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「行くぞーーー!!!“空島”ーーー!!!」


「うっほー!!」と雄叫びをあげるルフィさん。そんな彼とは裏腹に、私やウソップさんの顔は真っ青だ。

突き上げる海流。通称、ノックアップストリーム。その海流に乗ることが空島に行く唯一の手段らしい。ここに来るまでの道中、空島に行く方法を何も知らない私に懇切丁寧にそう教えてくれたロビンさん。突き上げるって、どんな海流なのだろう。と不安に思ったのもつかの間。突然空を覆った大きな雲と、高い波。そして、


『う、う、う、渦に!渦に飲み込まれて…!』

「このまま行けば、全員溺れて死んでしまうわね」

「やめろよ!!ロビン!!冗談に聞こえねえ!!」


「うわあああ!」と右に左に走り回るチョッパーさんのツッコミに「冗談じゃないわ」と真顔で返すロビンさん。そんな彼女の声に、さらに顔色を悪くする私の目に映ったのは、「ギャオオオオオオオオ」と唸り声をあげる大きな化け物。ひっと一歩足を引いた瞬間、小さくなっていく唸り声と共に海流の中へと埋もれていく巨体。あっという間に姿を消した化け物に、思わず口元を手で覆う。


「じゃあおめえら!後は自力で何とか頑張れよォ!!」

「ああ!送ってくれてありがとうなーー!!」

「待てーっ!!!」


手を振って海流から離れていくマシラさん達。今からでも間に合うのなら、どうかその船に乗せて欲しい。肩を震わせながら、涙目になる私と、涙を流しながら悲鳴をあげるナミさん、ウソップさん、チョッパーさん。おそらくこの三人は“まだ”私と同じ感覚を持っているのだろう。他の四人はというと、こんな海流何処吹く風とでも言うようにとても落ち着いている。
「空島なんて夢のまた夢だ!!」「そうよ!!ルフィ!!!やっぱり私もムリだと思うわ!!」と必死で中止を申し出る二人に激しく頷いていると、「夢のまた夢……!そうだよなあ」と呟いたルフィさんがゆっくりと振り向いた。


「“夢のまた夢の島”!!!こんな大冒険逃したら一生後悔すんぞ!!!」


にいっと歯を見せて子供のように笑うルフィさん。こんな状況なのに、なんて笑顔だ。顔を引き攣らせてにししっと笑っているルフィさんを見つめていると、くるりとその笑顔がこちらに向けられる。


「名前!!すげえ大冒険を楽しませてやるからな!!楽しみにしとけよ!!」


満面の笑みでそんなふうに言われてしまえば、私も帰りたいです。なんて言えるはずもない。なんとも言えない気持ちで「………はい、」ととりあえず頷いてみせれば、よし!と声を上げたルフィさんは再び海流へと視線を向ける。しかし。


「消えた!?」

『…え?き、消えたって…?』

「あんなでっけえ大渦が消えたんだよ!!!どういうこった!?」


先程まで海に大きな穴を開けていた海流。それが跡形もなく消えている。夢を見ていたのかと目を丸くしていると、同じように目を見開いて海面を見つめていたナミさんが、「違う!!!」と小さく声を張る。


「始まってるのよ……!もう…」

「………え」

「まさか………」


信じられないとばかりに目を見開くナミさん。そんな彼女にどういうことかとチョッパーさんと2人で首をかしげていると、「待ァてェーーーー!!!」と波の音をかき消すように聞こえてきた叫び声。何事かと今度はそちらへ目を向ければ、こちらに向かって進んでくる一隻の船の姿を捉える。


『……だれ?』

「さ、さあ…俺は知らねえけど…ルフィたちは知ってるみてえだ……」

『…お友達?ではなさそうだけど…』


何やら叫んでくる相手。聞こえてくるのは、“1億の首”だとか“海賊狩り”だとかとにかく聞き覚えのないものばかり。手配書がどうの、賞金首がどうのと騒いでいる皆に首を捻っていると、「もしかして、あなた、知らないの?」とロビンさんが長い指でルフィさんを指し示す。


「船長さんは、3000万の賞金首なのよ?もっとも、今は跳ね上がって1億の首になってるみたいだけれど」

『賞金首…??あの、それって、つまり……』

「その首に賞金が掛けられるほどの“極悪非道な海賊”、という事ね」


くすりと微笑みながらそう言ったロビンさんに、再び頬が引き攣る。「ちなみに私も賞金首よ」と美しく微笑んでみせる彼女の言葉は嘘だと思いたい。
日本では決して聞かない賞金首という単語。おそらく指名手配と同じような意味なのだけれど、決定的に違うのはその存在そのものに懸賞金が掛かっているという事だろう。ゾロさんに6000万、ルフィさんに1億。こちらの世界の通貨は確か日本とは違っていたため、価値に差があるかもしれないけれど、1億円だとすれば、そんな大金一生おめにかかる事は無いだろう。
なぜか喜んでいるルフィさんとゾロさん。そんな2人の姿はとても極悪非道な人たちには見えない。「驚いた?」と首をかしげるロビンさんに頷くと、「かえって怖がらせてしまったかしら」とロビンさんは眉を下げる。


『あんまり、実感がわかないです…賞金首だなんて言われても、私の知ってるルフィさんは、今目の前にいるルフィさんなので、』

「あら、あなたの目には船長さんはどんな風に見えているの?」

『……少なくとも、“極悪非道な海賊”には見えません。冒険が好きで、楽しいことが好きで、真っ直ぐに夢を目指して、子供のように笑う、それが…今、私の知っているルフィさんです』

「……そう、そうね…確かに、それが船長さんよね」


穏やかに微笑んだロビンさんは、ルフィさんを見つめたままそっと目を細める。どこか寂しげなその笑みに、彼女の名前を呼ぼうとした時、


「全員!!!船体にしがみつくか船室へ!!!」


ゴゴゴッという低い地響きのような音ともに少しずつ浮き上がっていく海面。まさか。


「ギャアアアアアアーーーーーーー!!!!!」


ズドオオン!という爆発音と共に、空に向かって伸びた水柱。これが、ノックアップストリーム、突き上げる海流。
ウソップさんの絶叫を聞きながら、海面とともに浮き上がった船に目を見張っていると、フワリと甲板から浮かんだ足。え、と思ったその時、ぶわりと吹いた風に身体が船から引き離される。


「名前ーーーー!!!」

「「「!!」」」


チョッパーさんの叫び声に、全員の視線がこちらへ。「名前ちゃん!」と叫び声を上げたサンジさんが手を伸ばしてくれるけれど、既に高く浮き上がってしまっているため、彼の手が届くことは無い。

もし、もしこのまま行けば、私は、

真っ逆さまに海へと落ちる自分の姿を想像して、瞳に涙の膜が張った時、「名前ー!!!」という大きな呼び声と共に力強く掴まれた腕。この手は。


『る、るふぃ、さっ……』

「あぶねえなあー」


まったくもう!とでも言いたげに顔を顰めたルフィさん。その腕の中に包まれながら、ぎゅっと彼の赤いベストにしがみつくと、ふとそれに気づいたルフィさんの手が、大丈夫だと言うように頭を撫でる。ゆっくりと顔を上げてルフィさんを見つめると、にっと笑った彼は「行けェ!メリー!!」と拳を突き上げた。しかし。


「ちょっと待った…!!そうウマい話でもなさそうだぞ」

「どうした!?」

「船体が浮き始めてる…!!」

『え…!?』


サンジさんの言葉に、船首に乗ったままのルフィさんの腕の中から海流と船の接面を見れば、確かに船が海流からすこしずつ離れていくことに気づく。つまり、このまま行けば、海流の流れから離れて、真っ逆さまに落ちてしまうということ。
先程海に飲まれた化け物が上から降りおち、そのまま下へと落ちていく姿に、ヒヤリと背中に冷たい汗が流れるのを感じながら、船首から甲板の方へとルフィさんと共に移動すれば、焦った声が皆からあがる。しかし、そんな中、じっと海流を見つめていたナミさんが、徐に声を上げた。


「帆を張って!!今すぐ!!!」

「え!?」

「これは海よ!!ただの水柱なんかじゃない!!立ち昇る海流なの!!!そして、下から吹く風は地熱と蒸気の爆発によって生まれた“上昇気流”!!!


相手が風と海なら航海してみせる!!
この船の“航海士”は誰!!?」


確かな自信を持って発せられた頼もしい言葉。なんて、なんてカッコイイのだろう。彼女が、この船の、麦わらの一味の、“航海士”。
「んナミさんですっっ!!!!」と目をハートにさせたサンジさんが彼女の問の答えを叫ぶと、じっと海流を見据えたナミさんが皆に指示を飛ばす。


「名前、降ろすぞ!!捕まってろよ!!」

『は、はい!』


ナミさんの指示に従うべく、私を腕の中から下ろしたルフィさんは、甲板を走る。今度はしっかりと船の柱へ捕まっていると、「わあっ!!ヤバいぞ!!水から船が離れそうだ!!!」とチョッパーさんの焦った声が。


「ううん、いける!!」


静かに、けれど芯の通った声でそう呟いたナミさんの声とともに水柱から離れた船体。しかし、メリー号は落ちることなくそのまま上へ上へと突き進んでいく。

すごい、船が、飛んだ。

目の前の光景にただただ目を丸くしていると、隣に立ったゾロさんが「へえ」と感心したように声を上げる。


『船が、船が飛ぶなんて、そんなこと、ありえないと思ってました……』

「…で?その“ありえない”光景を目にした感想は?」


どこか意地悪く問いかけられた言葉。
興奮からか、熱くなった頬をそのままにゾロさんを見上げると、ゾロさんの目が小さく見開く。


『すごくっ…すごく、胸が、ドキドキしてますっ…!』


今、自分がどんな顔をしているのかは分からない。けれど、きっと、まるで小さな子供のように目を輝かせているのだろう。どこか意外そうな顔をしたゾロさんは、ふっと笑みを零すと、大きな手で私の髪をかき撫ぜる。それがなんだか擽ったくて目を細めれば!いつの間にか船首の方へと戻っていたルフィさんから楽しそうな声が上がる。


「“積帝雲”に突っ込むぞォーーーー!!!」

「うおおおおおおーーーー!!!」


みんなの声に押されるように上へ上へと進んでいくメリー号。そして、そのまま、私たちを乗せた船は、白い雲の中へと吸い込まれるように消えていくのだった。
空島 7

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