×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

「黄金を手入れるぞォ!!」


「おーーー!!」と楽しそうに声を上げる皆。この島に黄金郷があるだなんて、ナミさんの話を聞いた今でも信じられない。けれど、赤く美しく燃える炎を囲み、いつの間にか寄ってきた白い狼たちと共に踊る皆は、黄金郷が“ある”と信じ、思いを馳せている。

食事を終えると、少し周囲を気にするように見渡したロビンさんが敵に気づかれないように火を消した方がいいと進言したにも関わらず、いつの間にか始められていたキャンプファイヤー。燃え上がる炎は、私やチョッパーさんを襲ったものと同じものの筈なのに、全く違うものに思えるほど美しい。


「いただくぞお宝ーーーーー!!」

「黄金!!」


子供のようにはしゃぐ姿にロビンさんが、柔らかく微笑んでいる。そんな彼女に吊られるように、そっと頬を緩めると、「名前も踊ろうぜ!!」とルフィさん…もといルフィが輪の中から声をかけてきた。


「船長さん、彼女はまだ無理させない方がいいわ」

『ルフィさん、折角ですけど私は…』

「?なんだよ?立てねえのか?」


しょうがねェなあ。とでも言うようにため息を吐いたルフィ。諦めてくれたのかとほっと息を漏らせば、火を囲む輪から外れたルフィが目の前へとやってくる。木の根に座る私を見下ろす彼を見上げていると、徐に伸びてきた腕。こんな細い腕のどこにあんな攻撃をする力があるのだろう、と疑問に思ったのもつかの間、伸びてきた腕は右手は背中に、そして左手は膝裏へと添えられ、え、と驚いている隙に、ふわりと身体が浮き上がる。


「これなら大丈夫だろ!」


にっと笑ったルフィは、私を抱き上げたまま再び火の元へ。突然の“お姫様抱っこ”に目を丸くする私を他所に、輪の中へと戻ってきたルフィが、そのままクルクルと周り始めたものだから、落ちないように慌てて彼へとしがみつけば、パチリと目が合ったルフィが、眩しいくらいに嬉しそうに笑う。


「名前も、黄金楽しみだろ!!?」

『…そ…そうだね……黄金郷なんて、本当にあるならすごく見てみたいけど、』

「だろ!?だろ!?明日は絶対黄金見つけてやるから!みてろよ!!」


とても17歳とは思えないような無邪気な笑顔。私の世界の“17歳”でこんな風に笑う男の子が一体どれだけいるだろうか。にかっと歯を見せて笑う姿が微笑ましく、可愛らしい。自然と綻ぶ顔。目を細めてふわりと笑えば、くるくると回っていたルフィが僅かに減速する。


『…うん、じゃあ、楽しみにしてるね』


キャンプファイヤーの火のせいか、ルフィの頬が赤く見える。「おう!」と勢いよく頷いた彼と目を合わせ、笑い合っていると、「クソゴムてめェ…!いつの間に名前ちゃんを…!!」と額に青筋を浮かべ、拳を震わせたサンジさんがこちらへ。
「やべ」と小さく呟いたルフィは、私を元の位置へと下ろすと、追いかけてくるサンジさんから逃げるために駆け出した。キャンプファイヤーの周りをグルグルと回り、追いかけっこをし始めた二人。「元気ね」と笑うロビンさんに頷いたところで、彼女とゾロさんの間に座る人物に気づく。


『空の騎士…!もう起きて大丈夫なんですか…?』

「ああ、」


頷き返してくれた空の騎士にほっと胸をなで下ろす。ただでくれたたった1つの笛の音。それを聞きつけ、私とチョッパーを守るために戦ってくれた空の騎士。なんて、優しくて強い人なのだ。彼が生きていてくれて本当によかった。


『…空の騎士、』

「ん?どうした?」

『…ありがとう、ございました』


空の騎士の前まで歩み寄り、ゆっくりと頭を下げれば、穏やかな声で「気にするな」と返され、なんだか泣きそうになってしまう。どうしてこの人はこんなに優しい人でいられるのだろう。ううん、空の騎士だけじゃない。チョッパーも、ルフィも、麦わらの一味のみんなだってそうだ。見ず知らずの私に、どうしてあんなに優しく出来るのだろうか。
浮かんだ涙を振りはらうように顔をあげれば、「お主も大丈夫なのか?」と今度は労る声を掛けてくれる空の騎士。「大丈夫です」と笑って見せれば、安心したように眉を下げた空の騎士は、懐かしむように目を細める。


「お主を見ていると、昔出会った青海の娘のことを思い出す」

『え…?』

「穏やかな空気を纏った心根の優しい娘だった。戦いや、争いなんて似合わない、そう、まるで、全く“別の世界”から来たような、」

『それって……』


空の騎士の言葉に、その人が誰なのか、1つの“心当たり”が浮かぶ。

“もし、俺達が産まれるずっとずっと前に、本当に異海の巫女が居て、この世界に現れた。そうだとするなら、“伝説”が生まれた事にだって辻褄が合うだろ?”

脳裏を過ぎったサボさんの声。もし、もしも空の騎士の言う“女性”が、本物の異海の巫女だったとしたら、


『あ、あの、空の騎士、』

「ん?どうした?」

『その人は…その女性は、今は…?』

「…残念じゃが、会ったのはたった一度きり。五十年以上も前のことでな、その後の事は何も知らぬ」

『そう、ですか…』


「すまんな」と申し訳なさそうに謝る空の騎士に慌てて首を振る。五十年以上も前に現れたその人が“異海の巫女”だとしても、どこに居るのか分からなければ会うことすら出来ない。そもそも、その人がまだ“この世界”にいるのかすら怪しい。
元の世界に戻る手がかりを掴めるかと思ったのだけれど、やはりそう簡単には行かないようだ。
ふうっと小さく息を吐いて、元の位置に座り直すと、私と空の騎士のやり取りを見ていたロビンさんとゾロさんが少し怪訝そうに目を細める。


「…お前……」

『?ゾロさん…?なんですか?』

「…いや、別に、それより、このバカ騒ぎに最後まで付き合わなくていいんだからな。さっさと回復するにゃ、寝るのが一番だ」

『…はい、ありがとうございます』


ゾロさんなりの気遣いに気づき、落ち込んでいた気持ちが少し浮上する。ほら、やっぱり優しい人ばかりだ。微笑みながらゾロさんを見つめ返すと、「んな顔して見んな」と手で払われてしまう。んな顔って、どんな顔だろう。
鏡で確認すること出来ないので首をかしげていると、険しい表情を一転さえ、いつもの様に美しく笑ったロビンさんが口元に人差し指を当てる。


「照れてるのよ、剣士さんは」

「っ!オロスぞ!!!!」


ロビンさんの言葉にくわっと目を見開いて反論したゾロさん。そんな彼に臆することなく「あら、本当の事でしょう?」と少し意地悪く笑んだロビンさんにゾロさん耳が僅かに赤く染まる。完全にからかわれている。気の毒だけれど、これはこれで微笑ましい。
空の騎士と目を合わせれば、同じように思っていたのか、彼の瞳も穏やかに細められている。
明日になれば、みんなは森の奥へと進み、黄金郷を見つけるための冒険が始まる。そして、恐らくその冒険には“戦い”付いて纏う。

楽しそうな笑い声が響く森。

どうか明日の夜も、またこうして皆の笑顔が見られますように。
そう、願わずにはいられなかった。
空島 15

prev | next