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「猿山連合軍!!!ヘマやらかすんじゃねェぞ!!!例え何が起きようと!!!こいつらの為に全力を尽くせ!!!」


「うおおおおおおおおおおおお!!」とクリケットさんの声に呼応するように響く野太い声。その声ににっと口の端を上げたクリケットさんの横で船に向かって走るルフィさんの背中を見送る。

これで彼らともお別れだ。

“海賊”とは思えないほど、暖かくて優しい、とても素敵な人達だった。けれど、これ以上一緒にいる訳には行かない。私には、そんな度胸も資格もないのだから。

ぴょんっと船にルフィさんが飛び乗ったのを確認して、クリケットさんと共にフライングモデルとなったメリー号に歩み寄る。


「小僧!!おれァここでお別れだ!!ひとつだけ、これだけは間違いねェ事だ…!!

“黄金郷”も“空島”も!!!過去誰一人“無い”と証明できた奴ァいねェ!!!」

「うん!!」

「バカげた理屈だと人は笑うだろうが、結構じゃねェか!!それでこそ!!“ロマン”だ!!!!」


両手を広げ空を仰いで叫んだクリケットさん。彼の声が高い雲の上まで響き渡る。自然と緩まる頬をそのままに「“ロマン”か!!!」「そうだ!!!」という2人のやり取りを見つめていると、「ルフィ!そろそろ行かなくちゃ!」と言うナミさんの声に、メリー号から少し慌ただしい音が聞こえてくる。


「金を……ありがとよ………!!おめぇら、空から落ちてくんじゃねぇぞ!!」

「ししし!!じゃあな、おっさん!!!」


ルフィさんの別れの言葉と共に島から離れ出したメリー号。「ああ!この嬢ちゃんのことも任せておけ!!」と手を振ったクリケットさんに続いて、彼らにお礼を言おうと口を開いたその時、


「いや、名前の事はいいよ!!





やっぱ連れてくから!!!!」

『……え?』


デジャブ。とは、こう言う時に使うのだろうか。勢いよく伸びてきた腕に掴まれた自分の腕。目を丸くする私を他所に、まるでこうなる事が分かってたとでも言うようにクリケットさんが楽しそうに笑う。


「楽しんだもん勝ちだぞ、嬢ちゃん」

「くり、」


クリケットさん、と彼の名前を呼び終わる前に、地面から浮き上がった足。「い、いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」という絶叫とともに引き寄せられた身体は、あっという間に細く、けれど逞しい腕の中へ。


「しし、捕まえた!」

『っる、ルフィさんっ……!私は…!』

「守ったろ、約束」

『…え?』

「“怪我しねえ”って約束、ちゃんと守っただろ?だから、次もちゃんと守るからよ。“名前の事は俺が守ってやる”って約束」


「にししし」とイタズラの成功した子供のような笑みを浮かべる彼には、きっと悪気なんてものは一切ないのだろう。ただただ、彼は私に“冒険”が、“空島”がどんなものなのかを見せたいだけなのだ。
さすがに文句のひとつでも言ってやろうと思っていた筈なのに、目の前の屈託ない笑顔のせいでそんな気持ちが一気に萎んでいく。ああ、もう、なんて単純なんだ、私。眉を下げて仕方ないとばかりに笑んで見せれば、そんな私の気持ちを汲み取ったのか、嬉しそうに笑ったルフィさんは抱き締める腕に力込めた時、


「ぐえっっっ!!何すんだ!サンジ!!」


カエルの潰されたような声、というような声を出したルフィさんの身体が離れていく。ぽかんとした顔で後ろへ転がったルフィさんを見つめていると、額に青筋を浮べたサンジさんが低い声を彼に向ける。


「ルフィ…てめえ何一人でカッコつけてやがる!!おまけに、堂々と抱き締めたりなんかしやがって!!!」

「?なんだよ、サンジ、おめえ名前と一緒に空島行けるの嬉しくねえのか?」

「クソ嬉しいに決まってんだろ!このクソゴム!!つーかな!レディを守るのは俺の役目だ!!てめえはすっこんでろ!!!」

「それはダメだ!俺も名前と約束したからな!」


なぜかギャーギャーと騒がしくなり始めた甲板。どうしてこう彼らは元気なのだろうと、呆れ半分感心半分に見守っていると、「いい加減にしなさい!!」というナミさんからの雷という名の拳骨が落とされ、漸く喧騒がやむ。喧嘩をしていた2人を床へ沈め、はああああっと大きな大きなため息をついたナミさんと、ゆっくりと目を合わせると、大きな瞳をパチリと一度瞬かせ後、にっと笑ったナミさんは、ポンっと私の背を優しく叩いた。


「安心なさい、こいつら、やる時はやる男よ。だから、あんた一人増えたってなんの重荷にもなりゃしないわよ」

『ナミさん…』

「“素敵な冒険”になることを、一緒に祈りましょ」


誰もが見惚れるような笑顔でそういった彼女に「はい、」と頷き返せば、満足そうに笑ったナミさんは、再び集まっている皆に向かって指示を飛ばす。

波に乗って動き出した船。
向かう先は、もちろん、空島だ。
空島 6

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