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「さてお待ちかねっ!!海賊のお宝は山分けと決まってるわ!!これだけの黄金だもの、すごい額よ!!」

「イよォっ!!!」

「待ってたぞーっ!!銅像買うんだ、おれは!!!」

「本買っていいか!?」

「新しい鍋とフライパンと………食器に、巨大ねずみ取り」

「飲み放題だな、コリャ」


皆がいつになく楽しそうだ。それもそうか。
テーブルの上に積まれた黄金の山。見ているだけで目がチカチカしてしまいそうな程輝いているそれは、お金に換算したら一体いくらになるのだろう。

空島で見つけてきた黄金は、麦わらの一味始まって以来の大成果らしい。青い海に戻ってきてからも、「貧乏航海か抜け出せる…!」とナミが涙ながらに喜んでいたけれど、一体今までどんな航海をしてきたのだろうか。あとでウソップ辺りに聞いてみよう。

「まず、私のへそくりが8割」とにっこりと笑いながら言うナミに、皆がツッコミを入れる姿を見ながら笑っていると、「冗談よ」とケロッとした顔で告げたナミはある提案を口にする。


「船を?このメリー号をか?」

「そうよ。もうボロボロじゃない」


ナミの提案とは、彼らの乗る船、ゴーイングメリー号の修理にこの黄金を使うというものだった。ルフィの特等席だという羊の船首が可愛らしいこの船は、ウソップの故郷からずっと、皆をここまで乗せてきてくれたらしい。
「そりゃいい!」とナミの提案に賛成の声があがる。にっと笑ったルフィの、「ゴーイングメリー号、大修繕!!!大賛成だ!!」という声にチョッパーやウソップ、ロビンさんと共に拍手を送った。


「考えてみりゃ、“東の海(イーストブルー)”の俺の村から、ずっとおれ達を乗せて航海してくれてんだ。たまにゃあ、しっかり労ってやんねェとバチあたるってもんだぞ」


昼食に出されたサンドウィッチを頬張りながらそう零したウソップの声はどことなく嬉しそうだ。彼の故郷で貰った船と言うこともあって、きっと人一倍メリー号に思い入れがあるのだろう。ウソップの声を聞いたルフィが、「だったらよ、」と口開く。それに、なんだなんだ?とばかりに皆が食べていた手を止めると、いつも通りの笑顔を浮かべたルフィが、声を張る。


「“船大工”、仲間に入れよう!!」

「「「「「!」」」」」

「旅はまだまだ続くんだ。どうせ必要な能力だし。
メリーはおれ達の家で!!命だぞ!!
この船を守ってくれる“船大工”を探そう!!」


ルフィの言葉を聞いた皆は、呆れたような驚いたような表情で、お茶を啜る船長をみる。「コイツはまた…」「ホントまれに…核心をつくよ…」と零すサンジさんやゾロさんに小さく笑ってしまう。
こういうところが、ルフィが船長たる所以なのかもしれない。この船に乗る“船大工”が、どんな人なのかは分からないけれど、きっと素敵な仲間が増えるのだろう。もし、次の島で見つけるのなら、私も会えるかもしれない。

そう言えば、次の島まではどのくらいかかるのだろうか。ふと感じた疑問。航海士のナミなら何か分かるのだろうかと「ナミ、」と彼女の名前を呼ぶと、「?なに?」とサンドウィッチの食べ終え、コーヒーを飲んでいたナミが首を傾げる。


『次の島までどれくらいで着くのかな…?』

「そうねえ…気候がもう少し安定してくれば、次の島の海域に入ったってことになるけど…」

「なんだよ名前、そんなに次の島が楽しみなのか?」

『楽しみって言うか…次の島には海軍がいるといいなあって……』



そう言葉にした瞬間、はたと全員の動きが止まる。ポカンとした顔で凝視してくる皆に、どうしたのだろうと不思議に思った時、漸くみんなの反応の理由に気づいて、慌てて首を振った。


『ご、ごめんなさい…!皆からしたら、海軍なんていない方がいいんだよね…!』

「確かにいない方がいいにはいいんだけど……そっか、そうよね、そう言えばそういう約束だったわね……」

「名前ちゃんのことは、海軍のいる島まで送るって話だったもんな…」


ナミとサンジさんの声に、ダイニングがしんみりとした空気に包まれる。どうしてそんな空気になっているのか分からず、首を傾げていると、そんな中で唯一、この船の船長だけは、いつもの調子で明るく声を上げる。


「なんで??」

『え?なんでって…?』

「なんで、海軍の所まで行かなきゃなんねえんだ??」

『それは…海軍に保護して貰うために…』

「??名前は別の世界に帰る方法を探してんだろ??なら、このまま俺たちと一緒に冒険しながら、探しゃあいいじゃねえか!
おれ達もう、仲間なんだからよ!」


『…………はい?』


まるで当たり前のことようにそう言ったルフィに、今度は私が固まる。仲間。仲間って、誰が?私が?みんなの?目を丸くしてルフィを見つめていると、そんな私なんか気にもとめず、「次の島が楽しみだなあ!」とダイニングから出ていこうとするルフィ。
はっとして、慌てて彼の腕を掴んで引き止めると、急に掴まれた事に驚きもせず、「?なんだ?」とルフィは目を瞬かせる。


『る、ルフィ…あの、今、仲間って…』

「おう!言ったぞ!!だって、名前は空島の冒険楽しかったんだろ??」

『え?あ、う、うん、楽しかったけど…』

「なら作戦成功で、おれ達の勝ちだ!!だから名前はもうおれ達の仲間だ!!!」


いや、だから作戦ってなに。というか、作戦成功で、勝ちとは。私はいつ彼らに負けて、仲間になることが決まったのか。話の展開について行けず目を回していると、再び外へ出ていこうとするルフィ。まずい。このままではまた流されてしまうと、彼の腕を掴む力を強めれば、「?まだなんかあんの?」とルフィが眉根を寄せる。


『む、無理だよ…!私が、みんなの仲間になんてなれるわけない…!』

「なんでだよ?」

『だ、だって…仲間になるってことは、麦わらの一味に入るってことでしょ?』

「おう!」

『……海賊に、なるってこと…だよね?』

「おう!」


相変わらず子供のような笑みを見せ、大きく頷いたルフィ。そんな彼にいやいやいや!と大袈裟に首を振ってみせると、「なんだよ?」と不満げに口を尖さられる。


『無理だよ…!海賊なんてなれるわけない!』

「なってみなきゃ分かんねえじゃん」

『わ、分かるよ…!だって私は弱いし、臆病だし…戦うことなんて出来ない…。このまま…このまま船に乗せて貰っても、また足でまといになる…。…っそれは……嫌なの……』


神官に襲われた時も、エネルに襲われた時も、私は何も出来なかった。
チョッパーが。サンジさんが。ウソップが。ナミが。ロビンさんが。ゾロさんが。そしてルフィが。
皆が戦おうとしている中で、私は、怯えて震えることしか出来なかったのだ。それが酷く情けなかったと同時に、やはり彼らと私では生きる世界が違うのだとも思い知らされた。

視線を落として目を伏せた私に、ルフィがまた何かを言おうと口を開いたけれど、「ストーップ!」といったナミによって口を押さえられた。


「ルフィ、この子の気持ちも考えてあげなさい。空島は確かに楽しかったかもしれないけど…でも、“怖い ”思いだってさせたのよ…。それに、そもそも次の島に海軍がいるのかも分からないんだし」


「一先ずこの話は保留よ」とそう言ってルフィの口から手を離したナミ。ぶすっとした顔でそんなナミを睨みつけるルフィだけれど、どうやらとりあえずはナミの言葉に従ってくれるらしい。ほっと息を吐いてルフィの腕を掴んでいた手を離すと、不満そうな顔をしたままルフィは外へ。「おい、ルフィー!」とそんな彼の後を追いかけて行ったウソップとチョッパーの姿を見送り小さくため息をつくと、困ったようにナミが眉を下げる。


「全く、子供なんだから」

『…ルフィはどうして“仲間”だなんて言ってくれるのかな…?全然分からないよ…』


ポツリと零れた本音。

分からない。だって、私はこの船に乗ってから何も出来ていない。暖かくて優しい皆に、“貰って”ばかりだ。でも、ルフィはそんな私を“仲間”だと呼ぶ。私には勿体なさすぎるその言葉は、嬉しい反面、酷く虚しくもなる。何も出来ない私が、仲間になんてなれるはずないのにと。

テーブルに落とした瞳がゆらゆらと揺れる。ゆっくりと目を閉じ、深く吸い込んだ息を吐き出そうとした時、コトリと目の前にコーヒーの入ったカップが。


「名前ちゃん、ルフィじゃねえが……おれ達だってもう思ってるよ。名前ちゃんのことを、“仲間”だって」

『え……』


思いもよらぬ言葉に自然と顔が上がる。
優しく微笑むサンジさんと目を合わせ、どうしてと視線で問いかけると、そっと目を細めたサンジさんは優しく言葉を紡ぐ。


「名前ちゃんは自分のことを“何も出来ない”っていうが…そんなことねえさ。名前ちゃんが空島が“楽しかった”と言ってくれただけで、俺も嬉しくなれる」

「…サンジくんの言う通りよ。何かが出来るっていうのは“戦える”かどうかじゃないわ。…それに、ホトリとかっていう神官の仲間に襲われた時も、何が起きたかいまいちよく分からなかったけど…あんたはサンジくんとウソップを助けようとしてくれたじゃない」

「私がエネルの攻撃を受けそうになった時も、そうだった。最初のエネルの攻撃を受けずに済んだのは、たぶん、あなたのおかげだと思う」

『…私の……?』

「…“異海の巫女”は、この世界の理を覆す力を持っているとされているわ。もし、あの時、あなたがエネルの能力を防いだのだとしたら……」

「巫女の力を使った…てこと?」


そんなことあるはずない。
私にそんな力があるなんて信じられない。

「そんな力私にはないですよ」と苦く笑って首を振ってみたけれど、ダイニングに残っている四人はどうも納得出来なさそうな表情をしている。


「…とりあえず、あなたが本物の巫女かどうかに関わらず、“別の世界”から来たことや、不思議な“能力”については黙っておいた方が得策ね」

『…分かり、ました…』


少し声色を落としたロビンさんに歯切れ悪く頷き返した私に、ナミ達はどこか心配そうに息を吐いたのだった。
閑話休題 2

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