×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

バサッと大きくはためいた羽音。ゆっくりと降下していったサウスバードが私を降ろしてくれたのは、既に森の中心部へと進んでからだった。


『…ここは……』


とんっと足を着いた地面は、土でも、雲でもない石の上。広がる景色も今まで見てきたものとは違う、石造りの遺跡ばかり。昔は人が住んでいたのであろう建物には、おおきな木が太い根を張っている。ロビンさんやナミの話では、この島は元々地上にあったもので、ノックアップストリームによって空島に打ち上げられたらしい。そしてそれが、恐らく400年前。つまり、この遺跡は400年前のものなのだろう。

土と砂で汚れた石の壁に触れる。上をあげれば、空を隠すように広がる緑の木々がそびえ立っている。“ヴァース”。空島では、この島にある土の地面の事をそう呼ぶらしい。


「じょー!!じょ、じょー!!」

『あ…サウスバード……』


遺跡に手を添えたまま、じっと空を見上げていると、不意にサウスバードが何かを急かすように鳴き出した。そう言えば、助けてもらった…ということでいちんだよね?こんな所に連れてこられたとは言え、サウスバード達が来なければ、どうなっていたか分からない。


『助けてくれて、ありがとう』

「じょー!じょー!」


笑ってお礼を言えば、嬉しそうに羽を広げたサウスバード。しかし、直ぐに何かを思い出したようにハッとすると、嘴で服の裾を掴み、ぐいぐいと引っ張ってきた。どうしたのだろうか?まるで、こっちに来いと言っているみたい。不思議に思いながらも、サウスバードに従って歩きだせば、嘴を放したサウスバードがゆっくりとしたスピードで前を歩き出す。


『サウスバード…一体どこへ行くの?』

「ジョ〜」


前を飛ぶサウスバードに投げかけた問。それに何やら返事らしきものが返ってきたのだけれど、残念なことに私は鳥の言葉は分からない。チョッパーがいればなあ、と麦わら一味の船医くんの顔を思い浮かべていると、飛んでいたサウスバードがゆっくりと地面におり、何かを示すように翼を前へ。


「ジョっ!ジョっ!」

『…これは…』


サウスバードが示した先にあったのは、地下へと続く階段。遺跡の中に埋もれるようにあるそれは、木の根に覆われていて、簡単には見つけることは出来ない。どうしてこんな所に階段が。というか、サウスバードはなぜ私をここに?首をかしげてサウスバードを見ると、「じょー!じょー!」と頭で背中を押してきたサウスバード。まるでここに入れといっているようだ。

「入ればいいの?」と首を傾げれば、大きな頷きを返ってくる。この下に一体何があるというのか。まさか、ここが彼らの巣だなんてことは…。一瞬逃げようかとも思ったけれど、後ろにいるサウスバードからは“敵意”も“悪意”も一切感じない。それどころか、妙に懐いてくれているような気がする。

地下への階段とサウスバードを数回見比べる。…船に戻る方法も分からない。それに、ここに居て“敵”に見つかればあっという間に殺れてしまう。それなら、この中に隠れていた方がずっといいだろう。
意を決して階段へと近づけば、待ってました!とばかりにサウスバードが後を追ってくる。入口を覆う根の隙間からなんとか中へ入り込むと、サウスバードも起用に階段の入口を通り抜ける。


『…結構長いみたい…火とかあればな…』


そうぽつりと零したその時、


ボッ!!!


『!?な、なに!?』


壁に掛けられていた松明が勢いよく燃え上がった。どうして勝手に火が。目を見開いて松明を見つめていると、階段に沿うように次から次へと松明に火がついていく。…どうしよう…怖くなってきた。きゅっと唇を引き結んで下を見つめていると、「ジョっ!」と一鳴きしたサウスバードが先に下へ。大丈夫だと、言うように先を歩いてくれるサウスバードの姿に、ほんの少し安心しながらも、警戒を解くことなくゆっくりと足を進めれば、前を歩いていたサウスバードが止まり、じっと何かを見つめる。


『…扉?』

「ジョー」


サウスバードの前に現れたのは、石で出来た重そうな扉だ。サウスバードの後ろから覗き込むように扉を見ると、扉の壁には何か文字が刻まれている。英語でも、もちろん日本語でもないその文字は、歴史の授業で見た象形文字のよう。考古学者のロビンさんなら分かるのだろうか、と今度は美しく微笑む彼女の顔を思い浮かべていると、いつの間にか私の後ろへ回っていたサウスバードが再び背中を押してくる。


『ちょ、ちょっと待って、さすがにこの扉は私には、』


動かせない。そう言おうとした瞬間、ガガガっと地面を重く擦るような音が石の壁を谺響する。ゆっくりと横へ動いた石の扉。またしても独りでに動き出したそれに今度こそ腰が抜け、その場に尻もちをついてしまう。なんで、扉が、勝手に。はくはくと口を動かし、なんとか酸素を取り込んではみたものの、呼吸が上手く整わず、浅い息しか出てこない。震える指先でサウスバードに触れようとすれば、「じょー!」と励ますように鳴いたサウスバードは扉の先へと進んでいく。


『ま、待って…!』


慌ててサウスバードの後を追いかけようとしたものの、震える足では上手く立つことが出来ず、縺れるように中へ。べしゃっと情けない音を立てて転びながら入ってきた私に、心配そうに擦り寄ってきたサウスバード。「だ、大丈夫…」と返しながら、ゆっくりと身体を起こせば、部屋にある松明がぶわりと燃え上がり、真っ暗だった部屋が一気に明るくなる。そして、


『っ…これ、は…………』


明るくなった視界に真っ先に映ったもの。

それは、“龍”だ。

正面の壁一面に描かれている龍の壁画。今にも壁画から龍が飛び出してきそうなほど、迫力のある絵に、呆気に取られて固まっていると、再び服を引っ張ってきたサウスバード。何かほかにも見せたいものがあるのかと視線をそちらへ向ければ、次に目に映ったのは、女性の絵。この人は、もしかして…


『………巫女……?』

「ジョーー!!」


疑問混じりのつぶやきに、サウスバードが肯定するかのように声を上げる。

白衣に緋袴を見に纏、天に向かって両手を伸ばしている女性の姿は、私がよく知っている“巫女”にしか見えない。巫女が手を伸ばす先には、また龍の絵が描かれており、龍は赤、青、緑、白の四つの光に包まれるように飛んでいる。

不思議な絵だ。初めて見る筈なのに、何故か、酷くなつかしい。まるで、私はこの壁画を、この場所を前から知っているみたい。
惹き込まれるように絵を見つめていると、それを邪魔するかのように、がしゃああああんっという衝撃音が響く。それと同時に揺れた地面に思わず膝をつくと、パラパラと顔に土埃が落ちてくる。まさか。


『っ、い、いやあああああ!!!』

「ジョーー!!!」


上を見上げたその瞬間、天井が一部崩れ落ち、大きな瓦礫が降ってきたのだ。慌ててその場から飛び退けば、人一人を簡単に潰せそうな瓦礫の塊が、私の居た場所へとめり込むように落ちる。間一髪だ。もしまた降ってきたら、今度は逃げられないかもしれない。天井から落ちてくる瓦礫の山を想像して、身震いする。一先ずここから出ようと立ち上がって入口へ向かおうとすると、それを止めるようにサウスバードが私の前へ。


『さ、サウスバード…なに?早くここを出ないと、』

「ジョー!ジョー!ジョー!!!」


焦る私をよそに、何かを必死に伝えようとするサウスバードは翼を使って壁を示す。三面ある壁の中で唯一何も描かれていないその壁にサウスバードが近づくと、コツンと嘴で壁の一部を押したサウスバード。何をしているのだろうと、眉を下げてサウスバードを見つめていると、ゴゴゴッという低い音ともに一部の壁が動き出す。

隠し扉だ。

目を丸くしてサウスバードと壁を見つめていると、「ジョー!」と急げと言うように鳴いたサウスバード。慌てて駆け出し、サウスバードの後を追いかけると、再び大きな揺れを感じ、足が竦みそうになる。止まるな、まだ、止まっちゃダメだ。震える足をなんとか動かしていると、視界に映った薄い光。出口だ、とほっと息を吐いて、サウスバードと共に外へ飛び出したのだけれど。


『…え…ええええええええええ!?』


外へと一歩踏み出した足。けれど、何も踏みしめることなく、空を切ったそれに、目を見開いた瞬間、身体は重力に従って下へ。

ちょっと待って!落ちるなんて聞いてない!!

「いやあああああああああぁぁぁ!!」という悲鳴と共に落ちていく身体。この勢いのまま落下して地面とぶつかれば、タダでは済まない。ぎゅっと目を瞑って衝撃を覚悟したその時。


ぼふんっ


『……へ……』


柔らかな感触に包まれた身体。どうやら下は土の地面ではなく、雲の地面だったらしい。良かった、本当に良かった。胸を抑えて、深い息を吐き出すと、「……!?」と耳に届いたのは聞き覚えのある声。この声は、


『っナミ…?それに、ロビンさんとゾロさんも…!』

「名前!!良かった!無事だったのね!!!」


駆け寄ってきたナミがぎゅっと抱きついてくる。背の高い彼女をなんとか受け止め抱き締め返すと、「良かった…」という涙混じりの声に、心配をかけた事への申し訳なさが溢れてくる。謝ろうと口を開いたのだけれど、ハッと何かを思い出したように身体を離したナミ。どうしたのだろうかと彼女を見つめていると、「こっちよ!!!!」と手を引かれ、崩れた石の壁の裏へと身を隠すことに。


『ナミ?一体……』

「しー!!静かにっ…!」


急にどうしたのかと尋ねようとした声を遮れる。額に汗を浮かべながら、壁の向こう側の様子を伺うナミ。その膝の上には傷だらけで丸焦げになったチョッパーがいて思わず声を上げそうになった私の口をナミの手に覆われる。


「お前達がこの島に入って3時間が経過した時、81人のうち一体何人が無事立っていられるかという“サバイバルゲーム”!!この私を含めてな」


この、声は。
聞き覚えのある声に体が震える。ゆっくりと離れていくナミの手に代わり、今度は自分の手で口を抑えると、心配そうにナミに顔をのぞき込まれる。


「私の予想では生き残り5人…!!!あと3分でその3時間がたつ。……つまり今、この場に“7人”もいて貰っちゃあ困るというわけだ」


7人。エネルの目の前にいるのは、ゾロさん、ロビンさん、空の騎士、そしてこの島のゲリラと思われる人の4人のみ。けれど彼は確かに7人と言った。つまり、壁の後ろに隠れている私たちのことなどとうの昔に気づいていたのだ。
「さて、誰が消えてくれる?」というエネルの問いかけに、全員が首を振る。それはそうだ。消えろと言われて分かりました、なんて言う人いるはずない。向けられる四人の視線にナミが「ちょっと待って!!」と声をあげようとした時、


「「「「お前が消えろ」」」」


揃って発せられた声。「………不届き」と笑いながら零された声が酷く不気味に思えた。
空島 18

prev | next