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- ナノ -
「ナミ!!!」

「何!?私!!どうしたらいい!?」


淀んだ空に向かって飛ぶ黄金の船。そこに現れたのは、船で寝ているはずのウソップだった。どうして彼がここに。驚く私たちをよそに、サンジさんが居ないことを聞いたウソップはなぜか一度船内へ。パタンと閉められた扉に「こらーッ!!!」とナミが声を上げれば、再びウソップが扉の向こうから現れる。しかし、その瞬間を逃さないとばかりにウソップに落ちる雷。必死に飛んでそれを避けたウソップはナミの方へと転がると、切羽詰まった声で彼女の名前を呼んだ。


「助けてくれ」

「知るかァ!!!!」


スパァン!!とウソップの頭を叩いたナミ。
「あんた私を助けに来てくれたんじゃないの!!?」「イヤもー、それもどうなんだかおれにもさっぱり」「じゃ何しに来たの!!?」「さ〜〜」「さーって何よ、助けてよ!!!」「助けるったってお前相手が“神”じゃ……」「よねーっ!アハハハハハハハ…」
こんな状況にも関わらず、何故か普段のノリで会話をしている二人。一瞬にポカンとしてしまったけれど、エネルが二人に向かって手のひらを向けたことに気づき、「危ない!!!」と叫べば、それに気づいたナミとウソップは、再び雷を飛び避ける。


「っおい!なんで名前がここにいるんだ!?」

「エネルに連れてこられたのよ!どうにかして、あの子を連れて逃げなきゃ…」


私がここにいることに驚いているウソップに、ナミが答えると、その後二三言交わした二人が左右に散っていく。途中船縁で頭を打ちながらも、なんとか甲板にある半球の形をしたものの上に乗ったウソップは「くらえゴッド!!“ウソ〜ップ、呪文(スペル)!!!”」と勢いよく声をはりあげた。

呪文。まさか彼も何かの能力者だったのか。

一体何をするのかと、ウソップを見つめていると、「名前!!」とナミが私の名前を呼ぶ。こっちに来て!と言う視線に、ふらふらの足取りで彼女の方へと駆け寄ると、ウソップに気を取られていたエネルの視線が一瞬だけこちらへ。


「「ツメと肉の間に針が深く刺さった」…うわ!!!」

「!!イヤッ…考えただけですごく…痛い」

「バカ!!耳を塞げ、命を落としかねない!!」


ウソップの呪文。それは所謂、不幸体験のようなとの。確かに人が痛い思いをした話を聞くと、ゾクゾクと背筋が冷たくなることはある。あるけれど、それが果たしてエネルにもつうじるのだろうか。
第二の呪文を唱えているウソップにエネルがゆっくりと近づく。「今のうちに準備を!!」と何故か一緒に乗ってきたウェイバーを起こして乗るナミ。「名前も乗って!!」という彼女の言葉に従って後ろに乗り込むと、ハンドルを握ってエンジンをかけたナミは、エネルに滅多打ちにされているウソップの元へ。


「ウソップ、掴まって!!!手を!!!」


ナミが差し伸べた手に、なんとか手を伸ばしたウソップ。けれど、それを咎めるようにエネルの金の棒が彼の手を押しのける。


『っウソップっ!!!!』


バチバチっと電気を発するエネルの身体。だめ、あのままじゃウソップがエネルの雷に、

タンッ!!!

「わァっ!!!」

『えっ!!?』

「げふ!!」


エネルが雷を放とうとした瞬間、ウソップの身体浮きがありウェイバーの上へ。何が起きたのかと目を丸くしてウソップの居た場所をみると、そこに立っていたのは、


『サンジ、さん…?』

「…行け」


ふっと笑みをこぼす彼の姿を目にした瞬間、「サンジくん!!!」とナミの悲鳴混じりの声が上がる。ウェイバーを止めようと、手を離そうとしたナミ。しかし、「ナミ!!!出せ!!!」といったウソップは彼女の手を覆うようにウェイバーのハンドルを握る。

船で一度エネルの攻撃を食らったウソップとサンジさん。こうして今動けているのは、彼らの打たれ強さがあったからこそ。でも、二度目は?もしもう一度エネルの雷に打たれたら、サンジさんは、

ナミの腰に回していた手が離れたのは、ほぼ反射的。もし、その時私に考える時間や余裕があったなら、絶対にしなかっただろう。「名前!!?」と驚いた声をあげ目を丸くするナミとウソップ。そんな彼女たちを振り向くこと無くウェイバーから飛び降り、サンジさんの方へ駆け寄ると、とてつもない熱量をもった稲妻を纏ったエネルがサンジさんに向かって手を伸ばす。


『サンジさん!!!』

「!?名前ちゃ、なんで……!!」


伸ばした手で彼の腕を掴む。驚いて目を見開いてるサンジさんの腕にしがみつくと、ハッとした彼が私の身体を覆うように抱き締める。

“安心しろルフィ。お前の分まで名前ちゃんの事は俺が命に代えて守ってやる”

出発の時、彼が彼の船長と交わしていた言葉。
“命に代えて”なんて、今までの人生で聞いたことなんて一度もなかった。もし使う人がいたとしても、本気で“命”を懸ける気があるのかは正直怪しい。私が生きてきた世界では、“命”をかけてでもやり遂げるべきことなんてほとんど有りはしないから。でも、この世界は、サンジさんは違う。きっと、彼は、本気で言っていたのだ。だから今、こうして、ナミをウソップを、そして、私を助けるために、“命”をかけようとしている。


『っ嫌です……』

「は……」

『サンジさんの“命”をかけて守ってもらっても、私は嬉しくなんてない!!あなたの命の代わりに助かっても、喜ぶことなんて出来るはずない!!!!だからっ…』


放たれた雷が目前に迫ってくる。今まで向けられてきた攻撃の中で一番大きなそれは、今から逃げようとした所で逃れることは出来ない。でも。


『私は!あなたが死ぬなんて、そんなの…絶対…


“い や だ……!!!!”』


「っ!」


ピカッッッ!!と雷の光が増す。辺りを包むように弾けた雷に、周りが一気に白くなる。サンジさんが私を抱く腕に更に力を込める。バチバチとすぐ側で鳴る電気音に固く目を瞑りながら、心の中で祈る。

もし、もし本当に、神様というものがいるのなら、どうか…どうか…!…この人を、死なせないで…!!

そう願った瞬間、意識が一気に遠のく。エネルの攻撃を受けたせいだろうか。瞼が重力に従ってゆっくりと落ちていく。その瞬間、雷音がやみ、辺りを包んでいた白い光が薄くなっていく。エネルの攻撃がやんだのだろう。サンジさんの無事を確認するために顔をあげようとしたけれど、それよりも早く失われた意識に、目の前が真っ暗になった。
空島 21

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