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「「デービーバックファイト」?」


怪訝そうに眉根を寄せるナミに、メリー号の数倍ある船からゲラゲラと笑い声が聞こえてくる。

ルフィ達を追いかけようかと船をおりたその瞬間、船の行く手を阻むように現れた大きな船。帆に描かれているドクロマークが、その船に乗る彼らが何なのかを物語っている。

海賊だ。

“フォクシー海賊団”と名乗った船の船員たちは、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら“デービーバックファイト”という、海賊が海賊を奪い合う“ゲーム”について話し始めた。


「デービーバックファイトってのは、“人取り合戦”の事さ!!!おれ達が挑むのは“スリーコイン”!!3本勝負だ!!!」

「1ゲームごとに勝者は相手の船から好きなクルーを貰い受ける事ができる!!」

「貰われたクルーは速やかに敵の船長の忠実な部下となる!!」

「深海の海賊“デービー・ジョーンズ”に誓ってな」

「……!?負けたら…仲間を取られるの!?」

「その通りだ!!」


驚愕して声を上げるナミに、その反応を楽しむようにフォクシー海賊団の船員たちは更に声を続ける。


「ーなお、敵船に欲しい船員がいなかった場合、船の命、海賊旗のシンボルを剥奪する事が出来る」

「賭ける獲物は“仲間”と“誇り”、勝てば戦力は強化されるが…負けて失うものはでかい。エゲつないゲームさ……!!!」

『そんな…仲間を賭けるなんて……』


人を賭けるゲームだなんて馬鹿げている。それなのにどうして彼らは愉しそうに笑っていられるのか。
ウソップの嫌な予感は的中していた。ここに来る途中、波に飲まれていたあの異様な船も、フォクシー海賊団とデービーバックファイトをして船も旗も奪われた後だったらしい。
ぞっと顔色を悪くしたナミが「バカバカしい!!私達はそんなゲームの申し入れ、絶対に受けないわ!!!」と声をはりあげたけれど、このゲームを受けるかどうか決めるのは、船長にしか出来ないようだ。

海賊の世界では、暗黙のルールだというデービーバックファイト。逃げ出して恥をかくのはごめんだというサンジさんとゾロさん。二人には二人のプライドがあるのだろうけれど、私はどう足掻いてもナミ派である。麦わらの一味から誰かが抜ける所なんて、見たくはない。


「んもーっ!!じゃ、ルフィを止めなきゃ!!!」

『あ、ナミ…!』


ゾロさんとサンジさんが当てにならないと分かったナミは、ルフィを止めるために走り出したけれど。

ドン ドォ…ン


「え!!?」


風に乗って聞こえてきた2つの銃声に、ナミを追いかけようとしていた足が止まる。

デービーバックファイトの受諾を決めることが出来るのは、その船の船長のみ。
そして、ゲーム開始の合図となるのは互いの船長によって打たれる銃声。

つまり。


「デービーバックファイト、開戦だー!!!」


わっと一気に盛り上がったフォクシー海賊団の面々。
どうやら、麦わらの一味の船長、ルフィは、ゲームを受諾してしまったようだ。



***



「ちょっとルフィ!!!どうすんのよ!!?負けたら仲間を奪われるのよ!?分かってんの!!?」

「ま、負け、なきゃ、いい、はなし、だろ!!?」



ウソップやチョッパーと共に探検に出ていたルフィが戻ってきたのは、銃声が聞こえてからすぐのこと。戻ってくるなり、ルフィの胸ぐらを掴んだかと思うと、これでもかと言うほどルフィの身体をガクガクと揺らし始めたナミにウソップとチョッパーが震えている。
いや、でも、ナミの怒りはもっともだろう。普通の神経をしているなら、人を取り合うゲームなんて受けたくはない。けれど、この船に乗っている彼らのうち、少なくととルフィやゾロさん、サンジさんは“普通”という言葉が似合わなさすぎる。おそらく負ける事なんて考えていないであろうゾロさんとサンジさんは、ゲームが決まってからというもの、どこかワクワクして見えるのは気のせいだと思いたい。


『…なんでそんなに余裕でいられるんですか…?もし、負けたら、』

「だから、負けなきゃいい話だろうが」

「そうだよ名前ちゃん。あんな奴らにおれ達が負けるはずねえよ」

『………私、見たくないですよ…?麦わらの一味から、誰かが居なくなる所なんて……』


船に乗せて貰っているだけの部外者の私が、こんな事を言うのもどうかと思うけれど、これが本心だ。海賊とは思えないほど温かくて居心地のいい船。そんな風に感じられるのは、彼らが7人揃っているからこそなのだと思う。
不安に揺れる瞳でゾロさんとサンジさんを見上げると、罰が悪そうな顔をするゾロさんと、困ったようにまゆを下げたサンジさん。やっぱり余計なことを言ってしまっただろうか、と謝ろうとした時。


「フェッフェッフェ、まさか、クルーがたったの8人しか居ねェとはなあ」

「げ……なんだ、こいつ…?」


ゲームの会場作りを行っているフォクシー海賊団の人達。その中からニヤニヤと余裕の笑みを浮かべながら歩いてきたのは、耳のように髪を2つに分けた男と、黒いマスクをした可愛らしい女性、そして、なぜかププププッと笑い続けている、大柄の男。顔を顰めて三人を睨むゾロさんが「てめェが船長か」と吐き捨てるように言うと、笑みを更に深めた男が「ああ、そうだ」と大きく頷いた。


「俺がフォクシー海賊団の船長にして、デービーバックファイト無敗を誇る最強の男!フォクシー様だ!!」

「いやん!オヤビン素敵っ!!」

「プクククククククク」


胸を張ってふんっと自慢げに鼻を鳴らしたフォクシー…さん。そんな彼をマスクの女性がうっとりとした表情で見つめている。どうやら人望はあるらしい。やっぱり人は見た目ではないのだな。少し感心しながら、フォクシー海賊団の三人の様子を眺めていると、品定めするように麦わらの一味を一人一人見ていたフォクシーさんの視線が、ピタリと止まる。その先視線の先にいるのが自分であることに気づき、なんだろう?と首を傾げていると、くっと馬鹿にするように喉を鳴らしたフォクシーさんが次の瞬間ゲラゲラと笑い始めた。


「おいおいおいおい!海賊とは思えねェ貧弱そうな小娘もいるじゃねえか!」

「あらホント。随分と、“大人しそう”な子がいるわね」


貧弱そう。それが誰に向けられているのかなんて一目瞭然だ。どう考えてもナミやロビンさんではない。恐らく馬鹿にする為に吐かれた言葉なのだろうけれど、的を得すぎて言い返す気にもなれない。お腹を抱えて笑いだしたフォクシーさんに、額に青筋を浮かべたサンジさんが一歩前へ出たけれど、それを止めるように「あの、」と小さく声を出すと、笑いすぎて目に涙を浮かべたフォクシーさんの視線が再び私へ。


『あの、私は…麦わらの一味ではなくて…』

「なにィ?じゃあなんで船に乗ってやがる?それも海賊船なんかに」

『…えっと…目的地があって、そこまで送ってもっているんです』

「ほお…」


“海軍のいる島”とはさすがに言えないために、少し濁した答えを聞いたフォクシーさんが何やらニヤニヤとした顔で自分の顎を撫でる。悪そうな顔だなあ、なんて考えていると、「おい、女、」というフォクシーさんの声に、呼ばれたのが自分だと気づいて慌てて返事を返す。


『え、あ、はい…?』

「気の毒になあ。あんなボロ船じゃ、“目的地”に着けるかどうかも怪しいじゃねえか」

「なにを!!!」

「俺様は今気分がいい。もしお前さんが望むなら、俺様たちの船、あのセクシーフォクシー号で!!その目的地とやらまで送っやってもいいが?」

「「「「「はあ!!?」」」」」


フォクシーさんの提案に、私ではなく、麦わらの一味から一斉に声が上がる。ぽかんとした顔でフォクシーさん見返していると、「どうだ?」とまるで答えを確信しているかのように自信満々な表情をみせる彼に、ふむと、彼らの船へと視線を移してみることに。

確かに、大きくて立派な船だ。船のことなんて全く分からないけれど、おそらくメリー号よりも船足は早いのだろう。沢山の冒険で傷ついてきたメリー号とすれば、傷だって少ない。多くの船員を乗せているだけあって、頑丈にも出来ているはず。ただ“目的地”に行くためだけなのなら、彼らの船を選ぶこともまちがいではないだろう。でも。

視線を船からフォクシーさんへと移す。変わらず自信満々の笑みを浮かべるフォクシーさんと目を合わせて、ゆるく笑んでみせると、周りを囲む麦わらの一味の皆の目がぎょっ見開かれ、「ちょ、名前、あんたまさか…!」とナミが焦ったように声を上げた。


『…確かに、立派な船ですね』

「そうだろうそうだろう。コイツらのちんちくりんな船よりもずっと早く“目的地”に着けるぜ」

『……そうなんでしょうね。でも、大丈夫です』

「……なに?」



『私は、麦わらの一味の船に送ってもらうので、お断りさせていただきます』



は、と言う顔で目を丸くさせて固まるフォクシーさん。ごめんなさい、と言うように深く下げた頭を上げて再び彼と目を合わせると、はっと意識を取り戻しフォクシーさんが信じられないとばかりに目を釣り上げる。


「おいおい、そりゃなんの冗談だ?俺達の船より、あんなボロ船を選ぶって言うのか?」

『…フォクシーさんには、メリー号は“ただのボロ船”に見えるんですね。…でも、私には、…あの船は、沢山の冒険をくぐり抜けてきた、とっても素敵な船に見えるんです。だから、“約束”通り、皆に送ってもらいます。……それに、』

「…それに、なんだ?」


自信に満ち溢れていた顔が一転して、納得出来ないとばかりに歪んでいく。申し訳ないと思いつつ、一度ゆっくりと“皆”へと視線を移すと、それに気づいた一味の目が小さく見開かれた。


『……まだ、…もう少しだけ一緒に居たいんです。…優しくて温かい、この一味の……皆と……』


呟くように零した言葉とともに自分でも驚くほど穏やかな笑みが浮かぶ。それを見たフォクシーさんの目はこれでもかと言うほど大きく見開いている。きっとさぞ気分を害した事だろうと、もう一度「だから、ごめんなさい」と頭を下げると、はくはくと何か言いたげに口を開閉させたいるフォクシーさんに気づいて首を傾げる。何やらほっぺたや耳が赤くなっているように見えるけれど、やはり怒っているのだろうか。不審とも言える動きをみせるフォクシーさんに、大丈夫ですかと声をかけようとした時、ポスリと頭の上に被せられた何か。それが“彼”のトレードマークとも言える帽子だと気づいて、持ち主を見ると、にっと嬉しそうに笑ったルフィが、私の腕を掴んだ。


「だとよ、割れ頭!名前はおれ達の船に乗せるから、お前は引っ込んでろ!!」

「んなっ……!わ、われ、割れ頭…だと…!!?」

「大体な!そりゃ、“今はまだ”名前は正式なクルーじゃねえけど、それでも船に乗ってる以上、仲間も同然だ!!お前なんかに渡すか、バーカ!!」

「「そうだそうだ!!」」


掴まれた腕が引き寄せられてそのままルフィに肩を抱かれる。パチパチと瞬きを繰り返しながらルフィを見上げていると、握った拳を震わせ、まるで苦虫を噛み潰したような顔をしたフォクシーさんはルフィをに向かって指を差し向けてきた。


「おのれ…見てろよ麦わら!!!デービーバックファイト無敗を誇る俺様の力で、テメェら全員ボコボコにしてやるからな!!!」

「やってみろ!」


べっと舌を出したルフィに、ムキィィィ!!と目をつり上げるフォクシーさん。ここまで来るとまるで子供の喧嘩だ、と少し呆れていると、「テメェはいつまでそうしてんだ!」というサンジさんの声と、かかと落としによってグエっとルフィが声をあげた事で、漸くフォクシーさんとの言い合いに終止符がつきそうだ。
「覚悟しとけ!」と吐き捨てるようにそう言ったフォクシーさんが仲間の元へ戻っていくのを見送っていると、そういえばと、自分の頭に被せられた帽子を思い出して慌ててルフィに返そうとすると、「いいよ、」と首を振ったルフィの手がポンポンと頭を撫でる。


『でも、これ、いつも被ってるし、大事なものなんじゃ…』

「…それは、俺が命の恩人に貰ったもんなんだ。立派な海賊になって、いつか返すって約束してる」

『じゃあ…!』

「だから、このゲームが終わるまでちゃんと被っとけよ!!失くしたら怒るからな!!」


いや、それなら尚更自分で持っておいた方がいいのでは。脱ぐことを許さないというような目を向けるルフィに、仕方なく帽子を脱ごうとした手を下ろすと、「よおし!勝つぞー!」と両手を突き上げたルフィが、いつの間にか建ち並んでいる屋台の方へ走っていく。その後をウソップとチョッパーが「おー!」と続いていき、ため息混じりのナミや微笑ましそうに笑うロビンさんたちも後を追う。私も行かなきゃと一歩足を踏み出すとサンサンと照りつける太陽に映し出された自分の影の形がいつもと違うことに気づいて、再び麦わら帽子の唾に触れる。

大事な帽子を持っておけと任された。
それはきっと、ルフィの信頼の証なのだろう。

帽子から伝わる温かさが胸に広がる。それがなんだかなんだか擽ったくて、緩む口元を隠すように帽子を目深に被ると、「何やってんだ、行くぞ」とゾロさんに促され、慌ててみんなを追いかけた。
デービーバックファイト 2

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