「通っていいよ、それに、通らなくても…いいよ」
ルフィさん達が見つけた門。そこに向かった私たちを待っていたのは、一人のおばあさん。よく見ると背中には羽が生えており、ルフィさんは「天使だ…!天使ってあんなんなのか………!!あんな梅干しみてェだ」と驚いていた。
門を通るにはお金が必要、なのかと思いきや、どうやらお金がなくても通ることは出来るらしい。それじゃあこのおばあさんってここで何をしているのだろう?と首を傾げる私を他所に、「金はねェけど通るぞ、ばあさん!!!」と特に気にする様子もなく進もうとするルフィさん。この世界では、私の方が非常識なのかもしれない。
「そうかい、8人でいいんだね?」
「?…うん!でもよ、どうやって登ったら、」
いいのか。おそらくそう問おうとしたルフィさんの声が止まる。なぜか。それは、突然船が大きく揺れたからだ。「何だ!?」「なによこれ!?」とウソップさんやナミさんが声を上げる中、あまりのスピードに尻もちをつけば、「大丈夫か!?」とチョッパーさんに心配されてしまう。
白く細い雲の道をぐんぐん登っていくメリー号。
あっという間に雲の道を通り抜け、飛び出すように上へと弾きでた私たちの目に映ったのは、
「島だ…!!!」
「空島だーーーー!!!!」
大きな白い雲と緑の木々に囲まれた、“空島”だった。
***
「ほら、これ着なさいよ」
『………いえ、あの、これは…ちょっと…』
折角のビーチなのだから!と着替えるために女部屋に向かったナミさんとロビンさん。そんな二人を見送ろうとしのだけれど、ナミさんの手によって、何故か私も女部屋へ。「貸してあげるから、着替えなさいよ」とナミさんチョイスによって選ばれたビーチスタイルの服。短いデニムのショートパンツとこれまた露出の多い淡い水色のノースリーブのシャツにぶんぶんと首を振る。
「なによ、私の服が気に入らないわけ?」
『いえ、そうじゃなくて…その、露出が…』
「これくらいで何言ってんのよ?若いんだから、出せる所は出しなさい!」
『出せる所なんてないです…』
「お二人みたいにスタイルよくないので、」と困ったように笑えば、呆れたようにため息をついたナミさんとくすくすと笑うロビンさん。ナミさんは、その素晴らしいプロポーションを惜しみなくさらけ出すように、上はビキニのみ。下はカジュアルなハーフ丈のカーゴパンツで、とても動きやすそうだ。ロビンさんは丈が少々短く、胸元も広く開いている身体の線がよく分かる黄色のノースリーブに、黒のスタイリッシュなパンツだ。二人ともよく似合っていて、そして、私なんかとは比べ物にならないほどスタイルがいい。何か変なことを言ったかと二人を見比べると、くすりと微笑んだロビンさんが、そっと目を細めた。
「大丈夫よ、その服、とっても似合うと思うわ」
『でも、私、ナミさんとじゃサイズが…』
「それ、小さくなったやつだから丁度いいと思うわよ、ほら、さっさと着替えなさい」
「あんまり駄々こねるなら無理やりひっぺがすわよ」とじろりと睨むような視線を向けられては、さすがに着ません!なんて言うことが出来なくなる。うっと顔を引き攣らせ、仕方なく貸してもらった服に袖を通すと、確かに丁度いいサイズ感に思わず感心してしまう。けれど、
『…やっぱり露出が…』
「ほら、行くわよ」
どうやら私の意見は聞き入れて貰えないらしい。ナミさんに腕をひかれて外へ出ると、「あ!サウスバード!」と思い出したように声を上げた彼女は慌てて船室へ。そう言えば、捕まえたサウスバードがいたのだった。体を隠す布面積の少なさに無意識に腕を摩ると、「大丈夫よ」と後から出てきたロビンさんが安心させるように笑う。
「やっぱりとっても似合ってるわ」
『そう…でしょうか…自分じゃこういう服はあんまり着ないので……』
「なら、たまには“冒険”してみてもいいんじゃないかしら?」
「折角“冒険”に来たんだもの」と楽しそうに笑むロビンさん。確かに、こういう冒険もたまにはいい。かも、しれない。でも、やっぱりちょっと心もとない。サウスバードを逃がしたナミさんが、ロビンさん何かを話したかと思うと、「さ!行くわよ!」と船から飛び降りて空の海へ。はしゃぐルフィさんたちの元へと向かうナミさんの姿を目で追いながら、船首の方へと近づくと、まだ一人残っていたゾロさんと目が合い、そして何故か小さく目を見開かれる。
『?ゾロさん?どうかしましたか?』
「……いや、なんでも」
『そう…ですか…?』
ふいっと視線を逸らしたゾロさんに、小さく首をかしげていると、愉しそうにくすくすと笑うロビンさんが歩み寄ってくる。何がそんなに面白いのだろうと彼女を振り返ると、少し意地悪く目を細めたロビンさんが口元に弧を描く。
「ギャップってやつね」
『ぎゃ…っぷ……?』
「…ほら、お前もさっさと行ってこい。ルフィのやつが呼んでんぞ」
ギャップって何が?と瞬きを繰り返す私に、ゾロさんが親指でビーチの方を指し示す。「名前ー!!早く来いよー!!」とぶんぶん手を振る彼に、小さく手を振り返し、ゾロさんの言う通りビーチへ向かうことに。
『ロビンさんは?』
「ええ、もちろん行くわよ」
頷くロビンさんを確認してから、おそるおそる船から下を覗く。…このくらいの高さで、下は浅瀬の海。けれど、先ほどゾロさんがこの島の基盤はふかふか雲だと言っていた事を考えれば、ナミさんのように飛び降りれるだろう。勇気をだして、ひょいっと船から下へと降りれば、上手く着地出来ずにその場に膝と手をつく。「大丈夫?」と上から声をかけてくれるロビンさんに苦く笑って頷いてから立ち上がると、「こっちこっちー!」と未だに手を振るルフィさんの元へと向かう。
「すげぇよな!!ここ!!冒険の匂いがプンプンすんぞ!!!」
うおおおお!と声を張り上げるルフィさんはとても楽しそうだ。私が来たことを確認すると、ビーチを走り回り出したルフィさん。そんな彼に続くようにウソップさんもビーチを駆け、ナミさんは羽が伸ばせると喜んでいる。「これがビーチか……」と寝そべってゴロゴロと転げ回っているチョッパーさんの姿が可愛らしい。皆それぞれ思い思いに過ごしいる中、「ナミさん、名前ちゅわーん、お花〜〜〜!」と目をハートにしたサンジさんがこちらへ。花弁が風船のように膨らんだ赤い花を持って駆け寄ってきた彼に「不思議な花ですね」と声をかけると、ふと、足を止めたサンジさんが驚いた顔で立ち止まる。
『…サンジさん?』
「え?…ああ、いや、その…名前ちゃん、着替えたんだね」
『え?あ…はい、ナミさんが貸してくれて、…やっぱり変ですか?』
「いや!変なんてことないさ!すげぇ似合ってるよ。でも、」
『でも?』
「…いや、似合いすぎててビックリしただけさ」
「可愛いよ」と微笑むサンジさん。そんな彼に顔を赤くしてしまうのはしょうがないと思う。「あらあら、」といつの間にか船から降りてきていたロビンさんが私たちの様子にくすくすと笑っていると、ポロロンポロロンとビーチに響いた柔らかく綺麗な音。なんの音だろう。優しく鼓膜を揺らすその音に耳を傾けていると、音の方に見えた確かな人影。あれは。
「天使だ!!!」
「へそ!!」
にっこりと美しく笑ってそう言った彼女に、今なんて?と聞き返したくなったのは、私だけではないだろう。
空島 10