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どうしてこうなった。いや、ホントにどうしてだ。
チラリと隣に座る爆豪くんを盗みみれば、不機嫌さを惜しむことなくさらけ出す彼は、「何見てやがる」と睨み返してくる。

戦闘訓練の翌日。
昨日と同様に一般科目の午前授業が終わり、昼休みを向かえた私は、心姉ちゃんが作ってくれたお弁当を食べ終え、教室に残る響香ちゃん、透ちゃん、百ちゃんと談笑していた。可愛い女の子たちに囲まれホクホクしていた私。けれど、その癒しタイムは背後から掛けられた「………おい」という地を這うような低い声に水を差される。


『…え?ば、爆豪くん??なに?』

「…こい!!モブ女!!!!」

『うぇ!?ちょ、いたっっ!!な、なに!?』

「ちょ!?何してんの爆豪!?」

「苗字さん!?!?」


突然腕を掴まれたかと思うと、勢いよく引っ張られ教室の外へ。驚く皆の声を背に、大股で歩く爆豪くんに何とかついて行くと、連れてこられたのは人気のない校舎裏。え、うそ。まさかこんな所で爆破なんてされないよね?いくらなんでもしないよね??
顔色を悪くして目の前の背中を見つめれば、漸く腕が解放され自由になる。引っ張っていた力の割に、掴まれていた腕はそこまで痛くない。もしや加減してくれていた…?というかなんでここに。首を傾げつつ、掴まれていた腕を摩っていると、背を向けたまま、「ほらよ」と突き出された袋。これは、


『……プリン???購買の??え、なんで?』

「……食え」

『え、でも、』

「いいからさっさと食えっつってんだろ!!!ノロマ!!!」

『は、はい!!!!!!!』


あまりの怒号につい返事を返してしまった私は、慌てて袋を受け取り、中からプリンとプラスチックのスプーンを取り出す。とは言え立って食べるのもなあ、とすぐ傍に見つけた花壇の縁にちょこんと座れば、それを見届けた爆豪くんも三人分くらいのスペースを開けて隣……とも言えない場所に腰かけた。なんなんだこの人。


こうして冒頭に至ったわけである。


相変わらず不機嫌そうな爆豪くんの様子を伺いつつ、プリンの蓋をとって早速一口頬張る。あ、美味しい。流石は雄英。購買のプリンまでも美味しいのか。もぐもぐとプリンを食べ進めていると、チラリと一瞬だけ爆豪くんの視線が向けられる。「……あ、ば、爆豪くんも食べる??」と思わず聞けば、「んな甘えもん食えるか」とまた視線を逸らされた。じゃあなんでプリンなんて買ったんだ。もしかして貰ったのか??


「…おい、食ったな」

『え、あ、うん。食べたけど……』

「じゃあ忘れろ」

『……はい?』

「だァかァらァ!!!昨日見た事を忘れろって言ってんだよ!!!!!」


昨日見た事って、もしかして。


『爆豪くんが泣いてたこと?』

「っ泣いてねえわ!!!!!っざんけんな!!ノロマ女ァ!!!!!!」

『ひっ!!す、すみません!!!!』


いや、なんで私謝ってんだろ。ていうかなんでいちいち怒るの爆豪くん。
でも、何故彼がプリンを半ば無理やり食べさせたのか漸く合点がいった。つまりあれか。交換条件というやつか。かなり強引だけれど。
元々誰かに言おうとかする気もなかったので、「分かった、なるべく忘れるし他言もしないよ」と答えれば、漸く満足してくれたらしい爆豪くんは口をへの字に曲げたまま顔を背けた。


『……ねえ、爆豪くん』

「あ゛?んだよ、黙って食えや」

『いや、あの……昨日のことは忘れるし、誰にも言わないから、だから……一つ聞きたいことがあるんだけど、』

「…………んだよ」

『……あのさ、爆豪くんはどうして、ヒーローになりたいの?』

「あ?」


背けられていた顔がこちらを向く。何言ってんだとばかりに注がれる視線に、逃げるように今度は私が爆豪くんから目を逸らし、地面を見つめる。


『…分からないんだ、私。なんで皆、そんなにヒーローになりたいのか。ヒーローってそんないいものなの?』

「…てめえもヒーロー志望だろうが」

『そう、だけど……私は、志や夢があってヒーローになりたいんじゃない。目的があって……それを叶えるためにはヒーローになる事が一番手っ取り早いから目指してるだけっていうか……』


あれ、なんで私こんな話爆豪くんにしてるんだろ。質問したのはこっちのハズなのに。
「ねえ、どうして?」ともう一度問いかければ、少し面倒そうに顔を顰めた爆豪くんが目を細める。やっぱり答えてくれないかな、と諦めようとした時、


「んなもん、カッケエからに決まってんだろうが」


『…………………え?』


返ってきた意外な答えに間の抜けた声が漏れる。
かっけえって。カッコイイって。いや、そりゃ確かに活躍しているヒーローはかっこよく見えるのかもしれない。でも、そんな理由で??
パチパチと瞬きを繰り返す私を他所に、更に爆豪くんは続ける。


「俺はなァ、オールマイトを超えるNO.1の!カッケエヒーローになるんだよ…!!そのためにここにいる!!ヒーローがいいもんかだあ??知るか!!んなもんてめえで決めやがれ!!!」

『え、あ、ちょ!爆豪くん!?』


ふんっ!と鼻を鳴らした爆豪くんはそのまま立ち上がったかと思うと、来た道を引き返していく。え、ちょ、まさか置いていくつもり!?と慌てて彼を呼び止めれば、「んだよ!まだなんかあんのか!?!?」とキレ気味に返される。


『い、いや……何かあるかと言われたらないんだけど…』

「ああ゛!?」

『ご、ごめん!でも、あの、……お礼!!お礼言いたくて!!』

「礼だあ…?」

『…し、質問、一応答えてくれてありがとう……!私にはヒーローをカッコイイっていう感覚がないから、やっぱりまだちょっと納得できないとこもあるけど……で、でも!“カッコイイ”と思うものになろうとする気持ちはわかる気がした……!だから、

“カッコイイ”ヒーローになってね!爆豪くん!!』


「あと、プリンもありがとう!」とそう声を張りあげれば、チッとまた舌打ちを一つ落とした爆豪くんは何も言わずに去っていってしまった。結局置いてかれてしまったな。
食べかけのプリンに視線を落とし、また花壇に腰掛ける。


“カッケエヒーローになるんだよ…!”


ヒーローがカッコイイなんてやっぱりよく分からないけど、でも、爆豪くんがカッコイイヒーローになると言うのなら、それは、少し、見てみたい気がした。

掬ったプリンを口の中に落とす。
ほんのりと広がる甘みに、ほんの少し頬が緩んだ。
MY HERO 5

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