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『っゴホッゴホッ!!』

「っおい、大丈夫か?」


大きく咳き込む私に、ゾロさんが眉根を寄せて背中を撫でてくれる。「はい…」と力なく頷いてはみたけれど、正直まだ息が落ち着かない。

積帝雲の中へと突っ込んで行った私たちを待っていたのは、“水”だった。突然の水中に、息苦しさと、そして、押し戻すように流れる水の流れに身体が運ばれそうになった時、そんな私の腕を掴んで助けてくれたのがゾロさんだった。

漸く水中から開放され、息も絶え絶えのまま「すみません、さっきはありがとうございます」とゾロさんにお礼を言えば、気にするなと言うように首を振る彼の肩も未だに大きく上下している。他のみんなは大丈夫だったのだろうと甲板を見渡そうとすると、「おい!!!おいみんな見てみろよ!!!船の外っ!!!」というルフィさんの興奮した声に自然と視線が船の外へ。すると、


『う、うそ……』

「何だ!!?ここは!!!真っっっ白っ!!!」


見渡す限りの白い海。うそ。本当に雲に乗ってるの…?“空島”ときいて、真っ先に雲に乗れそうだとイメージしたけれど、それはあくまで空想だ。本当に乗れるだなんてそんなこと思いもしなかった。
呆気に取られたまま白い海を見つめていると、「雲の上…!!?何で乗ってんの……!?」と信じられないとばかりにナミさんが声を上げる。そんな彼女の声に「そりゃ乗るだろ、雲だもんよ」とケロッとした顔で返したルフィさんに「イヤ、乗れねえよっ!!!」チョッパーさん達が3人がかりで突っ込んでいた。どうやらルフィさんは、空に浮かぶ雲の仕組みを知らないようだ。小学生の頃、先生に“雲には乗れないんですよ”と教えられた時の落胆を思い出し、今こうして雲の上に乗っている自分がやはり信じられず頬を抓れば、「何やってんのよ?」ナミさんに呆れたように息を吐かれる。


『…信じられなくて、つい…夢なんじゃないかなって…』

「まあ、気持ちは分かるけど。でも、夢なんかじゃないわよ。今あんたが目にしてるのは、全部現実なんだから」

『げんじつ……』

「こういうの目にしちゃうと、あんな目にあって登ってきた甲斐があったと思わない?」


ウインクをしながらそう言って笑うナミさん。そんな彼女に「メロリーん!」とサンジさんが目をハートにしている姿が目に映る。
ナミさんの言う通り。これは、現実だ。ひりひりと痛む頬がそれを証明している。大きく息を吸ってもう一度ぐるりと白い海を見渡す。これは、きっと“向こうの世界”では決して見ることの無い景色だ。それを今、私は目にしている。白い海を見つめたまま「はい、」と大きく頷いた私にナミさんが嬉しそうに笑っていると、「ログポースはどう?」とロビンさんがナミさんに問いかける。


「まだこの上を指してる!!」

「どうやら、ここは積帝雲の中層みたいね…」

「まだ上に行くのか………?どうやってだ…?」


ナミさんとロビンさんの会話を聞きながらも、視線はずっと白い海に向けていると、「第1コース!!キャプテン・ウソップ泳ぎまーす!!!」と叫んだウソップさんがわっはっはっと笑い声をあげる。無茶するなとサンジさんが止めてはみたけれど、「海は海さ」と飛び込んでしまったウソップさん。大丈夫なのだろうかとハラハラしながら彼の潜った海面を見つめていると、何かに気づいたロビンさんがはっとしたように口を開く。


「思うんだけど………ここには……“海底”なんてあるのかしら」

「「!!」」

「まさか…!!!」


海底がない。つまり、この白い海の下に待っているのは。さあっと顔色を悪くして「ウソップさん!!」と海に向かって叫ぶ。もちろん返事など帰ってくるはずも無く、唇を噛み締め泣きそうになっていると、「ウソップーーーーー!!!」とルフィさんが海に向かって腕を伸ばした。


「できるだけ腕を遠くに伸ばして!!!」

「でも下は見えねえから勘だ…!!」

「大丈夫、任せて………“目抜咲き(オッホスフルール)”!!!」


目を閉じて両手を胸の前に交差させるロビンさん。彼女は“ハナハナの実”という悪魔の実の能力者らしく、自分の体部位を花の花弁が咲くように現すことが出来るらしい。暫くすると、「いた!!」と声を上げたロビンさんからほっと息が漏れる。閉じた目を開いた彼女は安心したような笑って「OK!!引きあげて!!
!」ルフィさんにいう。よかった。ウソップさんはどうやら助かったらしい。ほっとしたのもつかの間。ルフィさんによって引き上げられたウソップさん。けれど、そんな彼と共に白い海面から現れたのは、


『ひっっっ!!?な、なにあれ!?』

「いやああああああ!!!」


大きな体躯と手足を持ったタコと魚。ナミさんとしがみつき合いながら悲鳴を上げていると、「名前ちゃんとナミさんをこわがらせるんじゃねえ!!」「作戦が失敗すんだろ!!!こんりゃろー!!」とルフィさん、ゾロさん、サンジさんによって2匹はあっという間にやられてしまった。
というか、今また作戦と聞こえたような。
クリケットさんの元を訪れた時にも何度か耳にしたけれど、一体なんのことなのだろうか。


『…あの、ロビンさん、』

「なあに?」

『えっと…皆さんが言ってる“作戦”って、一体、』

「ギャアアアアアアアアア!!!」

「うるっせえな、今度は何だウソップ!!!」


ロビンさんへの問いかけを遮るように響いた悲鳴。ウソップさんのそれに、何事かと彼を見ると、奇妙な魚を持って震えている姿に見ているこっちまで顔が青くなる。「空島コワイ、空島コワイ」と嘆く姿は非常に気の毒で、眉を下げてウソップさんを見つめていると、「バカやろう!ウソップ!!名前が怖がるだろう!!」とルフィさんが慌てて彼の口を塞いでいた。


「名前!!空島は怖いとこなんかじゃねえぞ!!すげぇ楽しいから!!」

「説得力なさすぎるだろ…」

『あ、あははは…』


何故か必死に弁明するルフィさんに呆れたような息を吐くゾロさん。確かに、とゾロさんの言葉に内心同意しながら乾いた笑みを浮かべていると、ガチャんっと何かの落ちたような音がして、視線をそちらへ向ける。どうやらチョッパーさんが双眼鏡を落とした音らしい。落ちた双眼鏡を拾って、「どうかしましたか?」とチョッパーさんに歩み寄ると、アワアワと吃って何を言っているのかよく分からない彼に「わかんねえ、落ち着け!!!」とゾロさんがため息をつく。


「何だっつーんだ………!!人だ!誰か来るぞ!!!」

「なに!?」


何かに気づいたサンジさんが、目を細めて睨みつける先。そこから向かってきたのは、仮面をつけ、大きな武器を持つ“誰か”。


「排除する…」

「やる気らしい…」

「上等だ」

「何だ何だ?」


低く低く発せられた声はとても冷たい。きゅっと唇を引き結んで、「下がるわよ!」とナミさんに手を引かれて後ろへさがれば、向かってきた仮面の男の攻撃をもろに食らい、甲板へと倒れるルフィさんたち。

いやだ。なに、これ。なんであの人は攻撃してくるんだ。怖い。嫌だ。やめて。怖い。

唇を震わせ、足を竦ませていると、空に向かって飛び上がった仮面の音が持っていた武器をメリー号へと向ける。「ひいいいいい!!」と悲鳴を上げて抱き着いてくるチョッパーさんを受け止め、ぎゅっと目を瞑ったその時。


「そこまでだァ!!!!」


ギイイインと空に響いた鈍い音。突然現れ、仮面の男に向かって攻撃した鎧の人物は、メリー号の船縁へと着地する。


「何!!今度は誰!!?」

「うーむ我輩、“空の騎士”!!!」


仮面の男から私たちを救ってくれたのは、鉄の鎧に身を包んだおじいさんだった。
空島 8

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