか??」

『だ、大丈夫ですから、ね?あの人たちもお酒に酔って気が大きくなってただけだろうし…』

「だが、」

『そ、それより!早くナミたちの応援に行きましょう?ね??』


「ルフィとゾロさんも!」とチョッパーを下ろして二人の腕を掴むと、漸く睨むのを辞めた二人が渋々視線をこちらへ。ほっと息を吐いて、「行きましょう?」と首をかしげれば、「…そうだな!行くか!!」といつもの様に笑ったルフィが大股で歩き出す。良かった。気が紛れたみたいだ。ルフィの後を追おうと、チョッパーと手を繋いで歩き出せれば、そんな私たちの様子にはあっと息を吐いたゾロさんとサンジさんも漸く足を進め始める。喧嘩になる前に止められてよかった、と胸をなでおろしてはみたものの、ふと屋台の中に沈んだ二人の事を思い出して、ピタリと足を止める。


「?名前?どうしたんだ??」

『…あの…ルフィ、それに、ゾロさん、サンジさん、』

「?どした??」

『……えっと…助けて頂いて、ありがとうございました』


前を歩いていた足を止めて振り返ったルフィと、後ろを追ってきていたゾロさんとサンジさんに向けて、緩く笑んでお礼を言えば、三人は一瞬キョトンとした顔する。あの二人には申し訳ないけれど、ルフィ達が助けてくれて本当に助かったのだ。お礼も言えた事だし、早く応援に行かなければと、止めていた足を進め始めると、不思議そうに首を傾げたルフィがうーんと首を捻っている事に気づく。


『?ルフィ??どうかしたの??』

「ん〜〜〜〜……なんか、変なんだよなあ…」

『変って、なにが?』

「なんかこう、名前の笑ってるとこ見ると、この辺がグルグルするんだよ…」


そう言って胸の辺りを擦るルフィ。それは、私どうこうではなく、胃もたれしているのでは?と苦く笑ってしまいながら、「食べ過ぎたんじゃない?」と答えてみせると、納得出来なさそうにルフィはまた唸り始める。「チョッパー、なんでだ?」「うーん?…はっ!な、何かの病気とか…??る、ルフィ、他に痛いとことかねえか??」「痛いとこ?別にねぇぞ?」という二人のやり取りを聞きながら、くすくすと笑っていると、「おまえら何やってんだ。早く行くぞ」と追い付いて来たサンジさんに促され、漸くナミたちの元へと向かい始めたのだった。
デービーバックファイト 3

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