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- ナノ -
「思い上がるなエネル!!!“神”などと言う名は、この国の長の称号にすぎんのだぞ!!!

人の生きるこの世界に“神”などおらぬ!!!!」


空の騎士の叫びがビリビリと空気を揺らす。彼の声を嘲笑うように笑うエネルを、一体誰が“神”と認めるのだろうか。


「“2000万ボルト……放電(ヴァーリー)!!!”」


かつての部下を傷つけられ、怒りに任せてエネルへと飛びかかった空の騎士。けれど、あっという間に空の騎士の横へと回り込んだエネルは指先から放った高熱の光を空の騎士の頭へと放つ。
バリッ!!!という電気音。当たりを白く染める稲光の眩さが、それがどれほど高圧なものかを物語っている。


「変な騎士!!!」

『空の騎士…!!』


ナミと共に声を張り上げ、力なく倒れる空の騎士の姿ち目を開く。震えた唇でもう一度空の騎士を呼ぼうとしたけれど、恐怖のせいで浅くなった呼吸に、声を出すことさえ出来なくなる。

怖い。
人が、人を、あんなふうに傷つけるなんて。

唇の震えを誤魔化すようにきゅっと引き結んではみたものの、恐怖から浮かんできた涙がゆっくりと頬を伝う。


「悪魔の実か…」

「おそらく…ゴロゴロの実…!!数ある能力の中でも…確かに…無敵と謳われる能力の一つ…“雷”の力」

「雷…!?……そんなの、人間が適うわけないじゃない…!!」


ナミの言う通りだ。本来ならば、人間の力が及ぶことなんてない自然の力、“雷”。それを操ることが出来る敵に一体どう立ち向かえと言うのか。


「ヤハハハハ!さあ、あと一人、誰が死ぬ?」


愉快だとばかりに笑うエネルに思わず顔が歪む。既に隠れている意味などないと知り、立ち上がって空の騎士へと駆け寄ろうとしたけれど、腕を掴んだナミに黙って首を振られてしまえば立ち尽くすことしか出来ない。

許せない。でも、私には何も出来ない。

溢れてくる涙を流すことしか出来ない自分に、唇を噛み締めた時、すっと目を細めたロビンさんがエネルに向かって口を開く。


「…あなたはこの島を落とすと言うけれど、そんなことをしてはあなたの欲しがるものも落としてしまうのでは?」

「……黄金の鐘か…」


彼女の言葉に、まるでそう言われることを予想していたとばかりに笑うエネル。この人も、ノーランドが見たという鐘を狙っているのか。じっとエネルを見据えるロビンさんの目。そんな彼女に愉しそうに目を細めたエネルはニヤリと不敵に笑う。


「ヤハハハハ!!心配には及ばん。すでに目安はつけている…お前のとった行動を思い返せば、考えられる場所はひとつ」

「!!!…え………」

「……意外そうだな。その条件を使えばうまくおれを出し抜けるとでも考えたか?おれを甘く見るな……!!」

「ロビン!!!!」


「おれは打算的な女が嫌いでね」

『っ!』


エネルの指先がロビンさんに向けられる。
脳裏を過ぎったのは、エネルによって倒されたサンジさんやウソップ、そして、空の騎士の姿。

ダメ。いやだ。ロビンさんが、彼女があんな目に合うなんて、そんなの見たくない…!


「“だ め え え え え え え え !!!”」


気づいた時には、辺りの空気を悲鳴混じりの叫び声が揺らしていた。なんて情けない声なのだろうか。流れる涙を拭うことなく、ぎゅっと閉じていた瞼をゆっくりと開くと、目に映ったロビンさんは、驚い顔して立ち尽くしている。


「っなに…!!?」

「エネルの雷が…!」

「消えた……?」


一体何が起きたというのか。
ロビンさんに向かって放たれた恐ろしい光。稲妻は確かに彼女の元へと向かっていたはずだった。それが何故か、雷は彼女へ届くことなく、いつの間にか消えていたのだ。
信じられないと、その場にいた全員が目を丸くする。しかし、そんな中でただ1人、エネルだけは不愉快だとばかりに顔を顰め、鋭く細めた目を、何故か、私へと向けてきた。


「女…貴様、一体何をした……」

『え……』


許せない。そんな口調で問いかけられた問。何ってなにが。私は何もしてなどいない。ただ叫ぶことしか出来なかった。それなのになぜ、エネルは私を睨んでいるのか。
向けられる視線から逃げるように一歩後ずさったけれど、ぱっと一瞬で目の前に移動してきたエネルの手がスローモーションで伸びてくる。

逃げなきゃ。

そう頭では分かっているのに、身体は言うことを聞いくれない。恐怖のせいで立ち尽くすことしか出来ない私の首をガッと掴んだエネル。「名前!!!」とナミが私の名前を呼ぶ声とともに、足が地面が浮き上がる。


「答えろ、女。貴様一体何をした?」

『っ…う゛……あ゛……』

「っくそっ!ソイツを放せ!!!!」


構えた刀を振り上げたゾロさん。軽々とゾロさんの攻撃を躱したエネルは、首を絞める手に更に力を込めると、気に入らないとばかりに目を細める。


「こんな力を振り払うことも出来ぬくせに……忌々しいっ…!!!」

『っ!』

「やめなさい!!!!!!」


浮き上がった身体が更に浮遊する。一瞬目を見張った私の耳に届いたロビンさんの声が酷く焦っている。視界の端でエネルが小さく笑った。と同時に勢いよく投げつけられた身体。

ドオオオンッという衝撃音とともに、揺れた視界。そこでようやく、自分がエネルによって投げつけられたのだと知る。


「っ名前ーーーーー!!!!!!!」


ナミの声が、泣いている。ぼんやりとした意識で彼女の姿を確認しようとしたけれど、石の壁に打ち付けた頭から流れてくる血のせいで赤くそまる視界。薄らぐ意識のせいで、自分が今どういう状況なのかすらよく分からない。ただ、だんだんと遠くなる意識の中で見たエネルの表情は、まるであの時の海賊のように、傷つく私を嘲笑っていた。
空島 19

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