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「逃げろーーーシーモンキーだ!!!」


ざばっと海から現れた3匹のシーモンキー。顔は猿で身体は魚というなんとも不思議で、見ようによっては可愛らしくも思える彼らは大波を起こして船を沈めようとする見た目とは裏腹に恐ろしい生き物らしい。「漕ぐんだ、漕げーーーっ!!!」と大きなオールを使ってルフィたちが4人がかりで船を漕ぎ進めている中、張り台に登っていたウソップが「緊急報告!!緊急報告!!!」と声を張り上げた。


「12時の方角に船発見!!」

「なんだ、敵か!!?」

「いや…それが、“旗”もねェ、“帆”もねェ!!何の船だか…」

「何だそりゃ、何も掲げてねえ〜!?何のために海にいるんだ!??」


ウソップの報告にオールを漕ぐ手は止めることなく、皆が首を捻る。帆がない船なんて、どうやって進むのだろうかと、船縁からその船を見てみると、確かに船には帆も旗もついておらず、見える限りの船員の数も少ない。


「すげェ勢いでイジけてるぞ!!!まるで生気を感じねェっ!!!」

「どういうこった!?大丈夫か、あの船!?」

「このまま波に飲まれちまうぞ!!!」


帆も旗ものない不思議な船を心配したルフィが「おーい、お前らー!!」と声をかけると、こちらに気づいた船員たちがゆらりと立ち上がる。
「野郎共!!立ち直れ!!敵船だぜ、宝を奪うぞ!!
」「涙が、待て、大波がきてる!!!避けるのが先だ!!!」「あの船に逃げられちまうぞ!!」「大砲を用意しろ!!!」「オイ、誰に命令してんだ!!」
などと、とにかくまとまりのない船員たち。一体彼らは何者なんだと、首をかしげている間に、不思議な船に迫る大波。ちょっと待って、このままじゃ…!


ザバァー…ン!!


『……う、そ……あの人たち……』


目の前で大波に飲み飲まれてしまった船。あんなに大きな波に飲まれてしまっては、乗っていた彼らはきっと。顔から血の気が引くのを感じながら、口元を出て覆うと、労わるようにロビンさんに背中を撫でられる。


「…海での油断は命取りよ。あれは彼らの自業自得だわ。あなたが気にする事はなにもない」

『………はい……』


ロビンさんの言う通り、この海では一瞬の油断が命取りになるのだろう。けれど、まさか本当に“命を取られる”光景を目にするなんて思ってもみなかった。大波に飲み込まれた船がいた場所をじっと見つめていると、漸く波が治まったのか、船の速度がゆっくりと落ちていく。
ナミ曰く、あの波はシーモンキーという彼らのイタズラだったらしい。あんな大波、“イタズラ”なんて言葉じゃ済まない気がするけれど。


「湿度も気温も安定してるから、もう次の島の気候海域に入ったんじゃないかしら」

「おいロビン、名前!何か見えるか?」


波が安定してから、見張り台へと登ったロビンさん。そんな彼女を見上げて声を上げたルフィに、「島がずっと見えてるわ」ととても冷静に返す彼女に、ウソップとルフィからツッコミが入れられる。真逆の2人だよなあ。なんてルフィたちとロビンさんの会話を聴きながら小さく笑っていると、ふと先程の船のことを思い出したウソップが怪訝そうに眉根を寄せた。


「ところで…さっきの船気にならねえか?船長がいねェとか…航海士がいねェとか…旗はねェわ、帆はねェわ。やる気もねェわ、まとまりもねェわで…海賊の一団として成り立ってねェんだ!!」

「海戦でもやって負けたんだろ。ーで船長が死んで……色んなもん奪われて」


ゾロさんの返しにそれでも納得出来なさそうに船の様子を話すウソップ。あの時見張り台に立っていた彼には、船の様子が良く見えていたらしく、余計に気になるのかもしれない。沈んだ船の事を思い出して、また肩を落とすと、「名前、どうかしたのか?なんか元気ねえな??」とチョッパーが足元から心配そうに顔を覗き込んできた。


『…ううん、大丈夫だよ。…それより、次の島が楽しみだね』

「うん!いい船大工が仲間になってくれるかな」

『きっとね。この船に乗る人なら、素敵な人に決まってるよ』

「そっか…!そうだよな!……あ、でも……名前は次の島で降りるかもしれねえんだもんな……」


わくわくと目を輝かせるチョッパーの顔がみるみるうちに暗いものへと変わっていく。なんだか見ているこっちが罪悪感を感じてしまいそうなほど落ち込むチョッパーに、「船大工さんが来たら、寂しくないよ」と微笑んでみたけれど、あまり効果はないらしく、チョッパーの表情は暗いままだ。どうしようと眉を下げていると、「おい、チョッパー、」とサンジさんの声が掛かり、俯いていたチョッパーの顔があがる。


「ウソップが、「島に入ってはいけない病」だ」

「それは治せねェ」

「!!ウッ………!!」


サンジさんの声によって、少し元気を回復したチョッパー。良かったと、ほっと胸をなでおろしていると、「島が見えてきた…!!」というルフィの声に、霧の向こうにぼんやりと輪郭を現れしてきた島に目をこらす。どんな島だろう。と期待に胸を高鳴らせていると、徐々に視界が開け、島の姿がハッキリと現れていく。そして、目に映ったのは、


「何もね〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」


海岸から見えるのは、見渡す限りの草原。いっそ清々しいほど、何も無い島だと目を丸くしていると、大草原に目を輝かせていたルフィがにやりと笑ってこちらを向く。


「にっししし!ここなら、“海軍”はいねェなあ!」

「…確かに、こんな人もいるかどうかも怪しいとこにゃあ、海軍はいねェよな」

「よォし!それなら、名前が行かねえように見張ってなくても大丈夫だな!大草原を探検だー!!」


「うおー!!」と、一面に広がる緑に向かって飛び込んで行ったルフィ。「おれも!」とそんな彼を追いかけて船から飛び降りたウソップとチョッパーの姿にナミは呆れている。
というか、見張るとは。まさかルフィは、私が船から降りないように見張ろうとしていたのか。苦笑い浮かべながら、草原の向こうへと走っていく姿を見送っていると、やけに愉しそうに笑ったロビンさんとナミがそれぞれの両隣へ。


「船長さんは、あなたを降ろす気は全くなさそうね」

「ほんと、厄介なのに好かれちゃったわね。もういっその事を諦めた方が楽なんじゃない?」

『な、ナミまでそんな……』


意地悪く笑う2人に、顔を引き攣らせていると、「アイツが折れるなんて有り得ねえぞ」と錨を下ろしたゾロさんまでニヤリと笑みを見せてくるものだから、うっと声を詰まらせる。確かに、この短い時間の中でも、ルフィという人間が物分りのいい柔軟な思考のタイプではないことはよく分かっている。むしろ、こうと決めたらこう!と頑な人間だろう。
「だめだ!」と胸を張って高らかに宣言するルフィの姿を想像して、いやいや!と首を振っていると、そんな私を見たナミとロビンさんが顔を見合せて笑い合うものだから、サンジさんの目がハートになっている。


『私に何かこう…役に立てる力があれば乗せて貰うこともあったかもしれませんけど…何の力もない状態で“海賊船”に乗るなんて無理です…!』

「あら、でもあなたには“巫女の力”があるかもしれないわよ?」

『い、いやいや、そんな力あるわけないし…』

「使えるか試してみたら?案外、“役に立てる力”かもしれないわよ?」

『ええ……』


ナミの提案に肩を落としていると、「一体どんな力なんだい?」というサンジさんの問いかけに、ナミやロビンさんが私が空島で見せたという不思議な“力”について話し始める。私の能力とかではなく、何かの偶然とかな気がするんだけどな。と小さくため息をついていると、難しい顔をしたゾロさんが1歩こちらへ。


「…確か、エネルの能力を消したんだったな?」

『あ、あれは…いつの間にか雷が消えていただけで…』

「“だめ”だというあなたの声に反応して消えたようにみえたわ」

「…あ!そう言えば、船で襲われた時も、この子が“やめて”って叫んだら、アイツらの動きが止まってた」

「…“やめて”で動きが止まって、“だめ”だっつー声でエネルの雷が消える……声というように、名前ちゃんの言葉に呼応してるっぽいな…」

『いや、だから、私じゃ……』


話を進めていく四人に、何度も首を振ってみたけれど、気になったからには試して見ないと気が済まないらしいナミが、「ちょっと何か“言って”みてよ」と変な提案をしてくる。何か言うって一体何を?と戸惑っていると、「ぶん殴ろうとすりゃ、分かるんじゃねえか」とゾロさんが物騒なことを言うものだから慌てて彼と距離をとる。


『ぶ、ぶん、ぶん殴るって……』

「おいてめえくそマリモ…!名前ちゃんに手ェ出してみろ…!この島の草原と一緒に植え付けてやんよ!!!」

「馬鹿か!!フリに決まってんだろうが!!!」


フリ。そうか、殴るフリか。いや、それでも十分怖いけれど。ぎゃあぎゃあと喧嘩を始めた2人に面倒だとばかりにナミが顔を顰めていると、ふふっと柔らかく微笑んだロビンさんがゆっくりと視線を草原へと移す。


「…私は、船長さんの誘いに乗る選択肢があってもいいと思うわよ?」

『そんな……私が、海賊なんて、』

「確かに、あなたに“海賊”は似合わないわ。
…でも、“この船”は、“あなたには”、とっても似合うと思うわよ」


優しく微笑むロビンさん。その瞳がどこか寂しげに見えるのは何故なのだろうか。
デービーバックファイト

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