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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「ゾロ!!!」

『っゾロさん!!!??』


大きく開かれた口に挟まれたゾロさんの身体。もし、あのまま口が閉じられれば。ぞくりと背筋を走った冷たい汗。感じた悪寒を払うように両手で自分の身体を抱き締めてはみたものの、そのまま空サメと共に白い海の中へと落ちていったゾロさんに指先が震える。


「あ……あがって来ない…食べられちゃったのかな…!!!」

「ギャーー!!ゾロが食われたァーーーー!!!」

「…食べられたんなら、雲が赤く染まるはず」

「何コワいこと言ってんの!?ロビン!!」


身体を震わせたまま、何とか船縁へと近づいて白い海面を見つめる。慌てるチョッパーさんやナミさんと、そんな二人とは正反対に落ち着いているロビンさんと並ぶように立って、両手を胸の前で握っていると、突然あがったザバッという水しぶき。そして。


「あァ、ウザってェ!!!!」

『!ゾロさん…!!!』


握った拳で空サメを殴り飛ばしたゾロさん。ふぅっと疲れたようにため息をついて、階段を登ってきたびしょ濡れの彼に、ほっと胸をなで下ろす。


『ゾロさん、良かった…!』

「あんなンに殺られるか。…しかしまいったな。これじゃあ岸へも渡れねェ…一体どこなんだ、ここは…」


付けていたゴーグルを額へと戻しながら、白い海を睨みつけるゾロさん。彼の声に自分も辺りを見回してみたけれど、目に映るのは空サメのうようよいる白い海面と、大きな樹木が立ち並ぶ森だけ。
着ていたシャツを脱いで水を絞る彼に、「あんたサメを殴り飛ばしたわけ。剣士のくせに」と悪態をつきながらも、新しい服を投げ渡すナミさん。その時、ふと目に入った逞しい身体に残る斜めに出来た傷跡に、思わず目を逸らした。


『(大きな、傷跡……あんな傷負ったら、私なんてきっと、一溜りもない…)』


逸らした目を細め、ぎゅっと唇を引き結んでいると、「とにかく船を何とか直しとけ、チョッパー」とチョッパーさんに声をかけたゾロさんは再び船から降りる。「直しとけって…あんた、なにかする気?」というナミさんの問いかけに、新しい服を着ながら、ゾロさんは、どうにかして森に入ると答えている。


「この島には神がいるんだろ。ちょっと会ってくる」

「やめなさいったら!!あんな恐ろしい奴に会ってどうすんのよ!!」


ケロりとした顔で神に会う、だなんてとんでもないことを口にするゾロさん。そんな彼を引き留めようとナミさんは声を上げているけれど、ゾロさんに続いて、ロビンさんまで「私も一緒に行っていいかしら?」と申し出るものだから、二人ともどんな神経をしているのか一瞬疑ってしまう。
震えるだけで何も出来ない私とはやはり経験値が違うのだろうと、三人のやり取りを見つめていると、「宝石のかけらでも見つけて来たら、少しはこの船の助けになるかしら」と言うロビンさんの言葉に、「私も行きマス」と一変したナミさんが手を挙げた。


「ええ!!?あんなに恐がってたのに……」

『ナミさん、本当に行くんですか…?』

「歴史探索よ!」

「『(目が“ベリー”だ…)』」


チャリーンという効果音がつきそうな顔でにこりと笑うナミさん。ウソップさんが「ナミは金目のものに目がねえんだ」と言っていた言葉は本当らしい。「あなたはどうする?」と言うロビンさんの問いかけに、大袈裟に首を振って「行けません…!!」と言えば、「そう、」と頷いたロビンさんが、能力を使って、木の上のツルを下へとおろす。


「じゃあチョッパー!船番頼むぞ!!」

「よろしくね!!」

「すぐ戻るから」

「おう!!みんな気をつけて行けよ!!!無事に帰ってこいよ」

『みなさん、気をつけて…!!』


ツルを使って向こう岸へと渡った三人。森の奥へと歩いていく姿を見送り、いざ船修理をしようと工具を手にしたチョッパーさん。「私も手伝います」と彼の後ろを歩き出せば、ふと何かに気づいたようにチョッパーさんの足が止まる。


「(一番危険なの俺たちだっー!!!!!)」

『?チョッパーさん?どうかしましたか?』


なぜか突然足を止めて固まる小さな身体。どうしたのだろうと問いかければ、はっとした顔で振り向いたチョッパーさんと目が合う。大きな黒い瞳を一瞬見開かせて、何かを決意するようにぎゅっと拳を握ったチョッパーさんは、「何でもねえ!名前のことは俺が守るからな!」と胸を叩く。その姿がなんだかとても嬉しくて、「ありがとうございます」と笑えば、照れくさそうに笑ったチョッパーさんが、そうだ!と声を上げる。


「俺は船の修理するから、名前は船室の方の片付けしてくれねえか?エビに連れてかれた時に、棚から本とか色々落ちたみたいだし…」

『分かりました』


チョッパーさんの提案に、大きく頷いて船室へと向かう。扉を開けて中を覗けば、確かに彼の言う通り、棚から本や小物が落ち、食器も何枚か割れている。サンジさんが困るかもな。と眉を下げながら、とりあえず本や小物を棚に戻そうと、破片を避けながら本を拾っていると、不意に聞こえてきたピイイイイイイイっという笛の音とチョッパーさんの叫び声。なにかあったのだろうかと、持っていた本を棚の中へと戻し、扉を開けた私の目に映ったのは、


『えっ……』

「っ!名前!!!ダメだ!!!出てくるなっ!!!!!!」


メリー号に中心にそびえ立っていたはずのマストが、ない。まるで焼け落ちたような後と鼻腔に感じた焦げ付いたような匂いに目を見開けば、「ほう、まだ居たのか…」と聞き覚えのない声が上から降ってくる。


「女、貴様も神の生贄となれ」

『え…』

「っやめろおおおおおおおおおおおお!!!」


振り上げられた大きな槍。まるで時間が止まったように動くことが出来ず。ただただ槍を振り下ろしてくる男を見つめていると、大きな体躯の“人型”となったチョッパーさんが男に向かって拳を振るう。それを軽々と避け、鳥のようなものへと飛び乗った男は、ふんっと鼻を鳴らすと不愉快だとばかりに目を細める。


「邪魔をせずとも、お前もすぐにあの世に送ってやる」

「ハアハアっ…っくそ!頼むからっ!名前と船には手を出さないでくれっ…!!!名前は、戦えないんだっ!!!」

「そんな戯言を俺が聞くとでも?」


両手を広げ私の前に立つチョッパーさん。彼の肩には大きな傷跡があり、そこから落ちる血がぽたぽたと床へと落ちている。『チョッパー、さん、』と震えた声で彼を呼べば、振り向くことはせず、けれど大丈夫だと言うように拳を握ったチョッパーさんが「コノヤロオオオオオオ!!」と鳥の上に立つ男に向かって飛び出した。しかし、


「遅い」

「う、ぐあっ…!!」

『チョッパーさんっ!!!』


2階の手摺から飛んだ彼の身体を、槍で叩きつけた男。声を上げて、彼の元へと駆け寄ると、フラフラの身体でゆっくりと起き上がったチョッパーさんは、また私の前へ。


「名前には、手を、出すな、」

「そんなに先に死にたいのなら、先ずは貴様からだっ!!!!」


向けらた槍の先端がチョッパーさんへと向かってくる。けれど、チョッパーさんに逃げる気配はない。
どうして。いや、そんなもの、少し考えれば分かるじゃないか。彼が動けば、槍は当然、その後ろにいる私に向かってくる。戦うことは愚か、ろくに動くことも出来ない私に。だからチョッパーさんは動かない。

私を、庇うために、彼は、動けない。


『っやめてっ……“や め て え え え え え え!!!!!!!”』

「!?」

「なに!?」


チョッパーさんに槍が突き刺さると思った瞬間、張り上げた悲鳴。辺りの空気を揺らしたそれに、バサバサと森から鳥の羽音のような音が聞こえてくる。
涙で濡れた瞳でチョッパーさんを見ると、目を丸くして固まっている彼には、槍はまだ突き刺さっていない。それどころか、何かに驚いたように呆けた顔で槍を見つめている。


「今…何がっ……槍が、弾かれた…?」

『え…?』


弾かれたって、どういう。呆然としているチョッパーさんに声を掛けようとした時、バサりと聞こえた羽音と、目の前に背後から伸びてきた大きな手。
気配に気づいて慌てて振り向けば、頬を襲った衝撃に身体が甲板へと叩きつけられる。


「名前っ!!!」

「…女、貴様一体何をした…?」

『っ……』


裏手で頬を打たれたせいか、それとも打ち付けられた衝撃からか、切れた口から血が流れる。
何をしたって、私は何もしてなどいない。ただ、悲鳴を上げることしか出来なかったのだと、怯えて揺れる瞳で男を見あげれば、そんな視線が気に食わないとばかりに男の目が鋭く細められる。


「まあいい、死ねばそれで終いだ」

「名前ーーーーー!!!やめろおおおおおおお!!!!」


再び振り上げられた太い槍。目前に迫ってくるそれに、“死”を覚悟した時、


ガキイイィィン!!!


「少々待たせた」

「……!!!!空の騎士ー!!!!」


男の槍を受け止めたのは、同じく鉄の槍を持つ、空の騎士だった。
空島 12

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